020.焚き火での会話①
「漫才も終わったようだし真面目な話ししていいか?」
「アラルさん、漫才じゃありませんよっ!?」
不満げなリラは頬を膨らませる。
リラの前に移動したアムネシア。
彼女の頬を突っつきだした。
左の頬を膨らませば左。
右を膨らませば右。
両方膨らませば両方を突っつくアムネシア。
「アム、やめてやめないさって」
「おまえらはそのまま遊んでていいわ。真面目な話しは俺とアキトしか関係ねぇしな」
「アラルと俺だけ?」
「あぁ、さすがに四人とも一辺に寝るのはやばいだろ? だから見張りを俺とアキトで交代でしようや」
「あぁ、わかった」
「二時間交代でいいか?」
「わかった。いいぜ。でも時間なんてわかるのか?」
「あぁ、わかるぜ」
そう言うと懐から懐中時計を出してきたアラル。
金属製のようだが不思議な光沢をしている。
「これだ。時計って言うもんだ」
「それなら俺も知ってる」
「なら話しは早いな。最初は俺が見張りに立つからよ。三人は寝てくれや。アムネシアの事も含めて明日考えようぜ」
「わかった。リラ、アムネシア、寝ようか」
「あ・・あの私達も見張りした方がいいんじゃ?」
「気持ちは嬉しいがよ。万が一の時お前ら二人じゃ対処出来ねぇだろ? それにリラには魔力を回復してもらう必要もあるから今日は素直に寝ろ」
「え・・う・・うん、わかった」
こうして俺達三人はアラルを残して寝袋に入った。
その時にアムネシアに、寝袋の説明。
更には、寝る事の意義を教える破目になったんだけどな。
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寝袋に包まり寝ている三人から少しだけ離れた焚き火。
俺はその側で、一人周囲を警戒しつつ座っている。
考えている事は一つ。
行きがかり上で助けた少女、アムネシアの事だ。
今まで見たこともないような綺麗な銀髪。
瞳も片方が金でもう片方が銀。
記憶が確かならば、種類の異なる竜族が交配。
産まれてくる子の両目が、異なる色になる時があるらしい。
もし彼女が竜族と何かしらの関わりがある。
そうなのであれば、竜達がいたのも納得できない事ではない。
しかし、両目の色が異なっている場合は他にもあるか。
そもそも彼女が産まれた時からそうかはわからないよな。
竜族以外でも、極稀にではあるが存在するらしいし。
「それでも竜族がアンデッド化のような状況になったのは説明が出来ねぇ。あの娘は一体?」
状況も意味不明。
そもそも、アンデッドってのは、死んでからなるもんだ。
生きたままアンデッド化なんて、聞いたこともねぇ。
「誰かに狙われてて土竜が護衛だった? それにしたって本来ここらには竜族は生息してねぇ。何かの目的で来てたが襲撃された? じゃぁ何で彼女は怪我一つせず生きてた? それに裸足で平気でここまで歩いてきたようだし、謎だらけじゃねぇか。敵じゃねぇとは思うが・・・」
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「交代の時間だ、アキト起きろ」
少し重い瞼を開けた俺。
見えたのは浅黒い肌の野性的な少年の顔。
「うーん? あぁ、アラルか。交代の時間か?」
「あぁ、そうだ」
眠そうなアラルの顔。
俺は寝袋から這い出して一度体を伸ばした。
アラルは体を伸ばし終わるのを見計らってから、俺に懐中時計を差し出す。
「見張りよろしくな」
俺は、アラルから懐中時計を受け取った。
もぞもぞと寝袋に入り瞼を下ろして眠りに入るアラル。
程無くして、聞こえてくるアラルの寝息。
焚き火の側に座り周囲を警戒する。
周辺には生物の息遣いや気配は感じない。
時たま鈴虫のような鳴き声が聞こえてくる。
リィィィィリィィィィというような感じだ。
たぶん似たような虫が、周囲に生息しているんだろうな。
渡された懐中時計は光沢の割には軽く、アナログ式の針の動きも静かだ。
見た目は同じようなものでも、動いてる原理は全く違うのかもしれないな。
肌触りは金属製の冷たさがあり少しつるつるしている。
文字盤の数字は漢数字、それも大字って奴だ。
機会があれば構造とか原理とか調べてみるのもいいかもな。
何回か上蓋を開いたり閉じたりしてみる。
閉じるたびにカチッとはまるような音が聞こえた。
上蓋をロックする機構でもあるのだろう。
突然背後で微かにした布擦れのような音。
後ろを振り向くと、リラが寝袋から出て立っていた。
そのまま焚き火の方を向きながら俺の隣に座る。
俺も焚き火の方に体の向きを戻して座った。
隣同士で座っている形だ。
「悪い。起しちゃったか?」
「ううん、大丈夫だよ」
「そうか」
何か言おうとして、躊躇している。
そんな雰囲気を醸し出しているリラ。
何を言おうとしているんだろう?
