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【2巻発売中】転生皇女はセカンドライフを画策する  作者:


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449 飛翔する未来と父


かちゃり


いつものように執務室にノック無しで入ってきたタクシスが自席にポンと書類を置くと、アルヘルムに声をかけてきた。


「初視察のペルレはどうだった?」

「うむ。設計図や計画図で見てもっと質素な造りだと想像していたが、実際に見ると違うな。昼間は意外に品の良い街並みだったよ。夜は篝火でまたがらりと雰囲気が違うらしいがな。構造は船員同士の喧嘩が始まっても素早く処置できるよう兵の待機場や隔離ルートも考え抜かれていた」

「ジマーマンが、泊り込みで直接指揮していたからな」


ティシュラー・ジマーマン伯爵。

ジマーマン家は表向きバルク王宮の建設や修理を一手に引受ける貴族家だ。だが、その実は王宮の隠し部屋や通路の管理を代々している家なのである。


ペルレ島の全ての建物は、彼の手によって設計されている。無論フォルトゥナガルテンも今建設中の新しい街もだ。



「初めての実地教育は?」

「まぁ。まずまずと言ったところだろう。なにか思うところがあったようだ。帰りの船でアデライーデと話していた」


「アデライーデ様に? なにを?」

「詳しくは聞いてない。だがアデライーデは庶民の娯楽本を勧めたと言っていた」


「娯楽本?」

「男の子が好きそうな、英雄本ヒーローものだと言っていたな。学院の図書館で探すそうだ」


「まぁ、学院の図書館なら娯楽本と言えど、そうおかしな本はないだろう。個人サロンの図書室とかなら気をつけなければならないが」



王都では庶民でも文字が読める者は大勢いる。だが本は高価なので裕福層でも、そうそう気楽に本は買えない。だから主に高級カフェなどが富裕層向けに会員制(審査ありの有料)で、最新の小説や書籍を貸しだしている。


貴族は邸宅に図書室を持つ家が多い。中には自宅の図書室を開放し、収集した蔵書を同好の仲間で読み合ったりする。これが貴族の正統派のサロンである。


その為、朗読会をして感想を言い合ったり、ちょっとした寸劇などを仲間内で楽しむ用に貴族の図書室には小さなステージとソファセットが据えられていた。


サロンは文化・芸術の発展に大きな役割を果たすが、個人収集であるが為に学院には置けない本が置いてある事も多い。特にお年頃の少年少女にとっては…。



「まぁ、そう言う物にもこれから徐々に触れるさ」

「ペルレでは、なにに触れたんだ?」


「ヴェルフの人魚の話をした」

そう言うと、アルヘルムは執務室机にペンを置きソファに移ってきた。


タクシスは蜂蜜酒のボトルとグラスを二つテーブルに置くと、アルヘルムにグラスを勧める。



「フィリップはなんと?」

「なにも。しばらくは飲み込むだけだろうな。実際にその場を見た訳ではないからな。表には出せない事が『ある』という事を知るのがまず第一歩だ」

「そうだな。『見る』にはまだ早いな」


そう言うと、二口ふたくち蜂蜜酒を飲む間黙り込む。二人は遠い昔、夜の酒場からの帰り道に路地裏で見た現実を思い出していた。



「これからフィリップに少しずつ簡単な執務をここでやらせる」

「俺の机を明け渡す日も近いか?」

と言って、タクシスは笑った。



「ははっ、まだ先だな。まずはここで決裁済みの書類への代理署名からだ。お前の仕事も見せてやってくれ」

「肖像画の裏からか?」



宰相の小会議室の壁にはたくさんの絵画が飾られている。そのうちの一つの肖像画《初代宰相レオンハルト・ロレダンの肖像》の目には仕掛けがあり、裏から覗け声がよく聞こえる秘密の小部屋がある。


この小部屋は王のいない会議での貴族達の様子を見る為に作られていて、小部屋の存在を知るのは宰相と王だけだ。



「最初は同じテーブルにつける会議にしてやってくれ」

苦笑いをするアルヘルムに、タクシスが「ふん」と鼻で返事をした。



「フィリップは、私より早く現実を教えねばならぬからな。最初の敷居は低くしたい」

「親心だな」

アルヘルムとはフィリップの治世が自分達とはまた違う困難さがあるだろうとは度々話し合っていた。輝かしい未来には、その光の明るさだけ濃く複雑な影ができる。


今までは少ない国家予算を毎年どう割り振るかで悩んでいた。その為の知恵や経験なら幾らでも教えてやる事が出来るが、自分達も経験した事のない飛翔するバルクの舵取りをするフィリップの未来への備えを完璧に用意する事は難しい。


こちらも手探りである。

だが時は待ってくれない。学ぶ事が増えても良いように、少し早めに王としての教育をフィリップに受けさせる事になった。


もう少し子供でいさせてやりたかったという気持ちと、備えさせねばという気持ちが交差するアルヘルムは、グラスに二杯目の蜂蜜酒を注ぐ。



蜂蜜酒を口にしながら、何故か父や義父である皇帝の言葉や手紙の文面を思い出し、アルヘルムは父としてそれらを反芻した。


肖像画の目じゃなくて鹿の剥製の目から監視ツイン・ピークスししたいなと思いましたが、鹿の顔にフィリップやアルヘルムが顔を突っ込むと想像すると、ちょっと笑えたので定番通り肖像画にしましたw


イメージはカリオストロの城で不二子が偽金のチェックをする伯爵を覗いていた《総督レオナルド・ロレダンの肖像》がイメージです。

レオンハルトはレオナルドのドイツ語読み。


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― 新着の感想 ―
ジマーマン伯爵は未登場ですが、代々王宮の隠し部屋や通路の管理しているとは、王家の信頼は絶大ですね。 一代だけならともかく、代々王家の安全に直結する秘密を抱えているのですから、王家と一蓮托生という覚悟が…
フィリップの国王教育は今までのが通じない分、余計に大変そうですね。 それもこれも、アデライーデ(陽子さん)のせいだと思うと……うん(´・ω・`)
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