第二十三話「評価」
「んくっ……」
痛々女が小さく体をぴくっと一度震わせる。
「お見苦しいところを見せてしまい申し訳ございません。この身を貫かれる事など滅多に御座いませんから、凄く嬉しくてッ……い、痛いッ……!」
痛みを得ることで現存できている痛々女にとって死ぬほどの激痛は刺激的なものらしい。
あまり感情を表に出さないあの痛々女が恍惚とした表情をしていた。
「じゃあ抜きますね」
「待って! このままでいいわ……このまま続けます」
白い頬をほんのりと桃色に染め、熱っぽい吐息を吐く痛々女。
「ただの刀を作り出している訳ではなさそうですね。刀身自体に特別な力を感じます。威力については分かりましたので、あとは精度、燃費、範囲等を詳しく測らせて頂きます」
「再計測ということはもう一度刀を振るえばいいんですか? じゃあ抜きますね」
「このままで!」
ずいっと力強く一歩前に出る痛々女。
もちろん刀が刺さっているので傷がより深くなってしまう。
「あふんっ!」
もう一度びくっと体を揺らした。
……まぁ、刀は霊力がある限り何本でも生成できるから続けられる。
とりあえず鑑査員が続けろと言っているので、新たに刀を生成し痛々女に斬りかかる。
「あぁっ、いいッ! いいです! 凄くいいです!」
一本、二本……五本、十本……と傷を付けられるたびに痛々女が嬉しそうな悲鳴を上げていく。
俺の作り出した刀は一定時間が経過するとその大きさに比例して消失していく。
刀が消えれば新しい刀を生成して斬りつける……この繰り返しだ。
……………………。
…………。
……。
もう何分経っただろうか……まだ終わらない。
腕が痛い、握力も弱くなってきている。
範囲も見ると言っていたので一番長く作れる刀も精製したし、できるだけ短い刀も作って斬りつけた。
痛々女の胸に刺していた刀は既に消えており、今持っている刀ももう何本目か覚えていない。
それでもまだ終わらない。
痛々女の欲望に付き合わされているような気もするが……これは鑑査なんだ、血力鑑査なんだ、きっと俺たち学生では考えに及ばないとても高度で厳正なる審査が今、脳内で高速で処理されているに違いないんだ、きっとそうに違いないんだ!
「わき腹を斬って下さい!」
ザシュッ!
「次は首!」
ドシュッ!
「続いて足の腱!」
シュピッ!
「お腹!」
ドブシュッ!
「続いて背中!」
ズバシュッ!
「もう鑑査はどうでもいいのでこのままずっと私を斬り刻み続けてくださぁぁぁいッ!!」
「いい加減にしろオオオオォォォッ!!」
欲望に狂った痛々女の目を覚まさせるため、刀を脳天から一直線に振り下ろした。
「けぱぁッ!?」
強い衝撃を受けた痛々女は変な悲鳴を上げながら地面へうつ伏せに叩きつけられた。
当たる直前、左手をくるりと返すことで刃と峰を逆転させ峰打ちにしたので頭は割れていない……せいぜいデカいこぶができているだけだ。
頭を割られても生きているだろうが、脳漿を辺りにぶちまけるグロい光景を皆に見せるわけにもいかない。
「……………………」
誰も一言も話さず、音も立てず、辺りはしん……と静かになった。
嵐が通り過ぎた後の妙な静けさのようだ。
そんな気まずい沈黙が流れる中、痛々女がむくりと体を起こした。
「失礼致しました。我を忘れていたようです」
「そうですね。すんごく忘れていましたね」
来年は別の痛々女にしてほしいな……あ、痛々女だから反応は同じか。
「しかしご安心ください。分析はきちんと出来ておりますので」
「頼みますよ」
不満を乗せた口調で半ばキレながら言う。
俺に時間をかけすぎたせいか次の組がやって来てしまっており、建物の外で待っていた。
「精度はほぼ問題御座いません。短長どちらの刀も凄く良い出来でした。範囲も長さに比例していましたので刀の範囲でしか戦えませんね。これだけ長時間血力を使い続けたのですから燃費についても問題御座いません」
「ええ、本当に疲れましたよ、心身ともに……途中で俺、刀振り続けて何やってんだろうとか考えてました」
「前に作り出した刀が消えてから、新しい刀を作り出していましたね。何か理由が御座いますか」
「既に刀を持っているのに新しい刀を作ったらもったいないので。一度作り出した刀は最後まで使いますよ。一回だけ斬って終わりとかしたくないですね」
「成程。燃費が良く見えたのは刀が消えるまでの間に霊力が回復していたからなのですね。つまり一日中でも私を斬り続けて下さると……そういう事でしょうか」
「いいえ、そういうことではございません」
何かを求めてくるような視線を送られたので、横を向いて視線を無理やり切った。
「お疲れ様でした。瀧真尊様の鑑査は以上となります」
額にかいた汗を手の甲で拭いながらベンチで休む。
今日は帰ったらゆっくり休もう……。
「尊、おつかれさま」
「うん、ありがとう」
ねぎらってくれたみとせはさっきと同じ、言動が変わった状態のままだった。
「……っ」
みとせはいつものように俺のところへ近寄ってこず、少し離れたところにいた。
俺が刀を生成したときに限り、俺の近くへ寄ろうとはしない。
「ごめんなさい……何でか、苦手で……」
怖い物にでも触れそうな態度で、怯えた口調で言った。
「俺は気にしてないから、みとせも自分の居やすいように居てくれていいよ」
「ありがとう……」
俺から少し離れたところで佇み、残りのクラスメイトの血力鑑査を見守るみとせ。
最後がみとせで本当に良かった。
たぶん痛々女は即使い物にならなくなるだろうからなあ……代わりを今のうちに呼んできておいたほうがいいかな?




