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クジ引きで勇者に選ばれた村娘。後に女神となる。  作者: ふるか162号
四章 魔導大国編

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22話 ミカルの欠点


 ミカルは剣を振り上げて一気に迫ってくる。


「たぁああああ!!」


 踏み込みは異常に速いのに、迫ってくる速度はそこまで速くない。

 一歩目の踏み込みの速度が速いのであれば、もっと速く動けるはずなのに、どうしてこんなに遅いの?


 ……あれ?

 一瞬、ミカルの姿が揺らめいた気がする。気のせいかな?

 いや、これと同じ動きを僕は見た事がある。


 僕は急いで【生体感知】を使う。これは魔法じゃなくて、僕からすれば感覚の一種だから問題ないでしょ? ズルくないよ。

 そんな事よりも、ミカルはどこに……?


 後ろか!?


 僕は目の前に迫るミカルを無視して背を向ける。するとそこには僕に斬りかかろうとするミカルがいた。


「な、なんですって!? 私の【朧斬り】を見破った!?」


【朧斬り】ってじいちゃんみたいだから止めてくれないかな。名前が気持ちが悪いよ。

 まぁ、じいちゃんが同じような動きをしていたから気付けたんだけどね。


 僕の剣とミカルの剣が合わさる。


「ふふふ。貴女やるじゃない。この技は師匠以外に見破られた事は無いのに。誇っていいわよ」

「そりゃどうも……」


【生体感知】を使わなくても避けられたとは思うけど、わざわざ言う必要はないかな?

 

 さて、この模擬戦を終わらせるには、首を狙うか……。でも、弾かれるだろうし……。

 僕が狙う所を吟味していると、「貴女、顔に似合わず恐ろしいわね。急所ばかり見ているわよ」と言われて、ちょっと焦る。


「そ、そんな事ないよ」


 誤魔化しておいたけど、気付かれたのには正直びっくりした。

 このミカルって奴、思っている以上に強いみたいだね。


「ふふふ。でもこれは避けられないわよ」


 ミカルは一歩下がり、流れるように斬撃を繰り出してくる。

 僕は斬撃を捌くんだけど、何度かに一度残像が織り交ぜられている。

 残像に引っかかってしまえば、流れる剣の餌食という訳か。これはなかなか厄介だね。


「私の【幻惑剣】にどこまで耐えられるかしら?」


【幻惑剣】か……。

 確かに、目で追っているだけの人には幻惑に見えるだろうね。

 ……。

 うーん。

 このまま捌くだけなら、いつまででも捌けそうだけど、それはそれで時間かかるし……。

 僕はボーっとミカルを観察する。

 こうする事で周りが見えてくるのだ。

 

 ……そっか。

 この技って、流れるような斬撃だからパターン化されているんだ。パターンが分かってしまえば避ける事も可能だけど、そんな事をすればパターンを変えられる。

 今は捌くのに集中して、狙う場所を見ないで考える。

 首や一撃で殺せる(・・・)ところは警戒されているから狙えないだろうし、どこを狙おうか……。


 いや、逆に考えよう。

 急所を狙えないなら、無力化できるところを狙えばいい。

 ミカルを無力化するには……、剣を握っている手首を狙えば剣を落とせるかな?

 うん。そこを狙おう。


 再びボーっと斬撃を見る。

 手首が一番無防備になるのは……見つけた。


 僕はミカルの斬撃を避けて、手首を斬り上げる様に斬撃を叩きこんだ。

 ミカルは急な僕の反撃に対応できず木剣は宙を舞う。


「ぐぁ!?」


 僕は痛がるミカルの隙を突き、足払いして倒した後、ミカルの喉元に剣を突き付ける。


「はい。僕の勝ち」


 僕は、剣を引っ込めて元の場所に戻ろうとすると、ミカルが立ち上がり腰の刀に手をかける。


「わ、私はまだ負けていないわ!! こんなの私の本気じゃない!!」


 そうだね。でも、僕も本気じゃなかったよ。

 流石に真剣を抜かれたら、僕もそれなりに対処するよ。死にたくないからね。


「ミカル!! それを抜いたら、殺し合いになるぞ!!」


 ミカルの行動を見たバトスさん怒号が地下訓練場に響く。

 ミカルもこれに驚いて刀から手を離す。

 いや、殺さないよ?

