第021話 状況整理
「ふぅ…」
パジャマに着替えた私は、少し食べ過ぎたお腹を抱えて、ベッドの上に横たわる。
「レイチェルっ 今日は楽しかったねっ!」
リーフはご機嫌なのかベッドの上をくるくる飛び回る。
「そうね、今日は私にもリーフにもお友達が沢山出来たわね」
今日の皆との夕食が終わった後に、これからも一緒にお茶会やお食事会をしようと声を掛けてもらい、お友達宣言を受けたのだ。
「これからはジュンやニース、サナーの前では隠れなくてもいいんだよねっ? 話してもいいんだよねっ?」
リーフは瞳をキラキラさせて興奮気味に尋ねてくる。
「そうね、実家の館では、『あの事件』があったから、あの樹の精霊であるリーフの存在は伏せておいた方が良かったけど、ここでは伏せる意味がなかったわね…ごめんねリーフ、今まで肩身の狭い思いをさせて」
「別にいいよっ、これからはジュン達に限らず、どんどん人前に出てもいいんでしょ?」
大丈夫であるとは思うが、どうなのであろうか…リーフには悪いがペットの様に学園側に申請を出さなければならないだろうか?
「そうね、とりあえず、明日の朝にエマに話をしてみましょう。一応、学園に届け出しなくてはならないかも知れないから」
「そうなの? でも、エマと話せるんだっ うれしぃなぁ~♪」
リーフは声をあげながらくるくると飛び回ってから、ちょんと自分の苗木に泊まり、欠伸をする。興奮して飛び回った事で疲れたのであろう。
私も目を閉じて、頭の中で思考を巡らす。
昨日も色々な事があり、今日も色々な事があった。それらを踏まえて、今ある情報で、現状を整理しなくてはならないと思う。
先ず初めに、この世界は、前世の玲子の世界にあった乙女ゲームの世界と同じ世界で間違いは無い。そして、そのストーリーに沿った出来事が起きるかどうかは、昨日のマルティナ嬢の嫌がらせが発生したことで、これも間違いはないであろう。
そして、次が問題だ。前世の玲子に憑りついていたと思われる『アイツ』がこの世界の私、レイチェルにも憑りついているという事だ。何故、前世の玲子に憑りついていたと思われると言うのは、私自身、『見えない』人間であり、霊能力など無く、一度も『アイツ』の姿を直接見たことがないからだ。
前世の私である玲子は、物心ついた小さな時から自分が普通ではない存在であると理解していた。周りで不可解な事が多発し、身の回りの人々に不幸な出来事が起きる事が多かった。最初は私自身のいたずらであると思われていたが、そのうち、幼女の私ではとても起こす事が出来ないような出来事が起きると、私は皆から気味悪がられ、避けられる様になってきた。
そんな私を気遣い、心配してくれるのは母だけであった。最初は母も、私が子供特有の気を引くためのいたずらをしていると思い、コンコンと親身になって善性や道徳を子供に分かりやすく根気強く言い聞かせてくれた。しかし、いたずらとは思えない不可解な事が起こり始めると、心霊的なものに頼り始め、私を連れて寺社仏閣を回り始めた。しかし、お寺に行けば和尚が本堂に立て籠って私に会わず、神社に行けば鳥居を潜る前に神主が私に塩を浴びせてきた。
その様な状況に母は、その時は経済的に余裕があった時だったので、個人の霊能力者を探し出してきた。その霊能力者は私に初めて会った時に、恐怖で怯えた青白い顔をしながらも、私と母の話を聞いてくれた。
「今すぐ、どうにかするのは不可能です。準備を致しますので、一週間後に再度、お越しください」
そう言われたので、私と母は一度自宅に戻り、一週間経ってから、再度、霊能力者の所へ訪れた。しかし、何度呼び鈴を押しても返事がない。困った母は玄関の扉に手を掛ける。少し扉を開けて中に声を掛けるつもりであったのだろう。母は声を掛ける前に悲鳴を上げ、すぐさま私の視界を覆った。後から聞いた話では、玄関に続く廊下で、その霊能力者が変死しており、変わり果てた姿になっていたそうだ。
そんな訳で私と母は頼るものがなくなり、私たちの周りにはより一層、誰も寄り付かなくなった。
そんな私にある出会いがあった。中学に上がった時のクラスメイトである。そのクラスメイトは私と初めて出会った時に、あの霊能力者と同じ反応をした。私はすぐに分かった。
『この人は見える人だ…』
お互い、一言も言葉を交わさなかったが、お互いがどの様な存在であるか理解し合った。その後、そのクラスメイトは出来る限り、私の事を避けていた。私もクラスメイトがあの霊能力者と同じことにならないように避けていた。しかし、ある日、クラスの係で二人きりになる事があった。私はふいにそのクラスメイトに声を掛けてみた。恐らく、その時は魔が差したのであろう。
