第075話 オードリーの吐露
私たちはオペル座の中にある食堂NAVOに入り、個室の部屋に通される。メッセージカードの差出人の姿はなく、後から訪れるようだ。しかし、コロン嬢のそわそわした様子を見ると、ただの人物ではなく、恐らく本日の出演者の一人なのであろう。
私もマルティナも大体、誰が差出人か予想がつくので、コロン嬢に対してどなたですかと無粋な質問はしない。
そして、暫く部屋の中で待っていると、カチャリと扉の開く音がして、オードリー嬢の姿が現れる。オードリー嬢は既に演劇のメイクは落としており、衣装も学園の制服に着替えて、上には目立たないようにローブを纏っていて、部屋に入り扉を閉めると、ローブを解き放つ。
「オードリー様! 今日の公演は素晴らしかったですわ!」
コロン嬢がオードリー嬢の元へ駆け出していく。
「コロン様も今日、来て下さるとは思いませんでしたよ」
そういって、オードリー嬢は駆け寄ってきたコロン嬢の手をとり握りしめる。
「いいえ、今日はたまたまマルティナが誘ってくれただけなの、でも、こうしてオードリー様の主役の演劇を見れるなんて、やはり私たちは運命の友達よね」
「そう言ってもらえると、私も嬉しいですよ」
オードリーはコロン嬢に微笑んで答えて、今度は私たちの方に向き直る。
「マルティナ様も来てくれてありがとう。最近、会話をしていなくて心配していたんだよ」
オードリーはマルティナに対しても微笑みを送る。
「心配かけてごめんなさい、オードリー様、私、暫く病に伏せっておりまして、ようやく本調子に戻ったところでして… それより、今日の公演は本当に素晴らしかったですわ! 私、本当にオスカー…いえ、オードリーが亡くなってしまったのではないかと心配致しましたわ!」
「あはは、私の演技でそこまで思ってもらえるなんて役者冥利に尽きるよ」
オードリー嬢は女性であるが、やはりオスカーが似合うだけあって、美青年の様な笑顔でマルティナに答える。そして、オードリー嬢はそのまま美青年の笑顔を私へと向ける。
「貴方は確か…レイチェル嬢だったよね? 同級生の… 今日は私の公演に来てくれてありがとう!」
そう言って手を差し伸べてくる。
「こちらこそ、オードリー様の素晴らしい公演を拝見させていただきましたわ」
私はそう答えて、手を取り握手する。
「それでは早速、皆さんでお茶を始めましょう♪」
そうして、皆との挨拶が終わった所で、コロン嬢の一声で、席に座ってお茶会を始める。
「所で、オードリー様、オペル座に復帰しておりましたのね」
コロン嬢がまず初めに口を開く。
「あぁ、学園には通い始めた物の、やはり歌劇の道は諦めきれなったものでね」
「では、お父上の了承は得られたのですね?」
「いや、父の了承は得ていない…私が父に秘密に復帰したのですよ…」
先程まで、爽やかな美青年の顔をしていたオードリーはその表情を曇らせる。
「よろしいのですの?」
その表情に心配したコロン嬢がオードリーに声を掛ける。
「あぁ、いいんだ。私は、何れ家を出てこのオペル座で歌劇で生きていくつもりなんだ…」
侯爵令嬢が家を捨て、歌劇で生きていく?これは、なにやら込み入った事情がありそうだ。
「一体、どういうことですの?」
「オードリー様、事情があるなら私も協力致しますわ」
オードリーの言葉に心配するコロン嬢とマルティナがオードリーに言葉を掛ける。当然の事である。歌劇を続けたいだけなら、家にいたままでも十分可能だ。それをわざわざ自分の生活拠点を捨ててまでするのは令嬢としてはありえない。
「事情を話して頂けますか?」
コロン嬢がオードリーの顔を覗き込む様に尋ねる。
「私の家は、父の浮気が原因で母がいないのだよ…私もそんな父のいる家にはいたくないんだ。だから、あの小生意気なオリオスとの婚約を受けたのだが、オリオスもどういう訳か私を気に入らないようだし、私は自分の力で生きていこうと…だから、オペル座に復帰しているのだが、父にバレないように時々は学園に通っているんだ」
「それではただ子供の頃の夢を叶えるだけではなかったのですね…」
コロン嬢はオードリーが前向きな思いで、オペル座に復帰したと思っていたのだが、実際には家から逃げ出したいという後ろ向きな思いだった事に衝撃を受ける。
「なら、もうオペル座で主役を張れるのであれば、オペル座の寮に入ってしまえば、すぐに家を出られるのではありませんか?」
マルティナがオードリーに尋ねる。
「その場合は保護者の同意書が必要になるし、同意がいらなくなるのは18歳になるまで待たねばならない。借家を借りる事も考えたが、父の力を使って借家の大家を脅されたらダメになる。だから、今はお金を貯めて、自分の家を持とうと思うんだよ」
「自分名義の家ならば、父親でも手出しは出来ないという事ですか?」
私はオードリーに確認する。
「そうだ、未成年と言えども、家主になってしまえば手出しはしにくいはずだ」
「でも、父親が、直接オペル座の方にオードリー様を解雇するように、働きかけたらどうなさるのですか?」
住むところはオードリーの方法でも大丈夫であるが、働くとなればまた別の問題である。
「そ、それは…」
やはり、未成年という事が、かなりネックになっているようだ。しかし、今のオードリーには、この方法しかないのであろう。
「私も出来る限り、オードリー様のお力にはなりたいのだけれど、家の力を持ち出すことになるので、下手をすれば私のロラード家とオードリーのトゥール家の対立になってしまいますわ… だから、流石にすぐここで、私一人でどうこうすることはできませんわ」
コロン嬢が歯痒そうな顔をする。
「コロン様のロラード家で難しいなら、私のジュノー家でも難しいですわね…」
マルティナも難しい顔をして付け加える。
「私のステーブ家は皆様の侯爵家よりも下の子爵家ですから、なおさら無理ですわね…」
私もオードリーの力になれず、目を伏せる。
「ごめんなさい…オードリー様、お力になれなくて…」
コロン嬢がオードリーに対して詫びを入れる。
「いや、いいんだ…私の我儘から始まった事なんだから…」
オードリーは口ではそう言うが、少し悔しそうな顔する。
「今すぐっていうのは無理ですし、私たちだけというもの良い提案が出ないと思います…」
マルティナが口を開く。
「だから、一度、皆で集まって知恵を出し合うってのはどうでしょう? ミーシャやテレジア様も呼んで全員で!」
マルティナは全員に向けて言い放つ。
「そうですわね、私も一度家に帰ってお父様と相談するわ、後、久々に皆と集まってお茶会でもしながら相談するのもいいわね」
コロン嬢の表情が少し明るくなる。
「そうだね、学園で顔を合わすことはあっても、皆と顔を合わせて話をしたのは、随分前の皆の婚約が決まった時だったね」
オードリーも少し表情が和らぐ。
「そうと決まれば、久しぶりに皆で集まってお茶会をしましょう! 場所は私の部屋を提供致しますわ! もちろん、レイチェルも来てくれるわよね」
マルティナはそう言って私に振ってくる。
「よ、喜んでお受けいたしますわ…」
私は出来るだけ平静を装って答える。
ゲームの『悪役令嬢』全員とのお茶会か…気苦労が増えそうだ…
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※はらついの次回は現在プロット作成中です。




