表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪霊令嬢 あくりょうれいじょう ~とんでもないモノに憑りつかれている私は、そのまま異世界に転生してしまいました~  作者: にわとりぶらま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

244/389

第244話 へたれ

 あれから皆が生活する館の本館の中に入った私たちは、色々とあった後に、食堂のテーブルの席へとついていた。当主であるマルティナの父親はまだ席についていないが、マルティナの他の家族は全員、席についている。


 その中には先程はいなかった、二歳年下の弟のアーロンと四つ年下のアニトラの姿もあった。アーロンは兄弟の中でマルティナの次に年上だけあって、キリっとした感じの男の子であり、兄弟の中では珍しく一人だけ眼鏡を付けている。


 四つ下のアニトラちゃんは、お年頃に差し掛かった年齢なので、下の兄弟とは異なり、落ち着き払っていて、なんだか、マルティナをお淑やかな令嬢に育てたらこうなりますと言った感じである。


 マリアナさんは久々に家族全員が揃うのでニコニコ顔であるが、どうもアーロン君だけはご機嫌斜めなご様子である。


 そんなアーロン君の姿を見かねて、マルティナが声を掛ける。


「ねぇ、アーロン、あんたなんでそんなに不機嫌そうな顔をしているのよ」


 マルティナが声を掛けると、アーロン君は待っていましたと言わんばかりに、中指で眼鏡を上げてマルティナに向き直る。ちなみに、今の仕草は、マルティナが一番嫌いなクソ…いやカイレルのよくやる仕草である。


「マルティナ姉さん、聞きましたよ」


「聞いたって何をよ」


 私はとなりのマルティナをチラリと見るが、少し眉間に皺が寄っている。やはり、あの仕草がイラっと来たようだ。


「なんでも、先ぶれなしで、いきなり帰って来たそうですね」


「なんで自分の家に帰るのに、わざわざそんな事をしなくちゃいけないのよ」


 いや、これはアーロン君の方が正しいと思う。そのせいで私は六時間待たされたのだから。


「いや、侯爵家の長女としての、自覚と言うものをもっと持って下さい! マルティナ姉さん!」


 アーロン君は少し声を荒げる。


「へぇ~ アーロンもえらくなったものねぇ、小っちゃい頃は私がおしめを替えてあげていたのに、そんな事を言い出す様になったのね…」


「そんな物心つく前の事を言い出さなくてもいいだろ!」


 アーロン君が言い返す。


「へぇ~ でも、おねしょしたって、私に泣きついて来た事もあったわね…あれはいつの事だったかしら?」


 マルティナがにやにやしながら言い返す。


「そ、そんなの…時効だよっ!」


 アーロン君は顔を真っ赤にして言い返す。


「レイチェル」


 マルティナは突然、私に向き直る。


「な、なに?」


「帝国の法律では時効って何年だったっけ?」


「確か…殺人などの重犯罪は時効無しで、通常の犯罪が20~30年、軽犯罪なら10年ぐらいかしら?」


 私も止めればいいのに、ついつい答えてしまった。


「へぇ~軽犯罪で10年なんだ~ で、アーロン、あれって何年前の事だっけ?」


 マルティナは半笑いを浮かべながらアーロン君に向き直る。マルティナってこういう時の悪知恵はけっこう悪魔的に働く。


 流石にアーロン君もここまで言われたら、言い返すことが出来ずに、赤を真っ赤にして俯いてしまう。


「アーロン兄さま、だから、言ったでしょ?返り討ちに遭うって…」


 お淑やかなアニトラちゃんがアーロン君にそう告げる。

 

「アーロンもまだまだね…それとマルティナはもう少し手加減してやってもらえるかしら…あの子、ああ見えてうたれ弱いのよ」


 マリアナさんがコロコロと笑いながら告げる。


 しかし、この家では口喧嘩をディスカッションやディベートの練習の場として楽しんでいるような感じがある。


 そして、その時、上座の扉が開かれ、壮年の男性が姿を現した。マルティナの父親でジュノー家の現当主のナクロン・ミーピラ・ジュノー公爵だ。


 私のマルティナの家の家庭状況の予想は悉く外れていたが、ジュノー卿だけは、私の予想通り、壮年のエリートビジネスマンを体現したような方である。ワックスでピッチリ決めた髪型に、飾り気のない黒ぶち眼鏡、服装も豪華で派手派手しい衣装ではなく、シンプルでいて少し高級感を漂わせるスッキリしたもの。現代日本に放り込んでもそのまま通用しそうな感じである。


