プロローグ
「尋や。一緒に夏祭りに参加してほしいんだが」
頭を下げながら雨谷圭が頼み込んでくる。彼のお願いは唐突である。
「お願いって言うのは分かるんだけど、いつも唐突すぎない!?」
へへへ。なんて、照れくさそうに彼は笑い尋の顔を見るなりポケットから雑に折り畳まれたチラシを見せてくる。なんでも有志で集まりライヴを行なうというものだった。
「僕、楽器できないよ?」
いやいや。そんな俺は無謀なことは頼まないぜ。と、ため息交じり肩を叩いてくる。
「尋にはスタッフとして手伝ってほしいのでござるよ。尋は器用だけどアニメじゃあないんだから今から楽器を始めたとしても流石に・・・ね」
「流石に・・・ね。ってなんか失礼だな。無理なのは確かにそうだけどさ。要するに使い勝手のいい雑用が欲しいわけね」
「いやいや!スタッフ!スタッフね!」
「分かったよ。僕でも力になれるならお手伝いさせてもらうよ」
流石、心の友よ。なんていいたげに雨谷は尋の肩を叩き。詳しくはまた連絡する。なんて言いながら教室をあとにする。と、平木志穂が尋の肩を叩いてくるなり、
「尋って本当にお人好しだよね。」
「暇だしね。志穂もどうせ手伝うんでしょ?お人好しだよね。痛い」
照れ隠しなのか、真似されたことに対してなのか、尋の頭を叩きため息をつく。
「それにしても夏休みに入る前に夏祭りってなんかいいよね」
「そう?なんで?」
「何となくだけどね。何となく夏休みって仲のいい人しか会わないじゃん?だけど、夏休み前だから夏祭り終わったあとの学校って何となく浮足立ってる感じがいいのよ」
志穂は眉間にしわを寄せながら。よく分からない。と、いいたげな顔でこちらを見てくる。
「まあ、そういう事だよ。」
「全然うまくまとまってないけどね。ま、尋がそう思うのは何となく、ほんの1ミリくらいは分かるかな」
何気ない会話をしつつ過ごしている。と、雨谷圭より連絡が着信。
【放課後より、スタッフ、演者たちの話し合いがあるため視聴覚室に集合】
尋、志穂は顔を見合わせため息をつく。
----------
放課後になり視聴覚室へと向かおうとするが、何故か尋はひとりぼっちで向かっていた。志穂は急用ができた。と、先に帰ってしまったのだ。嘘をつくわけではないだろうが、なんとなく、集まりが面倒くさかったようにも幼馴染の感が働いていた。視聴覚室へ着くと顔なじみがチラホラといる。きっと皆、雨谷達のバンドメンバーに捕まってしまった悲しき労働者であろう。どこの席に着こうか見ていると見かけた後頭部を見つけ、
「隣失礼しますね」
と、御崎の隣へと座る。予想もしていなかった尋に御崎もまた目を見開きながら顔を見てくる。
「そんなに驚くこと!?」
「い、いえ!尋先輩が急に隣に来られたので驚きながらも嬉しくて!」
「ありがとう。御崎ちゃんは相変わらず優しいね。」
「い、いえ!こ、光栄です」
すると、雨谷圭達メンバーが教壇へ着くなり
「スタッフとしてお手伝いをしてくれるメンバーになってくれてありがとう!!」
一部のバンドメンバーのファンたちのボルテージはマックスだったのかいちいち反応が熱々である。雄叫びのような変な輩まで出る始末。
尋、律の二人は顔を見合わせ苦笑いを浮かべるしか無かった。
「集まってもらったのに申し訳ない!!まだ詳細は決まっておらずこの週で再度連絡する!なぜ集まってもらったかと言うと!!!ノリ!!」
一部の熱狂的ファンたちは大喜びである。が、後の人々は唖然。あとは感謝のアコギライブが始まる。
「御崎ちゃん。流石に出よう」
「は、はい」
苦笑いを浮かべ二人は視聴覚室を後にする。学校に残る理由もなかった為、
「御崎ちゃんはもう帰れる?」
「わ、私ですか!」
「うん。もし良かったら一緒に途中まで帰ろうよ」
「も、もちろんです!」
お互いカバンを持って昇降口で待つこととなる。先に尋は着いていたため鼻歌を歌いながら待っている。と、
「お待たせしました!お待たせしてすみません!」
「全然だよ!僕も今だから大丈夫だよ」
−−−−−−−−−
まるで夢のようだ。秋鹿尋と一緒に下校できるなんて。自分の心臓の音が大きく波打ってるのが分かる。汗臭くないかな。息づかいが荒くないかな。たくさん話したいことがあるのに言葉がうまく出てこない。夏祭りって言う最大のイベントがあるのに誘えない。けれど、このままの距離感なんて嫌だ。御崎律はぐっと握りこぶしを作る。と、
「御崎ちゃんはさ夏祭り、」
「な、ないです!!全然ないです!!」
体の血が急速で流れているのが分かる程、火照ってくる。何を言っているんだ私は。それも尋の言葉に対して食い気味に答えてしまった。まるで、夏祭りに誘われることを前提に反応してしまった。尋もまた御崎の返答に驚きながらも微笑んでしまう。
「そっか!ならさ?雨谷のライヴの手伝いが終わったら一緒にたこ焼きとイカ焼き食べよっか」
「は、はい!私、甘いのよりしょっぱいのが大好きです」
「そっか、そっか。よし!終わったら屋台回ろう」
トクン。と、先ほどまでとは打って変わり優しい音が御崎の体を覆う。勇気を出してよかった。ふと、気が緩む。と、
「すてきな気持ちだね。羨ましい」
「え?」
「ん?」
御崎は何か誰かの言葉が聞こえた気がした。尋へ視線を向けるが不思議そうにこちらを見ているだけである。ふと、視線を上へ向けるとそこにはひっそりと静かに儚くゆらゆらと光る灯籠が目に入る。




