10/12
きおく
山裾にある家で、茸を食べることは、なかった。帰るのは、夏と冬とだったから。春と秋との山を知らない。
山から下りて来るのは一苦労。時間も掛かる。山の天気は変わり易い。
山から下りて来た子どもたちが、雨具代わりに頭から羽負って来た着物を、乾かせてください、と言って。家先に、いくつもの着物を干したものだった、と、祖母が話してくれてたことがある。
母と父と、祖母と祖父とが話をしている。何も聞けない。何も喋れない。同じ所に居た、のに。同じ所に居る、のに。雨が降り始める。雨の日の、あの堤防には、誰も居ない。