 ジュノー卿は仰々しくはないが、威厳のある仕草で食卓の最上位の席に腰を降ろす。


「ねぇねぇ、貴方、今日はマルティナがお友達を連れて帰って来たのよ」


 マリアナさんが笑顔で私とマルティナの事をジュノー卿に告げる。


「あぁ、ニガモから話を聞いている」


 ジュノー卿はさらりとマリアナさんに独特のイントネーションで答えると、ニコリともせず、無表情で視線をマルティナに向ける。


「マルティナ、久しいな、壮健にしておったか?」


「お、お父様、お久しゅう御座います… お陰でこの様に壮健にさせて頂いております…」


 マルティナが珍しくカチコチに緊張して挨拶をしている。


「うむ、そちらの御令嬢がステーブ家のレイチェル嬢ですね」


「はい、マルティナ様にお招きいただき参上いたしました、何卒よろしくお願いいたします」


 私は普通に挨拶を交わす。


「私は忙しい身なので、私自身で歓待することは出来ませんが、ごゆるりと我が家を心行くまでご満喫下さい」


 言葉では歓待されているようなのだが、ジュノー卿が無表情なので本当に歓待されているのか心配になってくる。


「貴方、それでは帰って来たマルティナと、我が家にお越し下さったレイチェルちゃんの為に乾杯をして食事を始めましょうか」


「うむ、レイチェル嬢とマルティナに乾杯!」


 ジュノー卿の合図により乾杯して、食事が始まる。


 黙々と沈黙の中で食事が進められていくかと思えばそうでもなく、所々から子供たちの楽し気な会話と共に食事が進んでいく。しかも、小さな子供もいるので粗相もあるかと思えば、一番下のインガちゃんですら、ちゃんと作法に則った綺麗な仕草で食事をとっている。流石侯爵家である。


「さて…マルティナ」


 ジュノー卿がスープのスプーンを置いて独特のイントネーションで話し出す。


「はい! お父様!」


 マリアナさんの時の喋り方とは異なり、声が裏返ったような声でマルティナは答える。


「学園の生活はどうか?」


「はい! お陰様で何から何まで順調でございます!」


 上ずった声で答える。


「そうか…」


 ジュノー卿は短く答えると、皆に向き直る。


「皆の者聞け! マルティナはかの公爵家のカイレル・コール・カルナス様との婚約を自らの手でつかみ取り、今は帝国最高峰のアシラロ学園に通っている! 皆もマルティナを手本とするように!」


 ジュノー卿は高らかに独特のイントネーションで宣言する。


「「「はい!お父様!」」」


 子供たちの一斉の返事が響く。


「で、マルティナ、今日は私に用があって面会に来たようだが、何用だ?」


 うわぁ…先に家族全員の前で高らかに宣言された上での、このセリフである。こんなことを兄弟の前で言われて、マルティナは本当の目的を言えるのであろうか?


 私は隣のマルティナをチラリと見る。


 あっ、ダメだ…完全に動揺していて、猫に追いつめられたネズミのような顔をしている。


「え、えぇっと、急にホームシックに囚われまして…そ、そのお父様の顔を見たくなったのです!」


 へたった! マルティナがへたって、上ずり裏返った声で別の理由を言い出す。


「そうか、だが、私の忙しい身、ずっとお前の側にはいてやれん、だが、出来るだけ食事の時は同席するとしよう」


 ジュノー卿は独特のイントネーションでマルティナに答える。


 弟のアーロン君相手に完全勝利を収めたマルティナであったが、ジュノー卿相手の場合はこれは不戦敗といって良いだろう。戦う前に逃げ出した。


 どうやら、マルティナはジュノー卿が苦手のようである。これから先が思いやられる幕開けであった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