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糸口

「やっぱりここは落ち着くわ~。」ヨアキムに入れてもらったお茶を飲んで一息つくと、図書室の机にぐったりもたれかかる。


行儀が悪いのは承知の上。ようやく、ここまで張り詰めていた気が抜けたような気がする。


「リオ様、お疲れですね。」ヨアキム、さすが。私の心境を理解してくれてる。


「そうね。でもそうも言ってられないわ。」よっこらせ、と身体を起こして傍らの『黒の総本』を開く。



「そろそろ、反応があってもいいと思うんだけど?」



『しばらく本から出られない。それと、襲われても庇えないぞ。』


やっと、文字が書かれた。


ほっとして、思わず文字を撫でる。


「初代…無事だったんですね。」そこで思いのほか安心している自分に気づき、笑う。


日本人だから最初から気を許していたのだろうか。だとすれば随分勝手なものだ私も。


『本の力を使ったからな。リオがもう少し使えるようになれば問題ないが…回復に時間がかかる。』


なるほど。あの裏技はこの『黒の総本』の力でしたか。


「それにしても、どうしたもんだろう。あと5日なのに、何にもわからない。」証明できなかったら、犯人にされてしまうだろうか?王宮預かりってどのくらいの扱いなんだろうか。


いやいや、まだ諦めるわけにはいかない。


『城の被害者の共通する特徴は?』


「城勤めというだけ。ミリィの生まれも調べたけど、関係ある者は居なかったわ。」


『『黒の術』を素人が使うには条件がある。リオは本が無くとも使えるようになるはずだが、他人は普通使えん。』


「うん。犠牲が出るって…」


『犠牲者には何かしら接点があるはずだ。二人共女か。』


「ええ。」まさか色恋沙汰じゃあないだろうし。一応その線も調べてみるか。


「あ、忘れてた。」私は『黒の総本』が復活したのを確認すると、例の『ドコボックス』からヨアキムへお土産を取り出す。


「リオ様…ありがとうございます。」まぁ、人の金だけどね。


ヨアキムには綺麗なカフスです。邪魔にならないシンプルなものを選んだつもり。うん。似合ってる。


そしてついでにここの台所を借りたいことを伝える。そう。忘れていたけど沢山食料買ったんでした。


『リオ。何をするつもりだ?』


「んー。ストレス発散。」せめて自分の食べるものくらい、ストレスなく食べたいじゃないですか。


そう言うと、何故かヨアキムも食べてみたいというから、夕食の支度に取り掛かる。その前にセラフィナの部屋に顔を出し、お土産を渡す。


「お姉様…ありがとうございます。とても嬉しいですわ。」満面の笑みで喜ばれればこちらも少しだけ気分が軽くなる。


彼女には、街で流行だというブレスレットを―


ストップ。



「お姉さま?どうなされたのです?」手につけようとして、思いとどまる。


うん。そうね。そうなんだけどね。ちょっと、待ってね。


脇に抱えた本が、震えてます。ブルブルと。



ばばっと『黒の総本』を開く。


『リオ!お前、何やってやがる。『術』の気配がするぞ。』



いやん、まさかですよね。まさかまさか。


「手にブレスレットは持ってますけどね。」


『それだ!そいつ、とりあえずどうにかしろ。』


マジですか。


「杉崎璃桜が命ず。『開放』」平和主義者はどこへやら、迷わず『開放』選んでしまいましたよ。


黒い糸が一気に私に襲い掛かり、まるでバリアでもあるように目の前で散っていく。


『今度は場所が違うな。』何ですかそれ。


「…お姉様…!」そうかセラフィナにも見えたかもしれないな、今は私の傍らにいたから。


「うん。ごめんね。そういうわけだから。……とりあえず。」





ご飯かな。






「腹が減っては戦は出来ぬです。」というわけで、キッチンお借りしてます。


幸いヨアキムのカフスは全く関係なかったようで良かった。


とんとん、と野菜を切っていく。ご飯は炊きました。白米ではなかったけれど。今日は、鶏肉の筑前煮、中華風味噌汁(味噌が無いから。)、浅漬け、よくわからん芋系のレモン煮(レモンかどうかはわからないがそれっぽい。)という感じの和テイスト。飯ごう炊飯の野外授業は無駄ではなかったよ、ありがとう学校。


