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クジ運最悪な俺とまだ見ぬ未来の少年少女5

 俺の息子になる予定のジョナサン・サカキバラの病気の解明をしようとパスツール医師から研究と治療法について提案された。もちろんジョナサンの両親祖父母は了承した。


 そんな辛い道に行かなくても、家族仲良く科学のない土地に行けばいいんじゃね?と俺は言いたかったが、他人の俺にそんな権利は無かった。藍子への婚約破棄に対する慰謝料だと、俺はジョナサンに大量の寄付をした。金は腐るほどある。榊原一家にバレないようにパスツール医師に寄付した。偉大な医者には大量の報酬が必要だ。医者っていつ寝てるの?


 ついでに難病支援の道を選ぶことにした。俺って気がつくの遅過ぎる。金は天下の回りもの。あるところからは貰って無いところにはばら撒く。世の中には金を稼ぐ才能も必要だ。それにしても金だけじゃなくて夢も与えるスポーツ選手ってスゴイ。


 いつだか俺がプレゼントしたペンギン柄のマグカップでコーヒーを飲む(しん)と二人、"ジョナサンと未来"について語り合った。皇帝ペンギンは何千って雛から自分の子を見つけるっていうから、俺の尊敬ランキングにランクインしている。俺はペンギンパジャマを着て(しん)と自作のクッキーを食べながら話した。


「どう思う?(しん)


「今後彼らが一気に死ぬんじゃないか?そしたら君は地位と財力を盾にジョナサン少年を手に入れる」


 それだと俺と同じ結論。世界で二番目に頭が良いんだからもっと考えてくれ。アシモフ博士の写真を一瞥(いちべつ)したが、(しん)よりいつか劣るだろと頭から追い出した。118歳とか長生き過ぎだろ。弟子はいつも師匠を超える。アシモフ博士は俺の未来はどうやったって既定路線だとしか言わなかった。そんなの間違ってる。これから"世界一頭脳明晰"の座を手中にする男が新たな未来を切り開いてくれる。


「納得いかない。ジョナサンの幸福には家族が必要だ。止めないと。未来を変える!タイムマシはお前に作ってもらう!」


 俺の発言に(しん)は頷かなかった。


「タカ。僕は真の科学者になる」


 机の引き出しから古びた本を出すと(しん)が頭上に高々と掲げた。その右手には"UTOPIA 最後の世界大戦"


「どゆこと?」


 漫画"UTOPIA 最後の世界大戦"は自分たちが作った機械達に支配されて起こる戦争の話。A先生とF先生の頭の中ってどんなんなってたんだろ。


「こんな未来は許されない。発明品に対する責任を全うし、生涯を捧げるのが真の科学者だ。僕にタイムマシンの製作は荷が重い」


 漫画"UTOPIA 最後の世界大戦"を胸に抱きしめた(しん)の顔つきは、約30年の付き合いで初めて見る男の顔だった。硬い決意。メラメラと炎が燃えている。


「お前の頭脳は世界一だ!」


 抵抗したって炎は消せない。轟々(ごうごう)と燃え上がる火炎の柱。(しん)はもう、ひよっこ博士ではない。壁に飾られている、俺がかつて作った木彫りの名刺はもう役に立たない。


「僕はアトムを作るという夢を追い続ける。献身的なアンドロイドは幸せにしないといけない。僕は娘のアイカを幸せにする。愛し愛されるアンドロイド!世界を破滅させない科学!僕はその研究で手一杯だ」


 俺は(しん)に掴みかかった。初老の俺と若々しい(しん)。なのに黙って俺の拳を受け取った。俺って最低。


「タカ。君が教えてくれたんだ」


 "UTOPIA 最後の世界大戦"が面白過ぎて説得力があるせいだ。タイムマシンがあったら

AとFのやろうに必殺脳天チョップと説教してやるのに。こんなんじゃドラえもんはいつまで経ってものび太に会えないぞ!


「絶交だ!このクソヤロウ!」


 悲しそうに眉毛をハの字にしたけど(しん)は力強く首を横に振った。


「タカはまだ……」


「お前なんかと1年間くらい会うもんか!榊原(さかきばら)一家に張り付いて事故だか何だかを止める!ボディーガードも雇う!タイムマシンなんてなくても俺の全人生をかけて未来をぶっ壊してやる!ノブに最高の人生を作るんだ!」


 (しん)は何か俺に伝えらしいが無視した。怒りで(しん)を傷つけるのを自制したい。爆発する感情が抑えられない。兄貴しかいなかった俺の弟分。自立した目出度い日に砂をかけようとしている俺こそがクソヤロウだ。


「タカ……」


「お前なんか早くトモを作る努力をしろ!あんな可愛げのないアンドロイド、アイカもさっさと人間にしちまえ!畜生!」


 俺は(しん)の手から"UTOPIA 最後の世界大戦"を奪った。千切ろうとしてやめて、床に叩きつけようとして手を止める。この漫画の価値は希少性でも内容でもない。一人の男の人生を導き明るい未来を信じさせたということ。夢を与えた漫画。偉大な創作物。それを踏みつけになんて出来ない。


「タカはまだ親になってないのにずっとノブとトモの父親だった。僕も親になりたい」


 俺が顔をブルブルと横に振ると(しん)が続けた。


「それにタカに本当の親になってもらいたい。タカは30年以上ノブ少年に会うのを楽しみにして頑張っていたんだろう?」


 泣いて泣いて泣いた。


 (しん)が俺を撫でてくれた。俺はジョナサン少年を幸せにしてやりたいが、自分もノブ少年も幸せにしたい。どちらかしか選べないなんて間違ってる。しかし現実は残酷だ。


 俺は宣言通り榊原(さかきばら)一家にボディーガードをつけて、自分もストーカーした。


 この日から俺の左目は四分の一灰色(クオーターグレー)


 未来眼(フューチャーアイ)が選択をしろと俺を嘲笑(あざわら)う。


***


 鮮明だったノブとトモとの夏の思い出が不鮮明になった。未来がユラユラ揺れている。


 もしも俺がノブとトモのことを忘れて、二度と未来から少年少女が平成に現れなくても、確かに現実だったと残してやりたい。


 ノブとトモは心の優しい子供達だった。


 草野球チームのボブの孫が映画監督になると騒いでいたのを思い出して、俺はボブの孫にノブとトモの物語を語った。大いに脚色して最後は少年少女のハッピーエンド。いつか映画の題材にしろよとボブの孫に告げて、ボブにこっそり制作費を渡した。突っぱねられたけど押し付けた。金はあるんだ金は。でも欲しいものは金じゃ買えない。


 SF好きの俺はいつかこの映画を観るだろう。視界がクリーンに変わって、ノブとトモの事が記憶から消えていても胸に響くに違いない。同じくSF好きの藍子がジョナサンと共に映画館に行けると良い。俺と(しん)の難病支援研究センターがいつかジョナサンを病気から解放する。


 俺はいつだって未来は明るいって信じてるんだ。

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