 ただ、半殺しにしてゴミ捨て場に捨てるだけだからね。


「お前も本気じゃないだろうが、みつきはお前以上に本気じゃない」

「なんですって!?」

「みつきは闘気はおろか【ゼロの魔力】も使っちゃいない。軽く移動するときに【身体強化】を使っていたくらいだ。それに比べて、お前はしっかりと【身体強化】を使っていただろう? これがお前とみつきの差だ」

「そ、そんな……」


 よし。【生体感知】を使っていた事はバレてないな。

 別にバレてもいいんだけど、ズルとは思われたくはない。


「それにみつきは単独で王種を狩れる女だ。お前にそれができるか!?」

「そんな事できるはずがないでしょう!? いえ、そんな事できる人間なんていないでしょう!?」


 いや、ここにいるよ。バトスさんも可能だろうな。

 でもミカルは……無理だろうね。


 今の模擬戦でミカルの全てを理解したわけじゃないけど、ミカルの剣は対人戦に特化しているような気がした。

 僕が【生体感知】を使って見破った【朧斬り】だけど、アレは目だけを頼りにしている人には有効だろうけど、魔物や本当に強い人には通用しないと思う。

 じいちゃんがこの技を使っていた時は、僕をおちょくる時だったしね。

 それに比べて【幻惑剣】は、本来ならばもう少し厄介な技なんだろうけど、ミカルがこの技を弱くしちゃっている。

 これはミカルの欠点になりうると思うんだけど、ミカルは攻撃が軽すぎる(・・・・)


 格下の人間(・・)相手なら有利に戦えるだろうけど、格上との戦いでは、この欠点を突かれて負けるだろうね。特に龍鱗や鱗……いや、全身鎧を着ている相手だったら、ミカルでは勝てないだろうね。

 

 ミカルに、一撃必殺の技があれば話は別なんだけど、多分それも無いと思う。


「分かった。そこまでお前が言うのなら、俺ともやってみるか?」

「えぇ。このまま馬鹿にされてたまるか!!」


 え?

 途中から話を聞いてなかったけど、いつの間にかバトスさんとミカルが戦う事になってる。


「みつき、剣を借りるぞ」

「う、うん。ば、バトスさんが戦うの?」


 僕はバトスさんに木剣を渡す。

 バトスさんは大剣使いだから、かなりのハンデになるんじゃ。

 バトスさんは僕の頭をポンっと叩く。


「お前は無駄に小さいからな。見た目で馬鹿にされるんだろ。お前と一度でも戦えば、見た目なんて何の意味も無いのが分かるはずなんだがな。まぁ、お前よりも弱い俺が勝てば黙るだろうな」

「……小さい言うな」

「ははは」


 バトスさんはミカルの前に立つ。


 ……げっ……。

 バトスさんが僕より弱い?

 何の冗談だよ。

 バトスさんは前よりも遥かに強くなっている。

 僕でも本気でやっても勝てるかどうかはわからないね……。

 少なくとも、ミカルにはどんな手を使っても勝てやしないよ。


「みつき、お前が始めの合図を出してくれ」

「うん」


 僕は二人の間に入り手を上げる。


「始め!!」


 僕が手を下げるのと同時にミカルが動く。

 やはり最初の一歩目の踏み込みが速い。

 この速い動きにバトスさんはどう対処するんだろう? と思っていたんだけど、バトスさんは動こうとしない。

 ミカルの姿が一瞬揺らぐ。

【朧斬り】か?

 でも僕の予想だとバトスさんには通用しない。

 バトスさんは僕と違って、百戦錬磨だ。【朧斬り】程度、見切れないはずがない。

 バトスさんは最小限の動きで、ミカルの斬撃を小手で止めた。当然、後ろから斬りかかるミカルに気付いてだ。


「やはり……軽いな」

「な!?」


 ミカルの剣を小手で受けたまま、バトスさんはミカルに木剣を振り下ろす。

 あ……これはヤバいやつだ。


「バトスさん、ダメ!!」


 ミカルは肩に強烈な一撃を貰い、そのまま地面に叩きつけられる。


 し、死んだ?


