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第12話 調査団

第12話です。今回はちょっとだけ物語が動き始めます。


翌朝。

ギルドの宿舎に差し込む光は柔らかく、昨日までとは少し違って感じられた。

目覚めると、

ミアはすでに起きていた。

「……おはよう」

「ああ。

早いな」

「……獣人、

朝は強い」

小さく、

得意げに言う。

「そうか」

言葉が、

少しだけ柔らかくなっているのを、

自分でも感じた。

装備を整え、剣を磨き、何度も素振りをしている。

その様子を、怜は黙って見ていた。

かつての自分も、同じように“生きるため”に必死だったことを思い出す。

朝食を摂り、

ギルドへ向かう。

歩きながら、

ミアがぽつりと言う。

「……昨日の戦い、

どうだった?」

「判断が良かった」

「……ほんと?」

「ああ。

逃げる勇気があった」

ミアは、

少し照れたように耳を伏せる。

「……嬉しい」

——それだけで、

胸の奥が静かになる。

依頼は、

前日より少しだけ難しいもの。

だが、

問題なく終わる。

戦闘は安定してきていた。

ミアは無駄な動きを減らし、敵の動きを見るようになっている。

失敗しても、逃げず、学び、次に活かす。

怜は、少しずつ言葉を増やした。

「……今のは、悪くない」 「焦るな。呼吸を見ろ」 「背中は任せろ」

短い言葉だが、確かに“教える声”だった。

ミアはその一つ一つを大切そうに受け止める。

それが嬉しくて、主人公自身も気づかぬうちに、声が穏やかになっていた。

戦闘後、

ミアは息を整えながら言った。

「……前より、

怖くない」

「慣れだ」

「……でも、

一人だったら、

無理だった」

「一人じゃない」

即答だった。

ミアは、

驚いたように俺を見る。

「……ありがとう」

その言葉に、

俺は少しだけ間を置いてから、

頷いた。

夕方。

宿へ戻る道すがら。

ミアがふと尋ねる。

「……怖く、ないの?」

怜は一瞬、言葉に詰まる。

怖くないわけがない。

だが、それを口にするほど、まだ弱くなれなかった。

「……慣れただけだ」

それだけ答えると、ミアは小さく頷いた。

風が、

穏やかだ。

「……ねえ」

「どうした」

「……名前、

まだ聞いてなかった」

——来たか。

少し、

迷う。

だが。

「……レイ」

「レイ?」

「ああ」

それだけ。

だが、

それは大きかった。

「……じゃあ、

レイ」

呼ばれる。

名前で。

胸の奥が、

少しだけ痛んで——

温かい。

宿へ戻る。

今日は、

昨日より多く話した。

他愛ないこと。

街の食べ物。

依頼の選び方。

「……レイ、

笑うんだね」

「……ああ?」

「ちょっとだけ。

さっき」

無意識だった。

「……悪いか」

「ううん。

いいと思う」

そう言って、

ミアは笑った。

夜。

灯りを落とす。

静けさの中で、

思う。

復讐。

王都。

神。

——それらは、

まだ消えていない。

だが。

「……ミア」

「なに?」

「無理は、

するな」

「……レイも」

「ああ」

短い会話。

だが、

確かなものが生まれていた。

時間は、

ゆっくり進む。

心も、

少しずつ。

——夜が明けるたびに。


朝の街は、

いつもよりざわついていた。

露店の声が、

どこか落ち着かない。

人の流れが、

妙に一方向へ寄っている。

「……なんか、

騒がしい」

ミアが、

耳を動かしながら言った。

「……人が多い。

それに……」

「それに?」

「……鎧の音」

——嫌な予感がした。

ギルドの前には、

見慣れない一団がいた。

統一された装備。

紋章入りの外套。

冒険者というより——

公的な人間。

「……王都の調査団だ」

ギルド前で立ち止まった冒険者が、

小声で言う。

「調査団?」

「断魂の森絡みらしい」

——やはり。

噂は、

ここまで来た。

俺は、

ミアを一歩後ろに下げる。

「……近づくな」

「……うん」

だが、

聞こえてしまう。

聞き耳を立てる必要すらない。

調査団の一人が、

ギルド職員と話している。

「——森の外縁での異変。

瘴気濃度の低下。

魔物の激減」

「はい。

確かに、報告は上がっています」

「加えて——」

声が、

低くなる。

「“白髪の存在”について」

空気が、

張り詰めた。

「噂話でしょう?」

別の職員が言う。

「仮面を被り、

糸のような武器を使う存在など……」

「噂で済めば、

我々は来ていない」

調査団の男は、

淡々と告げる。

「断魂の森の“王”に関する

反応が、途絶えています」

——確信だ。

「……そんな……」

周囲の冒険者たちが、

息を呑む。

「現在、

森への無断侵入は禁止。

情報提供には報酬を出す」

金貨の袋が、

机に置かれる音。

「……情報提供……」

ミアが、

小さく呟く。

耳が、

不安げに伏せられる。

街全体が、

ざわめきに包まれていく。

人は、

噂を恐れ、

噂に惹かれる。

「……ねえ、レイ」

宿へ戻る途中、

ミアが声を潜める。

「……あの人たち、

怖い」

「ああ」

否定はしない。

「……もし、

森にいた人が……」

言葉が、

途切れる。

「……捕まったら、

どうなるの?」

少し、

考える。

「調査される。

利用される。

最悪——消される」

ミアが、

息を呑む。

「……じゃあ……」

「心配するな」

声が、

思ったより柔らかく出た。

「俺は、

ここにいる」

ミアは、

少し安心したように頷いた。

夜。

宿の窓から、

街を見下ろす。

巡回の兵。

調査団の灯り。

——監視が始まった。

仮面に、

指をかける。

「……レイ」

「どうした」

「……目立たない方が、

いいよね」

「ああ。

しばらくは」

「……でも」

ミアは、

俺をまっすぐ見る。

「……一緒に、

いるよね」

即答だった。

「当然だ」

その言葉に、

彼女は小さく笑った。

調査団は、

まだ街に着いたばかり。

だが、

彼らは必ず——

“白髪の存在”を探し始める。

白髪の冒険者。

異様な雰囲気を持つ男。

直接何かをされるわけではない。

それでも、視線は確実に増えていた。

そして。

神側も、

この動きを見逃さない。

静かな夜の中で、

運命の歯車が

また一つ、音を立てて噛み合った。

いかがだったでしょうか。面白いと思った方はこれからも応援をよろしくお願いします。

また、誤字・脱字があった場合にはいつものようにご報告をお願いします。

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