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キオクの話  作者: 水鏡
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壱ノ話

小学校から帰ると、私は二階の自分の部屋へと飛んで行き、部屋のドアを半開きにして、その隙間からランドセルを部屋に投げ入れた。ランドセルが床に叩きつけられる音とほぼ同時にドアの閉める音を響かせ、上がってきたばかりの階段を駆け下りた。うるさいと怒られそうだが、今はそれを無視しよう。なんたって今、私はすっごく急いでいるんだっ!

深影みかげ、出掛けるの?」

和室にある衣装箪笥から長袖のフード付きパーカーを取り出していると、台所から聞こえていた水の音が止んで、お母さんがエプロンで手を拭きながら顔を出した。パーカーに手を通しながら早口で答える。

「いつもの公園っ!」

するとお母さんは納得したように笑った。

「ああ、あの『秘密のお友達』と遊んで来るのね。」

私はその言葉には答えずに紐靴に足を突っ込んで、素早くかかとを靴の中におさめると、走り出し、玄関へ突進した。…鍵がしまっていた。

「…大丈夫?気を付けてね。」

お母さんに「うー。」とか「んー。」とか答えて、鍵を開けた。ドアを押し開けると、今度こそ走り出した。

「いってきまぁすっ!」

開けっ放しのドアはお母さんが閉めてくれるだろう。多分。


真っ直ぐに伸びる大通りを走り抜けて路地に入って。右、左、曲がり角をすれすれで曲がる。息はそう長く続くものでもなく、度々足を止めたりしながらある場所を目指していた。

何度目かの角を曲がると、鳥居が見えてきたので、私は走るのを止め、息を整えながら鳥居まで歩いた。お分かりであると思うが、ここは家を出るときに言った「公園」ではない。鳥居の付いた公園でもない。神社だ。私が遊びに行く、「いつもの」神社である。私はいつも母に公園に行くと嘘をついてこの神社に行っていたのだ。神社に遊びに行くなんて言ったらなんか不信がられそうだし、誰にも知られたくなかった。私が神社に何をしに行っているのか。

門のように建つ真っ赤な鳥居の先には、境内に続く長い階段と、そこに等間隔で並んでいる鳥居たちが見えた。まるで鳥居のトンネルだ。いつも登るものより少し段のきつい階段をよっこいせと年に似合わない声を出しながら登っていく。いつ来ても雰囲気あるなぁと思いながら、何度も通って見慣れた景色を見回した。

頭上高く茂った木々は石階段と鳥居、そして私に覆い被さって影を落とす。左右の森は奥に行くほど暗く見え、ずっと見ていると吸い込まれそうだ。木陰のなかだからこその涼しさや、たまに風に煽られて軋む木の枝の音も手伝ってか、何やら出てきそうな感じがする。

-カァァ…-

どこからか聞こえてきた鳴き声にびくりと肩を揺らした。声のした方を見ると、木々の中から羽音と共に飛び出した黒い影を捉えた。

「あれは…。」

私は呟くと階段を駆け上がった。すぐに息が切れて喉がヒリヒリしてきたが、頭上で空中を滑るように飛ぶ影に付いていくように、半ば無理やり走った。

登り終えると、膝に手をついて肩を大きく上下させた。無理やり走ったせいだけども、とてもじゃないけど少しの間この状態から動く気になれなかった。息切れが収まってくると賽銭箱にぶつかるくらいまで近づき、背後の大きな鳥居の上部に止まっている真っ黒な烏を見上げた。

「やっ、カラス君!」

言ってから周りを見回してしまうのは許して欲しい。この状況を見られるのは恥ずかしいのだ。(しかしそれならば言う前に周りを確認しなければ意味がない)

カラス君は相変わらず私の声には全く反応しない。艶やかな黒い羽に顔をうずめている。毛づくろいでもしているんだろうか。まあ、「相変わらず」と言っても、烏の見分けがつくわけではないので、前回会ったカラス君なのか、そうでないのか、全く分からないのだが…。カラス君の反応をなんとなく待ってみたが、私に見向きもしないし、そういえば急がなきゃいけないし、

「…よしっ、それじゃカラス君またね~。」

返事のない一方的な挨拶をすると、私は境内に向き直った。(賽銭箱にぶつかった)賽銭箱の横を通り過ぎ、土足で入るのに少し申し訳なさをおぼえながら境内の中へ続く短い階段を上って障子戸を引いた。眼前に広がったのは薄暗い境内の中ではなく、真っ黒な壁であった。否、本当は壁ではなくそれと見分けのつかない真っ暗な空間である。墨を流し込んだよう、とよく言うが、まさにそれだった。

私はなんのためらいもなく黒い空間に手を伸ばした。害のないことは先刻承知の事である。指先に水に触れた時のような感覚を覚えると、同時に指先を中心にして、黒い空間の表面が波打った。最初はやはり液体が入っているのではないかとびくびくしていたものだが、実際は入っても冷たくないし、息もできる。そして濡れない。本当に、不思議だ。へんてこだ。

引っ込めていた手をもう一度伸ばす。手から、腕へ、飲み込まれるように黒い空間の表面が波打ち、消えていく。勢いよく一歩踏み出すと、私はいっぺんに黒の中へ飛び込んだ。

ここまで読んで下さり、ありがとうごさいます。楽しんでいただけたのであれば幸いです。これからもゆっくり更新していこうと思っていますので、たまに覗いていただけると嬉しいです。

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