「ねぇ、貴方、見えているんでしょ?」
しかし、彼女は私に目を合わせず、口を開こうとはしない。しかし、私は言葉を続ける。
「私ね、私に何か憑りついている事は知っているのだけど、でも、私自身は見る事も聞く事も出来ないの… だから、私に憑りついている人がどんな人で、どうして憑りついているのか知りたいの」
私はダメ元で語りかけてみたが、彼女は血相を変えて私に思わず言い放つ。
「貴方! 自分に憑りついているそれが『人』だと思っているの!?」
「えっ!? 『人』ではないの? じゃあ、獣か何かなの?」
思わぬ言葉に私は更なる疑問を投げかける。
「…いえ、獣の形をしているわけでも、不定形でもないわ… 『人型』の形はしているけど… 人格… そう人格が見えないの…」
「『人型』の形はしているけど、人格が見えないってどういう事? どこの誰かは分からないけど、私の一族に恨みを持つ故人の霊が憑りついている訳じゃないの?」
私が物心ついた時から憑りつかれているので、一族に深い恨みを持つ誰かが憑りついているものと思っていた。
「貴方に憑りついているそれは、たかが人間の故人どうこうで語りつくせる存在ではないわ… 恨み事があっても人格のある存在であれば、会話やもしかすれば説得が出来る… でも、貴方のそれには人格が無い… だから、説得どころか会話すら出来ない… もはや、悪意というか、悪そのものを凝集したような概念そのものに見えるのよ…」
今までの不幸で不可解な状況に慣れていた私であるが、クラスメイトの必死の説明には血の気が引いていくのを感じた。
「どうして…どうしてそんな恐ろしいものが私に憑りついているの…」
「…冬虫夏草…」
「えっ?」
「恐らく冬虫夏草の様なものよ…」
彼女は私から目をそらして告げる。
「冬虫夏草って… 生きた昆虫に寄生する植物だよね? 私が寄生されているってこと? 私から養分を吸い取って成長しているって事なの?」
「絶対とは言えないけど、恐らくそうだと思う…」
申し訳なさそうに顔を伏せながら告げる。
「でも、私、気力が湧かないとか、身体が弱いとかないよ? いたって健康的だし…」
「生命力を吸い上げるとか、そんな生易しいものじゃないわね… 恐らく、人生の幸せとか希望を吸い上げているんじゃない?」
彼女の言葉に衝撃を受ける。確かに彼女の言葉は正鵠を射ていた。私の身の回りの人々の不幸を見続けるあまり、私自身、まだ13歳であるが、生きる幸せも、未来への希望も持てずにいた。自分がいなければ良いとさえ思ったことがあった。
兎に角、母が…母が不幸になっていく姿は見ていられなかったのだ。
「ねぇ! お願い! 私に憑りつくコイツを…」
「やめて!! それ以上言わないで!!」
彼女は私の言葉を大声で途中で遮る。
「『そいつ』はね…敵対するものや、敵対する可能性を持つものに容赦しないと思うわ… だから、お願い、可能性を仄めかせないで… 私を殺さないで…」
彼女は願いを祈る様に私に頭を下げる。私は彼女のその姿に言葉が詰まる。
「『そいつ』ね、人格はないけど、知性はあるの…それも悪知恵のような… だから、自分と宿主の貴方に対して敵対するものには容赦しないわ… 恐らく今までだってそうでしょ?」
確かに、私は今まで一度もケガをしたことや、誰かに害されたことは一度もなかった。害されそうになった時は、例え子供のいたずら程度のものでも、すぐさま、相手になんらの不幸が起きていた。
「『そいつ』は成長して満足するまで、貴方から幸せや希望を吸い続けると思うわ… だから、成長しきって満足するその日まで、『そいつ』自身と、宿主である貴方を守り続けると思うわ…まぁ、宿主にとって望まない守り方であってもね… でも、成長しきって鎖が全て切れた時には…」
「鎖? 鎖って何?」
「あぁ、貴方自身は『そいつ』が見えないのだったわね…」
彼女はそう言うと、紙切れになにやら描き始める。そして、描きあがった紙を投げ渡す。
私はその紙を拾い上げて見てみると、乱雑に描きなぐった絵がある。恐らく私であろう女の子とそれに覆いかぶさるような、黒い人型、腕や首など至る所に鎖が繋がれている。そして、一番特徴的なのが顔、目も鼻も無いのに、ただ大きくニタリと笑う口だけが描かれている。
描きなぐった子供の落書きのような絵であるが、それでも十分不気味さが伝わってくる。
「コイツが…コイツが成長しきって鎖を断ち切ったら、私、どうなるのかな…」
「…さぁ、ただ死ぬだけなら楽な方なんじゃない?」
彼女は一言そう言った。
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