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結末とはじまり。

お待たせしております。

気づいたら、人ごみの中にいた。


高まる歓声と、凱旋に群がる民たち。


(俺は何故ここにいるんだ……?)


「あんた、大丈夫かい?随分うす汚れた格好をして。ようやくこの国に帰ってきた連中もいる…あんたも戻って来たのか?」隣の男が言う。


「いや…」男はそこで愕然と自分の姿を見下ろす。薄汚れた靴、服、どれもが見覚えのあるものだ。


そう、この国へ来る前の、随分前の、戦から逃げた、あの時の。


(馬鹿な…『黒の術師』は…!?)そこで、うっすら少年の笑みが頭によぎる。


「ほら、来なさった。革命軍と新しい王だ。」誰かが言う。


(馬鹿な……!?)


人だかりを見れば、馬上に見える美丈夫と、その隣に並んだ見覚えのない顔。


「お、王はどうしたんだ…!?くー…!?」


(声が出ない!?)


ある一定の言葉を発することが出来ないことに気づいた。


(……やってくれる…!『黒の術師』め…!)


男の要領を得ない話しによると、王は退位し、革命軍と呼ばれたこの国の一部の有志による者達によって【魔法使い】は倒された。その際、首都を焼き払うことになり南のマインツが新しい首都となった。


(馬鹿な…馬鹿な…馬鹿な…!!)街中がお祭りのようなムードの中、男は走り出した。





どれほど歩いたかはわからなかった。何も持たず、手足もまるで自分のものではないようだった。


(いや…これが、元の俺か…)


何も持たず、何の地位すら無い。一介の。



そこはすぐにわかった。

人が居ないからだ。

人がまったく寄り付かない。


大地の色が違うからだ。


土が焦げ、草は何も生えておらず、ただ、ただ広い土地が広がっていた。

瓦礫すら無く、見渡す限りーーーーー



石柱が一つ。


その影にたたずむ人影。


「……お前………!!」フードをかぶったその細い姿は、見覚えのあるものだった。


「やっぱり来ちゃったか。まだ、引きずられているね。」か細い声は思うよりも通り、まるでこの空間を支配しているかのようだった。


(『黒の術師』!)また、言葉が出せない。男は喉を押さえる。


「見て、この大地。もうしばらくは何も生きられない。何も、生まれ出ることはできない。」そう言って、フードを外す。


黒髪が舞う。


男は、思わず口を閉じた。


あの時見た小娘が、まるで別人のように見えたからだ。


近づきがたい何かが、目の前に居る。ただ、それだけはわかった。


闇夜の瞳がひたりと男を見る。


「私が焼いた。【黒の術】を止めるにはそれしか方法が無かったから。皮肉な話し。精霊を解放したら、精霊の声が聞こえるようになった、なんて。」少女は呟く。


「だから何だ。お前はーーー」


「私はあなたを許さない。あなたはあなたなのに、殻のまま、生きようとした、その命を軽んじたあなたを。」


「殺すか?お前が奪ったこの地のように。」不思議と男に恐怖は無かった。ただ、酷く疲れていた。


「私の敵は【魔法使い】ではない。それがわかったから、あなたは生きるといい。奪ったものの重さを考える時間をあげる。」そう言うと少女は石柱に手を伸ばし、その手はずるりと石柱に吸い込まれた。


「!?」

首を掴まれて、引き出されたのは、あの少年だった。


あの馬車で、あの街で自分が抱いた。あの。


「僕を殺しても何も変わらない。君が駒であることは変わらないよ、『黒の術師』。」


「「ああ、知っている。」」少女の声に男の声が重なる。


「なーんだ。せっかく人に擬態までしたのに。ちっとも面白くないんだもの、君も変わらないねぇ、ヒロキ。」


「「消えろ。」」男の声がすると同時に、少年の首が曲がる。


「ク、ククク………ハハハハハハ!」首が折れているのに笑い続けるそれをはじめて恐ろしいと感じた。


「な、何…」


「「『炎薇』」」少年は一瞬にして燃えた。


それでも、高笑いは高く、高くこだましていた。



「民は不平不満しか言わないと…、あなたは言ったわね。」少女はフードをかぶり直した。男は呆然とそれを見ていた。


「あなたは、何をしていたの。」闇夜の瞳が男を射抜く。


「あなたは、自分を、生きていたの…?」哀れむような瞳が男を射抜く。




男は何も考えられなかった。膝をつき、握りしめた土が、まったく手に残らない砂に変わっていることに驚く。


「何故だ…、何故、俺を殺さなかった………!くー!」


『黒の術師』とは発音できず、魔法に関すること、王宮に関することも、すべて、男の記憶ではなかった。

つまり、男の記憶ではないことは、発言できなくなっていた。


しかし、記憶はある。自分が何をしたかはわかる。


それなのに今の自分には何もない。


金も、地位も、力すらなく。


惨めな、ちっぽけなムシケラのように。


「ぐぁあああ…………!!!」


男は最初から虫ケラほどの存在であった。自分をそうと認めたくなく自らを越えたものに焦がれていた。


「俺は悪くない…国が悪いんだ…国が……!!」






「草木にも命はあるのよ…。」少女はそう呟いて歩いていく。

男はそれを見て、


「お前が…、お前が悪いんだ…お前さえいなければ………!!」立ち上がり、少女に向かって走っていく。


あと少し、という所で手を伸ばしたら、少女は消え五月蝿いほどの音が舞い込んで来た。



「!?」

いつの間にかパレードの中に戻ってきていた。

明るい人々の顔とは別に、男には全くその気持がわからなかった。

ふと見上げると建物の上に人影がある。


「!」


フードの少女。


離れた距離なのに、彼女が何を言ったのかわかった。


『生きなさい』



男は崩れ落ちた。周りの人々がそれに駆け寄った。


男は大声で泣いた。



しばらくして男はどこへともなく消えた。










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