「バトスさん!! 殺しちゃダメだよ!!」

「殺してねぇよ!! ……って、死んでねぇよな?」


 バトスさんは少し心配になったらしくミカルを揺さぶる。


 ……知ってた?


 気絶している人をあんまり揺らしちゃダメなんだって。よいやみが気絶した時に激しく揺すってたら、いつきさんに止められた時に教えて貰ったんだよ。気絶した人を揺さぶり過ぎると死んじゃうかもしれないからダメだって。


 バトスさんはミカルの息を確認する。


「よし、息はあるな……。心臓も動いている」


 バトスさんは心底ホッとした顔をしている。焦ったんだろうなぁ……。


 ミカルが目を覚ましたのは三分後だった。

 そして、目を覚ますなりバトスさんを睨みつけて「ひ、卑怯よ!! 小手で受けるなんて、死合では許されないわ!! 私が真剣を使っていたら、その腕を斬り落とせていたはずよ!!」と叫びだす。

 いやいや。

 どう考えても無理だよ。


「ミカル。もし真剣を持っていたとしても、お前では俺の腕は斬り落とせねぇよ」

「なんですって!?」

「お前の剣は軽すぎるんだ。みつきと戦っている時からそう思って見ていたんだ。その軽い剣のお前にオリハルコンの小手を身につけた俺の腕が斬れるのか?」

「く……」

「そもそも、俺は元々相手の攻撃を小手で受けるからな。お前にも同じ行動をとっただけだよ」

「え? 僕と模擬戦をやってた時は、そんな行動をとったっけ?」

「お前相手にそんな事したら、腕を斬り落とされるだろうが。俺だって相手を見て行動するわ」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。その小娘なら斬り落とせていたみたいな言い方じゃないの!?」

「そう言ってるんだよ」


 しかし、剣が軽いという欠点はあっても、ミカルは冒険者としてはかなり強いと思う。なんでこんなに強い人がこの国で冒険者をしようとしているんだろう?

