第099話 誘拐事件
ディーバ先生から手書きのシス王女の寄宿舎の地図を貰い、私は一度自室に向かうため足を進めていた。
他国の留学生も基本的には一般の学生と同じ料金に合わせた寄宿舎に入るが、帝国が重要人物であると判断した場合には、帝国から補助金を出して特別な寄宿舎を与えるそうだ。当然の事ながらプラム聖王国のシスティーナ王女もその重要人物に該当して特別な寄宿舎を与えられている。
一応、相手は小国とは言えど、王女なので私一人で向かうよりかはマルティナと二人で向かった方が良いだろう。マルティナもシス王女と気が合う様なのでなおさらである。
私は自室に辿り着き扉を開くとエマが出迎えてくれる。
「ただいま、エマ。あれ? マルティナは?」
いつもソファーの所で我が物顔しているマルティナの姿もそのメイドのシャンティーの姿もない。ただ、マルティナの散らかした後始末をしているエマの姿だけがあった。ちなみに、以前マルティナがいない時に自室に戻った時に、エマがはたきをつかって『カードシーフ・チェリー』のモノマネをしていた事は私とエマだけの秘密である。
「おかえりなさいませ、レイチェル様。マルティナ様は用事があるとかで、お戻りになられましたが」
「あら、そうなの…」
どうしようかしら…マルティナがいないのなら、私一人でシス王女の所に向かおうかしら、それとも一度マルティナの所へ行って声を掛けておくべきか…
私はディーバ先生から頂いた地図を取り出して確認する。シス王女の所まで行くには、マルティナの家も途中にある。ならば、途中でマルティナの所に立ち寄れば良いであろう。
「エマ、私はマルティナの所に行ってくるから、すまないけどマルティナの散らかした後片付けを頼むわね」
「分かりました、レイチェル様、いってらっしゃいませ」
私はエマに声を掛けてマルティナの家へと向かう。
しかし、改めて思うとお金のあるところにはあるものである。私の寄宿舎の料金も日本円で換算すれば結構な金額になる。私のいた地方であれば、母と私が十分に一か月暮らせるだけの金額になる。しかし、マルティナのように一軒家となるとかなりの金額になるだろう。その上、一か月で2・3万もする本を尽きに100冊買えるほどのお小遣いを貰っている。家賃と合わせれば相当な金額になるであろう。
私はマルティナの家まで辿り着き、扉をノックして暫く待つ。しかしいつもなら遅くても一分ほど待てば誰か出てくるのに何も反応がない。
どうしたのであろうか? マルティナは自宅に戻らず、どこかに寄り道でもしているのであろうか。学園内の寄り道であれば、恐らく購買部で何か買出しをしているかもしれない。その場合ならそんなに時間が掛からないだろう。
それでも戻らない場合には、外に買出しにでているかもしれない。五分程まって戻らない場合には一度自室に戻ろうか。
私はそう考えてしばらくマルティナの家の前で待つことにする。こうして誰かを待つことをすると、自室に帰るといつも誰かがいる事は、悪くはないと思える。時々、一人でいたいこともあるが、なんだか安心感もある。前世での母との生活も私のバイトですれ違う時もあったが、母がいる時の安心感もあったし、母から見ても私がいる事の安心感もあったであろう。今頃、母はどうしているのであろう…
「レイチェル様!!」
私は突然、大声で呼ばれてビクリとする。慌てて声の方向を見ると、痛みで身体を引きずりながら歩くシャンティーの姿が目に入る。
「シャンティー! 一体どうしたの!?」
私は慌ててシャンティーの所に駆け寄り、その状況を確認する。誰かに殴られたようで、顔にあざがあり、身体を押さえている所を見ると身体の方も蹴るか殴るかをされているのであろう。
「マルティナ様が…マルティナ様が…」
シャンティーが痛みで顔を歪ませながら私に訴えかける。
「マルティナがどうしたのよ!? 事情を説明して!」
「はい、購買部で買出しをしようとした時に、アレン皇子のお付の者の姿を見つけたので、マルティナ様が後を隠れて追おうとした時に、以前、マルティナ様にちょっかいを掛けてきた不届き者がまた現れて、マルティナ様が…連れ去られしまいました…」
「マルティナが攫われたの!?」
私はシャンティーの言葉に衝撃を受ける。この学園内で上級貴族のマルティナの誘拐を行うなんて尋常ではない。
「はい、私は抵抗しましたが、この様に痛めつけられてしまい、仕方なく人を呼ぶためにもどってきました…」
「では、攫われてからまだ、そんなに時間が経ってないのね? 私が行くからすぐに追いかけましょう!!」
「でも、レイチェル様では、あの者たちに…」
確かに私もマルティナ同様に非力な令嬢ではある。
「大丈夫! 私には秘策があるから! それよりもシャンティー、そのままでは追いかけるのは難しそうね…」
私はそう言うとシャンティーに手を翳す。これでも診療所の仕事である程度は治療魔法が向上した、シャンティー一人ぐらいを治療するのは大丈夫だ。流石に診療所のように服を脱がせて痛めつけられた所を一つ一つ治療する時間が無いので、一気に回復する。
「秘策があると申されましても… あぁ、痛みが引いていきます!」
「私の秘策は強力な助っ人を呼び出すことが出来るのよ!」
私の秘策とはズバリ、あの指輪を使ってディーバ先生を呼び出す事である。私に憑りつく存在の事ではないが、学園内の治安の問題ではある。その事を先生に責任を取ってもらっても悪くはないであろう。
「レイチェル様!ありがとうございます! これなら、お嬢様に何かある前にすぐに後を追えます!」
何かある前にって、あぁ、営利誘拐とは限らないのね、令嬢を傷物にして家の名声を下げ落とすって話も聞いたことがある。
「じゃあ、すぐに行くわよ! どちらの方向なの?」
「向こうです!」
「向こうって、上級貴族向けの寄宿舎街なの!?」
シャンティーはすぐに駆け出し、私もその後を追う。
マルティナの様な上級貴族の令嬢を襲うぐらいだ。やはり、その裏には同じ上級貴族が絡んでいてもおかしくはない。
「このあたりで、私は突き飛ばされて…」
ある一軒家の裏に辿り着く。この辺りは手入れされていない所を見ると空き家が多いようである。
「シャンティー詳しい場所は分かる?」
「少々お待ちください、一度しか使えませんが、非常事態用の魔法具がございますので」
シャンティーはそう言うと、襟元を開いて中からペンダントを取り出す。
「マルティナお嬢様の居場所の方角を三分間だけ指し示す魔法具でございます!」
流石は上級貴族である。この様な非常事態の為にちゃんとした対策の品を準備しているのか。
シャンティーはペンダントを強く握りしめると、パキっという音がしてペンダントから光が漏れだし光の筋がある方向を指し示す。
「あの家です!!」
光がある空き家を指し示す。
「じゃあ、行くわよ!シャンティー!」
「はい! レイチェル様!」
私とシャンティーは空き家に乗り込んでいった。
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※はらついの次回は現在プロット作成中です。




