クジ運最悪な俺とまだ見ぬ未来の少年少女6
今日も視界は四分の一灰色
四六時中、榊原一家に張り付いて不幸をぶっ壊すと決意してから一ヶ月。一先ず何にも起こらない。俺が雇ったボディーガード達は退屈そう。こんなに楽な仕事他に無いだろう?と胸を張ったら一人だけ「やり甲斐が無い」と契約更新を渋られた。コアラみたいな顔をした無愛想で全然喋らないミハエルの意外な一面。俺の歳からすると子供くらいの年齢で、なーんか暗い男。
榊原家が見えるギリギリに止めた車の中で、ミハエルと二人きり。空気が重たい。
「止めはしないよ。俺は雇用者がちゃんと働いてくれればそれで良い」
読んでいたワンピースのページを捲るのをやめてミハエルを見据える。
「この仕事の趣旨が分かりません。他人の生活を覗き見し続けるなんて」
への字の唇。ミハエルは明らかに苛立っていた。
「あの小さな病気の男の子。妙な病気なんだ。両親祖父母がいなくなったらスッゴイ大変。だから守ってやりたい」
なるべく表情には出さずに、でも俺は真実を口にした。
「何もここまでしなくても良いと思います」
ピピピン!ときた。
「金は欲しいけどストーカーなんて嫌だ。実に強欲だ。こんな仕事辞めてやる!とならないのは金が必要だからか?」
ミハエルは唇を噛んで拳を握った。言い返せばいいのに。雇い主にケチつける奴は少ないか。俺の報酬は他のボディーガードの仕事と比較してケタ違い。だって俺にとってのノブにはその価値がある。そして俺の貯金は銀行で勝手に増えて使わないと世の中に還元できない。ミハエルは貝みたいに口を閉じて俺から顔を背けた。
「黙ってちゃ分からない。伝えなきゃはじまらない。批判を言いかけたなら殴るつもりで口を開け」
真面目に働いてくれればいいから、採用は面接だけの直感。別に経歴なんて気にしない。俺自体がショボいし。ミハエルは根がどっしりしていて責任感がありそうと思ったから採用した。俺の事を変態道楽ジジイとか思ってるんだろうか。ならこいつの目は腐ってる。でも多分腐ってないだろう。俺の勘は冴えてるし、ジジイになって人を見る目も培われた。
「こんな犯罪まがい……」
「犯罪か。紙一重だな。ずっと見られるなんて気味が悪い。それは承知している」
図星を突かれて俺は大きくため息を吐きそうになった。しかし飲み込む。気味が悪いのと、榊原一家が霧散するのと比較したら前者の方が絶対マシだ。これか、価値観の押し付けは。しかし俺は絶対譲らない。
「何故こんな真似を?」
「あの一家は俺にとって特別だから。特別中の特別だから。ちゃんと話したいけど本人達に話したら意味が無いんだ」
「貴方こそ話してくれないと分からない。俺は金が欲しい。でもこの仕事に納得いきません」
どこまで何を話そうかなと考えていたら、榊原一家が総出で車に乗り込んだ。ノブは綿の毛布にぐるぐる巻き。また病院へ向かうのか。だから普通の暮らしなんて厳しい道はダメなんだと大声で叫びたかった。俺の方が親に相応しいという、畝って襲ってくる気持ちを抑え込む。ノブには本当の血の繋がった家族が一番必要だ。
「後をつけろ」
車を発進させる直前、爆音が鳴り響いた。俺の四分の一灰色な右目が一気に濁った。
嘘だと言ってくれ……
***
俺の目の前で榊原一家の空飛ぶ車にトラックが突っ込んで大爆発した。俺のせい?俺がノブの親になりたいと願い過ぎたから?ノブを育てる準備なんてしてきたからか?でも俺は望んだ。ノブの最高の人生は家族と暮らすことだって。
もしこれが既定路線っていうなら、こんなのあんまりだ。俺の幸せさえ木っ端微塵じゃないか。全部持ってかれた。
俺の視界は灰色。つまりノブは死んでないってことだ!