 バトスさんが詳しい話を聞くと、ミカルはレギーナの将軍の弟子で、師匠からこの国を調査するように言われたそうだ。

 レギーナの将軍って言うと……。


「それってゴロクさん?」

「な、なんで私の師匠を知っているのよ!?」

「え? ガスト行きの船で会ったよ」

「え? が、ガスト行きの船……? 小娘……あんた……もしかしてヒヒイロカネの勇者?」

「うん。そうだよ」

「嘘でしょ? あんたみたいな小娘が師匠が勝てないと言っていたヒヒイロカネの勇者ですって……?」


 ミカルはそれを聞いて、呆然としていた。

 ゴロクさんとは戦っていないんだけどなぁ……。


 ミカルが大人しくなった事で場が落ち着いたので、バトスさんが新人研修の話を始めた。

 説明は十分ほどで、バトスさんが三人を連れて準備を始めると言い出した。


「みつき。お前は家に帰ってゆづきを連れてきてくれ。今日は家にいるだろう?」


 ゆーちゃん、今日は勉強は休みと言っていたな。

 これが理由か。


「うん。多分僕の部屋で寝ているよ。それで、どこに行けばいい?」

「そうだな。西門前に集合だ。時間は一時間後だな」

「一時間? まぁ、いいか……。うん、一時間後に西門前だね」


 僕はゆーちゃんを迎えにお店に戻る。

 今日はよいやみも休みみたいで、部屋で何かを食べながら本を読んでいた。


「よいやみ。珍しいね。オフはだいたい買い食いに歩き回っているのに」

「今日は、一日ゆっくりするっすよ。最近はガストに行ったり帰ったりとバタバタしていたっすからね。みつきは今日は狩りじゃなかったんすか?」

「うん」


 僕は仕事内容を説明する。


「は? ゆっきーの協力って……、【ひーる】っすか? バトスさんは新人研修で何をするつもりなんすか?」

「ははは。ケダマに【ひーる】をかけるだけだから、危険はないと思っているんだって」

「もしもの時の為に、あしも行った方が良いっすか?」

「大丈夫だよ。よいやみも久しぶりのお休みでしょ。ゆっくりしときなよ」

「そうっすか?」


 よいやみはしょんぼりしていたけど、ゆっくりできる時はゆっくりしておいて欲しい。体を壊しちゃ、元も子もないからね。


 僕はベッドで寝ていたゆーちゃんをおぶって部屋を出る。

 お店から出ていく少し前に、ゆーちゃんが起きたので迎えに来た事を説明する。

 ゆーちゃんは話を聞くとニターっと笑い、僕から飛び降りる。


「みーちゃん、はよいこ」


 と僕の腕を引っ張る。


「うん。行こうか」


 僕とゆーちゃんは待ち合わせ場所の西門前で待つ。


「まだ?」

「そうみたいだね。準備して来るって言ってたけど……」


 ゆーちゃんと話をしていると、バトスさん達がやってくる。ルルさんも一緒に来ているみたいだ。


「待たせたな」

「どうしてそんなに大きな荷物なの?」


 三人はとても大きな荷物を持っている。

 ケダマ狩りに必要はないよね?


「今日は泊まりで研修だ。お前等は帰れるだろう?」

「う、うん。転移魔宝玉があるからね」

「転移魔宝玉って本当に便利よね。うちも早く欲しいわ。いつきちゃんはまだ販売しないつもりなんでしょ?」

「うん。まだ、量産化が難しいんだって」

「それは残念ね」

「それよりもルルさんはどうして新人研修に?」

「私はこの子達の薬草替わりよ」


 確かに怪我をしたら回復薬が必要になる。回復魔法が得意なルルさんがいれば、回復薬の必要はなくなるからね。

 しかし……。


「どうして泊りなの?」

「あぁ、こいつ等には今後のアロン王国での活動の事をしっかりと話しておく必要があるからな」

「例えば?」

「だいたいが魔大陸での狩りや依頼の事だよ。うちのギルドの依頼には魔大陸のモノも交じっているからな。こいつ等が普通の新人ならばランクの関係で魔大陸の仕事なんて受けられないだろうが、こいつ等はゴールドランクだ。魔大陸の仕事を軽はずみで受けて死んじまったら元も子もないからな」


 そっか。

 確かにその説明は必要だね。



 ケダマの住む林は、アロン王国から半日ほど離れたところにある。

 確かに馬車の旅なら日帰りでは無理だよね。


 狩場に到着した僕達はケダマを捜す。

 そういえば、ケダマって発生型なのかな? アロン王国で初めて見たから、僕も詳しくは知らないんだよね。

 そう思っていると、三匹のケダマが何もないところから現れる。

 発生型だったね。


「ケダマは都合のいい事に三匹だ。お前ら一匹ずつ倒せ。ゴールドランクのお前等ならば、目を瞑っても倒せるだろ?」


 バトスさんにそう言われた三人は一瞬でケダマを倒す。

 ミカルやラルスさんは一撃で倒せると思っていたけど、アーネさんも詠唱破棄の魔法で簡単に倒していた。

 流石はゴールドランクの冒険者だね。【流れ星の流星】とは違うね。


 三人はケダマに浄化の灰をかける。

 そういえば、ケダマって解体するとどうなるんだろう?

 僕は一匹ケダマを倒して道具袋に入れる。

 そんな僕の行動をバトスさんが見ていたみたいだ。


「お前、何してんだ?」

「え? アディさんにケダマを解体してもらおうと思って……」

「アディが忙しいのは、黒女神じゃない俺でも知っているんだぞ? ケダマみたいな雑魚の解体なんて頼んだら……アディに殴られるぞ?」


 僕は殴られるのが嫌で、ケダマに浄化の灰をかけておく。

 うん。痛いのは嫌だからね。


「さて、次にケダマが現れたら本番だ。ゆづき、さっき言った通りに頼む」

「うん」


 そういえば、さっき馬車の中でバトスさんが打合せしていたな。どういった事をするのかは秘密と言っていたけど、どうするんだろう?


 どっちにしても、ここからが三人にとって本当の研修の始まりだよ。

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