7話
連続投稿です。状況が大きく動くので少し長めです。
サキは大きな扉のあった通路まで来ると部屋の前で足を止めた。
何度見てもその扉の装飾は素晴らしかった。
慎重に扉を開け中に入る。
部屋の中は円柱の形になっており天井からは太陽の光が差し込んで居た。部屋の真ん中にはベッドと机があるのみでシンプルではあったが確実に人が生活している跡があった。
そしてベッドにはジーアスであろう人物が眠っているようだった。サキは慎重にベッドへ近づくとそこには話に聞いていた通り美人の部類に入る女性が眠っていた。
そしてサキは持ち込んでいたサバイバルナイフを取り出すと何のためらいもなくジーアスの頚動脈へ向かって突き出した。
すると突き刺したはずのナイフは枕へ深く突き刺さりそこにジーアスの姿はなかった。
サキは慌てずに状況を整理しようと周りを見渡すがそれよりもはやく背後から声がかかった。
「あなた教団の人間じゃないわね?なんで私を殺そうとするの?」
そこには今さっきまでベッドに眠っていたジーアスが立っていた。
とりあえず演技を続けようとゆうきの口調で返事を返す。
「おねーさん誰?僕はただ遊んでいただけだよ」
サキは演技をしつつ考える。確実に捉えていたはずなのに突き刺したときには消えていた。
そして背後まで取られていた。どんなに高速で動いてもサキの背後をとるのは容易ではない。
仮にジーアスの速さが異常だとしても何の気配もないわけがなかった。
つまりこれは……。
゛魔法゛異世界から召喚されたであろう人物だからこそ扱えるこの世界の人類を超越した力。
常人ならばここで逃げ出しなにかの策を考えてから出直すだろう。
しかしサキの所属する組織はそれを許さない。
失敗すれば待つのは死だけである。そしてサキは逃げる気などなかった。
「あら、随分とかわいい演技ができるのね?でも私にはわかっているわよ。あなた普通の人間じゃないわね」
相手の手の内がわからない状態でこれ以上煽るのは危険と判断しサキは観念した。
「よくナイフをかわして背後に立てたね~。僕これでも少しは腕に自信があるんだけど……何か魔法でも使ったの?」
サキは余裕のある笑みを崩さないままジーアスの動きに細心の注意を払いつつ観察する。
「うふふ、あなた面白いのね。魔法のことまで知ってるなんて……。この教団で私に歯向かうことができる勇気を称えて教えてあげるわ」
するとジーアスはサキに手のひらをかざすと何やらつぶやき始めた。
「我、古の女神の力の一旦をお借りしたもう、我のマナを糧とし顕界せよ!火球!」
すると何もなかったジーアスの手のひらから真っ赤な火の玉が出現すると物理法則を無視した動きで先に襲いかかった。
「あぶなっ」
しかし先は動じることなく火の玉を持っていたナイフで切り裂いた。
すすろジーアスは唖然とした顔でサキを見つめ、自分の手とサキの顔を交互に見る。
「え?あなた今何をしたの?」
「どうしたの?鳩が豆鉄砲でも食らったような顔して」
しかしサキはその問には答えずに再びジーアスの行動を注視する。
しかしジーアスは何やら焦った様子でいきなり部屋の奥へ逃げ出した。
サキもそのあとを追うが、何もない壁に向かってジーアスは減速せずに走り込む。すると壁はいとも簡単に壊れ隣の部屋へとジーアスは逃げ込んだ。
「隠し部屋か……」
サキは更にジーアスを追いかけた。
少女は困惑していた。生まれてからずっと魔法使いに憧れて猛練習した魔法。
それをナイフで切り裂くような人間が現れたからだ。
なによあいつ!私の魔法をナイフで切り裂くって?絶対に何かあるに違いないわ……。
少女はこの世界に来て慢心していた。
周りの人間はちょっと魔法を使えばレベルの低い魔法でも驚き歓喜する。それに心をよくした少女は言うことを聞かないものは力でねじ伏せ皆の心を掌握した。
今までにも命を狙ってくるものはいた。しかしそれらは全て待ち伏せの魔法……。自分の姿を隠し現像を生み出す魔法で返り討ちにしてきた。
しかしそれを破り攻撃魔法をナイフで切り裂く者が現れて初めて焦りを感じた。
元の世界での少女のスペックは一般の魔法つかいの下の下。
しかしこの世界に来てそれを感じなくなり天狗になっていた。忘れていたはずの恐怖が彼女を支配していたのだ。
何か話の口実を作らないと……いやなにかの策を考えてからで……。
考えつつ隣の部屋に逃げ込む。
しかし男はしっかり自分をおってきていた。
彼女の焦りは最高潮に達した。
そして部屋に入ってきた男に振り向く。
そうよ、なにかの間違いだわ。久しぶりに魔法を使ったせいでマナの配分がおかしかっただけ!私がこの世界の人間に負けるわけないんだから!