綿の毛布でぐるぐる巻きで、おまけに爆風に吹き飛ばされたのにノブは無事だった。燃え盛る毛布の火を消すと、無傷のミラクルラッキーボーイが現れた。湿疹が身体中に出てて無事ではないけど、生きてる。人生って多少は平等だと本気で思った。世界に一人だけの難病で祖父母両親を一気に亡くした代わりにノブは生き残ったんだ。
俺の未来眼は未来は変わると告げていた。どうやったら変えられたんだろう。タイムマシンがやっぱり必要だったんだ。24時間土下座してでも真に頼めば良かったと後悔に苛まれる。しかし俺は真の心を無下に出来ない。
だってあいつは俺の親友かつほとんど息子。息子の夢は絶対奪っちゃいけない。
こうしてノブは天涯孤独になった。俺は引き取る勇気が出なかった。未来から来た少年少女は俺が面白おかしく生きる原動力ではあったけど、いざ現実となると怖いだけだった。
だって他人を絶対に幸せにするって超難題。俺は六十年以上も自分の幸せしか考えてこなかった。無理じゃね?
***
榊原一家に突っ込んだトラックの運転手は急性大動脈解離とかいうやつだった。ずっと健康だったのに、その日突然病気に襲撃された。
誰も悪くない。本当か?
やり甲斐が欲しいと言っていたミハエルを再雇用した。ボディーガードの次は"事故調査委員会委員長"。委員会は俺とミハエルにそこらへんの頭が良さそうで、気も良さそうな弁護士を見繕った。
俺はトラック運転手の所属する会社を乗っ取ってみたけど、残業多いくらいで事故との因果関係はなかった。やっぱり誰も悪くない。速攻で"事故調査委員会"は解散。
このままじゃ榊原一家は無駄死にだ。それは嫌だ。
運送会社に新設部署を設置した。"突然死撲滅部"。真に現状の医療よりもメディカルチェックが可能なアンドロイド製作を依頼した。無理だと言われて、開発中だというスキャンニング機械が届いた。一先ずその機械の治験使用を請け負う許可を得て、メディカルチェックを行うのが"突然死撲滅部"の仕事になった。俺は案を出しただけで、手配はみんなやる気に満ちたミハエルと運送会社の社長がした。小難しいこと苦手だから丸投げした。
「この行動力はどこから出てくるんですか?」
「俺、金しか持ってないよ」
ミハエルは不思議そうにしていたけど、金は天下の回りもの。しっかり地に足つけて頑張っている奴が報われるのも当然。俺の金はそういう使われ方をするべきだ。でも俺って別に頭は悪い。持ってるのは当たりを引かないクジ運と、俺を惑わす未来眼、人よりちょっとマシな勘、そして金。使えるの金だけじゃん。
「貴方は変な人ですね」
自分でもそう思う。キャベツ農家が嫌で日本を飛び出して、面白おかしく遊ぶように働いて、好き勝手生きてきた。未来から来た少年少女、ノブとトモの思慕が俺の支えだった。
「よしミハエル、君は今日から俺の代理だ。この会社をやろう。前の社長と仲良くこのままクリーンな職場を維持するんだぞ。突然死も撲滅しろ。やり甲斐のある仕事だろう!」
夜逃げ第3弾。
無理とか泣き言を言ってられない。俺は迎えに行くしかない。父ちゃんと俺を慕うノブ、そしてノブが大好きなトモを育てあげて未来へ送りこむ。
そしたら俺はまた今みたいに誰かの幸せを支援できるマシな人間になれる。残業疲れで浮気するような阿呆ではなくて、価値のある人生。
この人生を捧げるのに相応しいのは、俺を支えてきたノブとトモだ。そして二人と楽しく暮らしたら俺の人生も超ハッピー!男なら逃げずに立ち向かうしかないだろう!
待ってろ子育て!
最高な人生作ってやる!




