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一気に階段駆け上がる?

 今日も舞台に立つ同級生を見つめる。嗚呼、無力だ。


 1つため息をつき、気合いを入れる。今は、劇の途中。こんなこと考えてる場合じゃない。

 今回はちゃんと台詞のある役だ。選ばれたからには、全うしないと。

 「大丈夫。絶対、上手くいく。あんなに練習したじゃないか。普通に歩くだけ。普通の、バイト帰りの大学生のように。普通に、いつも通りに、歩くだけ。大丈夫。大丈夫。」

 小声で呟きまくってる僕は、周りから見れば気味が悪いだろうな。

 チラリと舞台の方を見ると、もう出番がやって来ていた。

「……よし。やろう」


 舞台袖から歩き出し、スマホを起動する。よく見る、バイト帰りの大学生。スマホを見ながら、いじりながら、面白くもなさそうに、歩く。

 刑事が走ってくるも、スマホに夢中な大学生は気付かない。

「うわっ!?」

「っ…」

 無我夢中に走っている刑事も避けきれずに、肩がぶつかりスマホが転がった。

「いってぇなっ。どこ見てんだよ!?」

 刑事は、何も言わずに去っていく。

 おいおい。そこは、「すまん」って一言言うところだろ?

「おいっ。待てよ、おっさん!?」

走り去っていくのを見て、舌打ちしつつスマホを拾う。

 スマホは、、、大丈夫。傷が少し入っただけ。画面も割れてない。使えそうだ。


━パチン━

 電気が、消えた。舞台袖まで足音を消して走り、隅で座り込む。

 やってしまった。また、やってしまった。僕が、名前のある役を貰えない理由No.1<いきなりアドリブを入れる>。

 毎回、止めよう止めようとはするが、舞台の上ではそんなの吹っ飛ぶ。制御不能。

「…ぁぁ」

 一周回って、上がり症と開き直ろうかと思う。

 申し訳ない。本当に申し訳ない。

 このアドリブのせいで、有名な役者さんが「自分に自信がなくなった」と、舞台を休むことになったらしい。「そりゃ、いきなりやられて、慌てまくってたもんな…」と言う同級生の会話を耳にしたことがある。その役者さんに、土下座しに行こうかと本気で思った。ま、何処に住んでいるのかわからず断念したが。


「…ぁぁぁぁ」

 今度こそ、役降ろされるかも…。どうしよう。そうなれば、家に帰ることに……。どうしよう、どうしよう。

「あの…悠磨くん。団長が呼んでる…」

「…ぅん。ありがとう」

 怖々といった感じで話しかけてきた少女に礼を言い、重い足取りで控え室へ向かった。


 団長のいる控え室の戸をノックして、ドアを開ける。

「し、失礼します」

「ええ。入ってちょうだい」

 控え室の中には、椅子に座りこちらを向いている団長と、今回の脚本家の人がいた。

「そんな所に居ないで、こっちへいらっしゃい」

 団長に手招きされて、ソファーに座る。心臓が煩いほどに鳴っている。

「今回の話なんだけど…あなた、犯人役って出来るかしら?」

「…へ?犯人、役?ですか?」

「そうなのだよ。素晴らしいと思わないか!」

「…僕が、ですか?」

「あぁ、君にしかできない。逆に、君以外にやらそうとは思わないな」

「……」

 脚本家の人が、キラキラと輝いた瞳で、上気した頬で、楽しくてしかたがないという表情で話す。少しずつ、距離が近くなっていく。

「優ちゃん、止めなさい。うちの団員よ?」

「みーのケチ。少しくらい良いじゃないか」

「それで?やるの?やらないの?」

 団長と脚本家、どちらも目が語っている。やりなさい、と。面白いものを見せろ、と。

「やり、ます」

「よかった!じゃ、明日から稽古しよう。僕が直々にやってあげるよ!」

 僕に、二人の目から逃げる力はなかった。

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