第6話:苦情対応
「はぁぁぁぁ…」
俺は茶髪の部屋の前で、魂が抜けるような大きなため息を漏らした。聖女にあるまじき行為だとは認識している。
王からお叱りを受けた…
茶髪のことだ。
放置していたのがバレた。訓練にも出ていないらしく、魔術指導の宮廷魔導師ソフィーテア様と、剣技指導の近衛騎士ジャンロック様から苦情が出たらしい。
やなんだよアイツ。
過去に勇者だったときも、取扱いに困った経験から苦手意識が大きいんだ。
覚悟を決めて、ドアノッカーを鳴らす。
「誰だ?」
「ステラフィールです」
「…入っていいぞ」
失礼いたしますと言ってドアを開ける。
中は意外と綺麗で、茶髪は窓辺に立って本を眺めていた。
テーブルには、本が積まれていた。王城にある図書館の書籍のようだ。
もっと爛れた部屋を想像していたのだが…
「なんの用だ?
俺のものになる気になったのか?」
「ち、違います。
訓練に出ていないとお聞きしました」
「そりゃ参加しないでしょ」
「何故です」
「だって、俺、戦うって言った?」
「ん!?」
(あれ)
そう言えば聞いてない…
血の気が引くのを感じた。
「召喚されたとき、シスターちゃん次第って伝えなかった?」
(しまったー。逃げ続けて忘れてたー)
俺は頭の中で頭を抱える。
「な、なんで私に拘るのですか?」
俺の投げかけに茶髪は顎に手をやった。
「なんでだろうな…
シスターちゃんは、超がつく美人さんだけど…そうじゃなくって、
なんか心が引かれるんだよな…」
「王女様たちや、貴族のご令嬢と仲良くされておられるのですから、それで良いではないですか」
「はあああ?お前は、好きになる相手を、チヤホヤしてくれるからと好きになるのか?」
あれ?なんだこいつ、まともなこと言ってる気がしてきた。
「わ、私は、聖職者ですのでそのようなことは禁じられております」
「また、それか?」
「と、特に、大聖女の称号をいただいた身です。責任もあります…」
茶髪は、こちらを黙って見ている。
「そ、そうですね…そんな私が惚れるような方でしたら、神職を辞めても構いません
あ、貴方にそこまでの気概がありますか?」
俺は目をぐるぐる回しながら一頻り言い切る。
「ほう」
「な、なんですか」
「面白い」
そう言って茶髪は、窓辺から俺の方に歩み寄る。そのまま後ずさる俺を追うようにして、扉迄詰め寄ると、茶髪は片手を扉につき俺を挟みこむ。
茶髪との身長差は20センチはあるだろう、俺は見上げる状態になってしまう。
なななな、なんだこのシチュエーションは。
壁ドンだと…する側じゃなく、俺がされる側なの?ふざけるな!
動悸が速くなり、茶髪にも自分にも怒りが沸々と湧いてくる。
「いいだろう。惚れさせてやろうじゃないか」
茶髪は手をどけると、ドアを開けそのまま俺を外に押し出した。
「明日から訓練に出てやる。
だが約束と思えよ。お前が惚れたら俺のものだ」
そう指を突きつけ、扉が閉じられた。
「むー」
言う事だけ言われてしまった気がする。
ふ、しがないサラリーマンまで齢を重ねたこの俺だ、あんなガキんちょ、怖いわけあるものか……だが、何故か足腰が立たなくなり床にペタリと座り込んでしまった。
(ま、まあいい。これで奴も訓練に出て苦情は無くなるだろう)
と強がってみた。
「どうされました。ステラフィール様」
起き上がろうと四つん這いになった所で声がかかった。
見上げるとエドリック王子であった。
「お手を」
差し出された手に手を置く。
ワンコのお手みたいとかいうなよ。
「また、迅とかいう勇者がらみですか?」
エドリック王子に手を引かれ立たせてもらう。
「え、ええ、まあ」
「父も酷い。大聖女様に、勇者の接待などさせるなど…」
そうでしょそうでしょ。
「貴方は、私の心の支えです。
この世の平和と安寧を願う貴方の横顔は、まさに私の女神様です」
エドリック王子は握った拳に力を込め、力説する。
「え?」
「三年前貴方に助けて頂いたこと、忘れていません。
あの日以来、私は貴方に好意を抱いております」
(はぁぁぁぁ?)
三年前ってなんだ、ああ、あれか私が大聖女になる切っ掛けになったあの事件か。
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