?° (9)
「……でも、考えるまでもありません」
飲み干してティーカップをソーサーの上に置く。
「ふむ?」
スタディンは自分のを飲もうとして手を伸ばしていたが、それをやめて俺の話に注力するようだ。
「俺は元の世界に戻りたいです。そして彼女に、ちゃんとありがとうを言いたい」
「ふむ、それが君の真意か。残念だ、ここに仲間が増えると思ったんだがね」
ここがどんな世界なのかということについて興味がないと言ったらうそになる。
でも、それでも俺がここにいるべき存在じゃないことだけははっきりとわかる。
それを伝えるとスタディンの顔は、確かに悲しい表情に変わっていた。
だがそれも一瞬のこと、これぐらいは慣れているといわんばかりに、右手をぎゅっと握ってから広げるとカプセルがあった。
「赤色のカプセルだな、どうやら君の心はすでに固まっていたようだ」
スタディンは笑っていた。
それすら見抜けないようなら僕もまだまだだ、と小さくつぶやいた後で俺にカプセルを渡してくる。
「それを飲むと急に眠くなってくるはずだ。次目が覚めると君は君の世界に戻っているはず。だが決心を揺らいではいけない、揺らげば君が戻るべき道を見失ってしまうからな」
薬はこれだろ、といってガラスのコップに水が入ったものをスタディンは俺に渡してくれる。
といってもテーブルの上に突然現れただけだったけど。
「ありがとうございます。またお会いできるのを楽しみにしています」
「ああ、僕も君がまたここに来ることを楽しみにしているよ」
薬を口に入れ、一気に水で流し込む。
薬は糖衣錠のように口の中ではとても甘かったが、飲み込んだら胃の中では突然苦さを感じた。
突然、頭の中で何かが言葉を発し始める気持ちがする。
それがだれの言葉か、ということはわからないが、はっきりとわかったことがあった。
目の前が渦を巻き、それが手洗い場の水のように一転から急に消えていく。
眠くなると言っていたがそれは違う。
もはや気絶のほうが近い雰囲気で俺は意識を失った。




