第二十二話「尊の血力鑑査」
「続いて瀧真尊様」
呼ばれた俺は返事をして一歩前に出た。
「瀧真様……?」
俺の名字を繰り返した痛々女の表情には疑問の色が浮かんでいた。
やがて得心したのか、顔を上げて俺の顔を真っすぐ見つめてくる。
「瀧真将様と瀧真美智恵様のご子息でいらっしゃいますか」
「そうですけど……知り合いなんですか?」
「覚醒血力者の名は全て存じておりますから。加えて珍しいご苗字ですので分かりやすいです」
苗字は確かに珍しいけど、覚醒血力者は全国に六万人もいる……全部覚えているなんてすごいな。
「期待していますよ」
楽しみにしている感じが伝わってくるのは気のせい……じゃないよな、痛々女だし。
むしろ斬り刻んで欲しいとか思ってそうだ。
いわれなくてもこれは試験だし、一切手を抜かず全力でやらせてもらう!
「……っ」
痛々女と向かい合い自然体のまま、右手に霊力を集めていく。
十分な量が集まると輝きを放ち始め、その光の中からまずは刀身の切っ先が出てくる。
さらに念じると刀身の残りが異空間から少しずつ引き抜ずり出されていき、二秒ほどかけて刃長二尺三寸(およそ六九・七センチ)の打刀を作り出した。
拵えや装飾などが一切入っていないため柄の部分は茎が剥き出しのままだ。
「通常血力者のままでしたか。私の記憶では瀧真将様は柄や鞘、拵えに装飾まで全て完璧に再現なさっていらっしゃいました」
何度かお父さんの血力も見せてもらったけど、痛々女の言う通り確かに全て細かいところまで再現して刀を作り出していた。
俺はまだ通常血力者だけど、これから昇華、覚醒と上がっていくにつれてお父さんと同じように精密な刀を作り出せるんだろうか。
「しかし茎剥き出しとは驚きました。持ち辛いですし斬る時も大して力が入らないのではないですか」
「自分も不思議に思ったんですけど、これが意外にもしっくりくるというか、手に馴染むというか……自分の体の一部みたいな感覚がして全く問題ないんです」
茎剥き出しでそこそこ扱えるから、柄も再現できるようになればもっと血力の精度が上がるかもしれないな。
「本人がそう仰るのなら問題ないのでしょう。本当に扱いやすいかはこれから実際に斬られてみれば分かる事。遠慮なくどうぞ」
「では……」
空いた左手を茎尻に添え、小指と薬指にきゅっと力を入れて締める。
切っ先を痛々女に向けて、正眼の構え。
左足は後ろに引き、右足は軽く前に出す。
深呼吸を一度、二度……。
三度目の空気を吸い込んだ直後、俺は地面を強く蹴った。
「ふッ!」
右上から左下へ斜めに袈裟斬り。
「……!」
痛々女が驚きに少しだけ目を丸める。
クラスメイトの誰の血力でも傷一つ付かなかった体に、一筋の赤い線が生まれたからだ。
「しッ!」
左から右へ向けての横薙ぎ。
浅かったが、この斬撃も先ほどと同じく痛々女の体に斬り傷を刻み込む。
「はああぁぁッ!!」
ドズッ、と鈍い音を立てて切っ先が痛々女の胸を貫き、背中から飛び出した。
茎を握りしめた右手に、肉を貫いた嫌な感触が伝わってくる。
「私の体を傷物に出来るとは驚きました」
……言いたいことは分かりますが、もう少し言い方を変えてもらえないでしょうか。
男としてやっちゃいけないことをやっちまった気がして俺も胸が痛いです。