そんなことを思いつつ、見よう見まねで鍋を使う。


それを不思議と見つめている料理人たち。うん。縄張り荒らしてるのはわかってるので、そんなに見つめないでください。


「……あの、そう見られると困るんですが。……そういえば、調理室に動物って入ってこれるものなんでしょうか?」私は気になったことを聞く。


「いいえ、入れませんよ。というか、普通入れませんね。そりゃ、ここへ来る前はあばら家でしたから、入ってくることもありましたよ。でも、こういうお屋敷では衛生と信用のため普通は入れません。入りそうになっても阻止するのが私たちの仕事です。」そう言ってくれたのは、二人の調理人のうち一人。ここには調理人は二人と、補佐する人が一人いるだけだった。ギリギリの人数でやっているようだった。


「そうですか…ありがとうございます。」なら、あの鳥は何だ。


あのコックが連れていた鳥は。


「あ、ちなみに私が作る分は、セラフィナさんとヨアキムさんと私の分だけですからね。」そう言うと、あからさまにがっかりしたような顔をしたが、


「毒見いたします。」そう来ました。


「いいけど。口に合うか保証はしないよ?」






夕食は感動されました。普通の家庭料理なのにね。


味はまぁまぁです。こちらの食材で作ったにしてはよい出来でした。


ご飯を食べて、ようやく心が落ち着いた気がします。

やっぱり米はいい。これで緑茶あれば最高なんだけどな。今度探すか。


「さてと。」部屋に戻った私は『黒の総本』を開く。


『ブレスレットの出所はわかるか。』


「うん。街で流行のお店のやつ。」そして、セラフィナの話しによれば、王宮にもこういった商人は出入りしている。


そして、夕食前にセラフィナに王宮へ調べて欲しいことを光の精霊術で通達してもらった。


光ってすばらしい。インターネット無くても光はすごいね。


しばらくしたらウリセスからアリッサ宛に返事が来た。まぁこんな便利な技があるのに通常は手紙でやり取りしているって、なんとも面倒な話で。


基本的には緊急連絡法とされているらしい。あと、上級の精霊術師が居ないことも理由。


『仕事早いじゃねーか。リオのくせに。』いちいちひっかかるなぁ、あなたは!


「コックさん―エディなんちゃら、って人は今度帰る時にプレゼントしようとペンダントを購入していたそうよ。秘書の彼女は指輪、騎士は今度の休みに誰かにあげるつもりだったみたいね、イヤリング。下官の女性は両親にとペンダントを買っていた。そして問題は。この商人、死んでいるのよね。」


五人目の被害者は、それを販売していた商人自身。ここで糸が切れる。


『売ってるのはそいつだけじゃないだろう。その店に行くべきだな。』


「そうね。未だに売られているなら…どうしよう?回収の仕様が無い。」中庭以上の広範囲で使える『開放』なんて今の私にできるとは思えないし。


『仕方ねぇ。死ぬものは死ぬしな。だが、おかしいな。未だにリオが買ったようなものが入っているのか?足がつくだろうに。』


言われてみればそうかも。ああでも、


「ヨアキムのカフスもそこで買ったの。だから…女性を対象に狙っているのかしら。」


『わからんな。で?リオ、当然オルパディルについても調べたんだろうなぁ?』


「無理。起きたの今日ですよ。とりあえず図書室でだいたいの位置とかは確認したけど…」


オルパディルは海を渡って南にある島国のこと。


流人や犯罪者が流される島でもある。

だからといって交流が無いわけではなく、オルパディルの精巧な細工の箱などは有名だ。まぁ、罪人を遊ばせておくのが持ったいないものだから、作らせたのが始まりだとか書いてあったけれど。