サキはそのままジーアスを追うと薄暗い部屋に出た。
あしもとには赤い幾何学模様が書かれており血の匂いが立ち込めていた。
もしかしてここが異世界召喚したとかいう場所かな?……。
情報と一致する部分が多いところからここが召喚の行われた場所であっているだろう。サキが思考を巡らせていると部屋の奥からジーアスの声が聞こえた。
「あなた名前は?」
そのセリフからジーアスが焦りと困惑そして自信のある感情が読み取れた。
結構混乱しているってところかな。
「人に名前を尋ねる時はまず自分から名乗るのが常識ですよ?」
サキにはわかっていた。ジーアスにはもう後がなく何かを焦っていること。
しかしそれと同時に何かをやろうとしていることも。
しかし表情からは恐怖心も見て取れたため少し挑発し少しでも情報を引き出そうとした。
するとジーアスは笑いだした。
「ふふっ!そうねそうだったわね。私の名前はジーアス!異世界より召喚された人類を超越した力を持つ者よ!」
一瞬二人の間に微妙な空気が流れる。
「ちょっと?何か反応してくれないとなんだか私恥ずかしいんだけど?」
「そんなこと言われても異世界とか急に信じられる分けないし……。何か証拠でもあれば別だけどね~」
サキは困ったような顔をジーアスに向けて会話の誘導をはかるが、ジーアスは何かムキになっているようだった。
「さっき私魔法使ってたわよね?あなたに切られちゃったけど!この世界では普通魔法は使えない。つまり私はこの世界の人間じゃないって証明になってるわよね?」
先ほどのファイアボルトとかいう魔法がこの世界の人間ではない証拠だと言い出したのだ。
しかしサキが知りたいのはそんなことではなく目的だった。
「さっきの火の玉が魔法?じゃあとりあえずジーアスさんは異世界から来たということにしましょう」
「しましょうじゃなくてそうなの!馬鹿にしてるの?私はこの世界では神みたいなも――」
「じゃあ何の目的でこの世界に来たの?それ以前に元の世界で異世界のことを感知するなんて出来るの?」
ジーアスの言葉を適当に流し必要な情報だけを聞いていくサキに調子を狂わせたジーアスは怒りの眼差しを向ける。
「私を怒らせたらどなるか分からせてあげる必要があるわね?……」
「え、どうしてそうな―――」
「我、古の水の女神の力の一旦をお借りしたもう、我のマナを糧とし顕現せよ!水球!」
またジーアスの手のひらから突然水の球が出現し物理法則を無視した動きでサキに向かってくる。
「あはは!さっきみたくナイフじゃ切れないでしょう?そうよ、私が負けるわけないのよ!怖がって損しちゃった」
「確かに切れないけど……」
サキは水の球を素手で叩き落とすと水の球は空中にはかなく霧散した。
「は?」
ジーアスはまたしても唖然とした顔をむけ自分の手とサキの顔を交互に見た。
「ななな、なんなのよあなた!」
「僕の名前?ゆうきって言います」
ジーアスは顔を真っ赤にして怒鳴る。
「私が聞きたいのはそんなことじゃないわ!なんでただの人間のあなたが私の魔法を切り落としたり素手で叩き落としたりできるの!?普通なら燃えて灰になるか、水圧で圧死するところなのよ?」
サキには理解できなかった。
確かに魔法という未知の力は凄いと思っていたが威力は水鉄砲やチャッカ○ンと同等に感じられたからだ。
もちろん普通の人間であればジーアスの通り死んでいる。
つまりジーアスは異世界人ではあるが、能力はさほど高くなくその魔法という神秘的な力で教団員たちを騙していたということだ。
「僕の質問に答えてくれたらジーアスさんの質問にも答えますし大人しく帰りましょう」