「アキトさん」
「何だ?」
背後でアラルとアムネシアの二人が眠っている。
なので、俺もリラも声は抑え目だ。
「さっきはゴメンなさい」
「ん? 何か謝れるような事あったっけ?」
「えっと、さっき来たのは私の驚きの声を聞いたからだよね」
「あぁ、さっきのか? そうだけど、別に気にしてないよ。アムネシアの着替えを覗く事になったのは事実だしな。むしろ羞恥心のなさげなアムネシアの方が心配だけどな」
軽い口調で少し笑みを零してリラに微笑む。
「うん・・・」
「それで何に驚いてたんだ?」
「アムの着ていた服の肌触りかな? うまく言葉で説明出来ないけど不思議な感触だったんだ」
「何であんな半透明なんだろうな?」
「えっ?うん、凄い服だよね。恥ずかしくて私なら人前では着れないかな?」
「普通そうだろうな」
「でもアキトさんアムの裸見た後嬉しそうにしてたよね。私の裸よりアムの裸が好きなんだ?」
リラさん、何でそこでそんな話しになるんですか?
もしかして俺墓穴掘った?
ちょっと膨れっ面になっているリラ。
これはどう釈明するべきか?
迂闊な事言えないぞ。
「リラの体だってこれからだしさ。心配する事ないんじゃないか?」
あれ?
リラさんの表情が!?
阿修羅のように変わっていく?
「アキトの馬鹿!! もういい!!」
駄々っ子のようにポカポカと何度か俺を殴ったリラ。
そのまま、振り返りもせず寝袋に戻ってしまった。
何か逆鱗に触れてしまったらしい?
本当女の子って難しいな・・・。
「二人にだけ辛い役目押し付けるみたいだから、見張りの事相談したかっただけなのに」
微かにリラが何か言ったような気がした。
内容が気になったけど、更に墓穴を掘りそうなので、迂闊に聞けない。
墓穴を掘った理由を考えてみるが、さっぱりわからないな。
しばらくしてから、リラからも寝息が微かに聞こえきた。
俺は完全に弁解する機会を失ってしまったようだ。
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リラが眠りに落ちた後も、焚き火の前で俺は見張りの為起きている。
しかしこうしてただ何もせず起きてるだけって暇だな。
かといってこの場から離れるわけにもいかないし。
アラルはよく一人で起きていられたものだ。
いやもしかしたら、起きていられるために二時間なのかもな。
あえて短い時間にしたのかもしれない。
あれでちゃんと考えてるのかもな。
元の世界でも戦いの場に出てた事はある。
でもほとんどが攻める側の立場にいた。
守るというのとはちょっと違う。
けど、見張りというのは大変なのだと初めて実感している。
まぁ魔物や魔獣が普通に徘徊しているような世界だ。
村とかの中ならまだしも、周囲にあるのは自然だけ。
いつ何が襲ってくるのかもわからないわけだしな。
転寝とかするわけにはいかない。
眠気覚ましと気合の入れなおしも含めて立ち上がった。
寝ている三人を起さないように注意しながら、ゆっくりと柔軟体操をはじめる。
両手を前に突き出す。
足の爪先に指を伸ばしていく。
そんな感じで、時間を掛けながらじっくりと柔軟体操に勤しんでいた。