「一応、国家なのよねぇ。」ふぅ、と溜息をつく。いざとなったらオルパディルにも行かなくてはならないが、どう考えても残り4日で往復するのは難しい。


その商人がオルパディルと繋がってる可能性もある。



そこでノックの音がする。


「はい、どうぞ。」入ってきたのはセラフィナだった。


寝着にガウンという姿で、一人で来たのだろう手には蝋燭を持っていた。


「少し、よろしいですか。申し訳ございません、こんな夜更けに。」とは言っても、まだ9時だからね。大丈夫だよ。

まぁ明日も早朝に発つつもりだったから、もう寝る予定だけど。


私は寝転んでいたベットから起き上がり、ソファーをすすめ、自分もそれに腰掛ける。お茶はもう夜なのでと断られた。確かに。夜ならブランデーか。最も、セラフィナが飲むかはわからないが。


なんとなく、飲んだ方がいいような雰囲気だったので、『ドコボックス』から女性にお勧めフルーティな酒(度数低め)を取り出し、グラスに注ぐ。


「…リオ様、その首にかけている指輪は……」セラフィナがおそるおそるといった風に聞く。


「ああ、ウリセスさんがくれたものです。お守りだって………」自分で言っててなんだか怪しくなってきました。だって、セラフィナの顔が。心なしか青白いような。やめてよ?もう嫌だよ、1日に二回もドッキリとか無しの方向でね。


「嗚呼…!」セラフィナは顔を覆ってしまう。


いや、いやいや、もう、やめてよこのノリ、やめましょうよ。怖いから。


「あの、落ち着いてください。この指輪がどうかしたんですか?」そうなると気になり、ペンダントトップから外して手に取る。サイズは大きいので多分合わないだろう。ためしに左の薬指に嵌めてみる。


「姉様っ!!」



え?


ぐにゃん。



いや、やめましょうよ、その猫型ロボットみたいな摩訶不思議さ。


「指輪が…」えーと、呪いの指輪って感じ?


ウリセスにもらった黒い石の指輪は、何故かぴったり私の指にマッチング。


そして抜けないお約束。


トリップというより、RPGでのお約束。指輪が抜けません。


「…兄様は、説明なさらなかったんですね?」


「ええと…はい。」


「ならば、無効です、こんな契約!」セラフィナが激昂する。どうどう、落ち着こうや、お嬢さん。


「契約?」


「それは、父の形見ですの…」セラフィナの話しによると、これは魔法使いが持っていた指輪で、相手を自分に縛るものだという。


「本来は、高位精霊を従えるためのもので、兄様は……何を考えているのか……」


えーと。つまり、詳しい話しがよくわからなかったんだけど、なんかものすっごくめんどくさい指輪ってこと?


ちらりと左に開いて置いてある『黒の総本』を見ると、


『あきれてものが言えん。お前、そりゃ犠牲の指輪って奴だぞ。普通嵌めるか?』


「犠牲の指輪?」


『まーなんだ、お前に何かあったらあいつが代わりに傷を受けるとかいうタイプの代物だ。それにしてもあの坊にそんな独占欲とかあったとはねぇ……このリオをねぇ……お前、それ、一生取れないぞ。』


「はぁ!?」待ちましょう。それ、やめましょうよ、それ。


ウリセスのことだから、私を庇うというとこまではよしとしよう。やりそうだから。嫌だけど。でも、一生って。一生って。


「嘘でしょう?」


「お姉様は知らなかったのですから、破棄できます。ただ…」


「ただ?」もう、いいよ、これ以上は。


「その…お兄様を…殺すか…」


「そんな事できるわけないでしょう!?」


『他にもあるが、リオには無理だな。』文章でも表情が浮かぶのが腹が立つ。


「何でそんなことが言えるんですかっ。」いちいちムカつく本―初代だ。


『いーか。よく聞け。魂の契約は複数あるが、通常は婚姻に寄るものだ。それによって重複の契約とみなされるから、一方は破棄できる。だが、お前できないだろう?ウリセスと性交しろとか。他にも無いこたぁ無いが…奴隷とかなー。無理だろう?リオには。』


頭が真っ白になる。セラフィナを見ると、顔を赤くしている。ってことは、真実?真実なのか。


『発禁にならんように控えた発言をしてみた。偉いだろ俺は。』


そんなことはどうでもいい!


「ですから…リオ様はてっきり…兄様の伴侶になられるのかと……」セラフィナは言う。


うっかり嵌めた指輪でですか。そもそもさっき何で嵌めたんだ。それより着いた時に教えてよセラフィナ!


「…じゃあ、『黒の術』を開発して、外す。もしくは現役の【魔法使い】に頼む。」


『お前が開発なんかできるわきゃねーだろ。あきらめろ。【魔法使い】で協力してくれる奴がいるかどうかだが。』


「申し訳ございません…」いや、セラフィナにあやまられる事ではないから。むしろ。


何でこんなことするんでしょう、ウリセス。


「あっもしかすると…」


「はい?」もう疲れてきたので適当に返事を返す。


「お兄様は知らなかったのかもしれませんわ…その指輪、つい最近まで宝物庫にあったのです。私は兄のいない間宝物庫へ入ることもありますし…リオ様に贈られた物があまりにデザインも色もバラバラなことを考えても、兄がこういう贈り物を女性にしたのは初めてかもしれません。いつもは、担当の者が選びますもの。」


おいおい。


「で?とっさに私に何か与えようと、適当に渡してみた、と?」


「いえっ…適当なわけではなく……その指輪は父上の形見としか兄の中での認識は無いのでしょう。兄はきっとリオ様を守りたかったのだと思います。」



うん。それがこんな結果になってるけれどね。


「仕方ない。外れないものは仕方ないから、とりあえず嵌めておく。」この問題はまた後で考えよう。異世界越えてしまえばそんなものは無効にされるかもしれないし。


ひたすら申し訳ないと思うセラフィナを追い出し、ようやく酒に口をつける。


「ホント、飲んでないとやってられないわ。」ああでもこのお酒美味しい。


『これでお前、怪我もできなくなったなぁ。』『黒の総本』はのんきに呟く。


「聞きたいんだけど。これってもしかして逆もできる?」ふと思って聞いてみる。


『何考えてやがる。』


「教えて。ウリセスの怪我を軽減できる?」初代がこういうものに詳しいということは、過去に使ったことがあるか研究したことがあるかだ。後者なら詳しい内容もわかるかもしれない。


『………原則的にはできんが。俺はグレートだからな。細工すりゃできんこともない。』


「ウリセスは精霊が半分入ってるから、白の術は使えないんでしょう?だから私が怪我を受けて、私が直してもらえばいいじゃない?」


我ながらいい案だとは思った。そうすれば戦力的にも回復だ。


『馬鹿か。お前、女に助けられるなんて、男が選ぶわけねーだろ。』


「関係ないよ。できるのね?」


『流れを逆様にすればいい。だが、成功するかはわからないし、お前、怪我なんか請け負えないだろう。』


「白の術師はどこに行けば会える?」


『ったく…知らねぇぞ。』明日街へ行って事情聴取をして、その後王宮でやればいい。少しだけ痛いかもしれないけど、すぐに白の術師に直してもらえば大丈夫なはず。


酔いがいいところでベットに横になる。初代は隣に放り投げる。


『こら!大事に扱え……ったく。……鈍いなぁリオは。惚れた女に助けてもらって喜ぶ男がいるかっての……』


その言葉はすぐに消えて行った。


「おやすみぃ~」糸口が見えて少し安心したのか、それとも食と酒に満足したのか、私はそのまま眠りに入ってしまったので、初代が何を言っていたかはわからなかったのだけど。


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