総微笑みながらジーアスに問いかけるとジーアスはおどおどし始める。
「ほ、本当に魔法を破った力の秘密教えてくれるの?」
「もちろんです」
「ホントのホント?」
「はい」
「…………わかった」
そこからのジーアスはまるで借りてきた猫のような大人しさだった。
聞き出した情報をまとめるとこうだ。
ジーアスの元居た世界の名前は゛ジアース゛そしてジアースでは神器というものが存在しており、神器には特殊な力が宿っていたという。
「ちょっと質問してもいいかな」
「なに?」
「どうしてジーアスさんとジアースの名前って似てるの?」
なんとなく気になったので聞いてみたがジーアスはまた顔を真っ赤に染める。
しかしその感情は怒りではなく羞恥である。
「どうしても答えなきゃダメ?」
「うん、約束だからね」
少しの沈黙があった。
「なりたかったの……」
「うん?」
「神様みたいになりたかったの……世界と同じような名前って何か神秘性を感じるじゃない?だから私神様みたいになりたいなって思ったの……。それに教団の人たちも私のこと神様神様って言ってくるんだもん。今更本名なんて名乗れないって思ってずっと……。ってもういいでしょ?!他の質問にしてよ!」
サキには何故ジーアスが恥ずかしがり答えにくそうにしていたのかイマイチ理解できなかったが1つだけ理解した。
「すごくどうでもいいことだったね」
落ち込んでいるジーアスをよそに更に質問を続ける。
ジーアスは協会の一人娘で既に両親は他界しており一人で暮らしていた。
そんなある日家の整理をしていたら古びた鏡が出てきたそうだ。
その鏡を鑑定すると神器であることが発覚した。その神器は世界に干渉する能力があったらしく、その神器を使い遊んでいたところ異世界の知識と教団の存在を知ったという。
その神器を使いこの世界のことを色々と調べているともしかしたら自分のような平凡な教会の娘でも向こうの世界ならば神様のように崇められるのではないか。
どうせ変な実験ばかりしているのだからそこに登場すれば私はたちまち人気者!そう思ったジーアスは早速準備に取り掛かった。
まず自分の両親の遺産を全て売り払い精神魔法の魔道具を買ってくるとその神器と組み合わせることで教団の筆頭である男に異世界召喚のことを吹き込み神器に魔法陣を作って欲しいと願ったそうだ。
するととある部屋に自分でも理解しえない魔法陣が書かれたという。
後はサキがサクラから聞いた情報通りだった。
最初に魔道具で教団の皆の心を掌握し天狗になっていた。しかし自分の手元に神器がなくなっており帰ることができなくなってしまった。
しかし元の世界に未練がなかったジーアスはこのままジーアスとして少しづつこちらの世界を支配していこうと企んでいたようだ。
「半分以上信じられないような話しですね」
「私からしたらあなたの方が信じられないわよ……。さて!」
ジーアスは何やら嬉しそうにサキを見る。
「ちゃんと約束は守ってもらうわよ!あなたの力の秘密はなに?どうして魔法を叩き落とすなんてありえないことができたの?」
もしかして実は同じような神器があって向こうからきた冒険者だったりして?などボソボソ呟いていたが必要な情報が手に入ったのでそろそろジーアスを始末しようとしていたサキは適当に応えた。
「努力の結晶です」
「…………」
これ以上にないくらいの笑顔で答えたサキに対してジーアスから聞こえてはいけない音が聞こえた。
プツン
「あんたなんて……あんたなんて異世界の大森林で路頭に迷って死んじゃえばいいのに!」
泣きながらジーアスは叫んだ。
そう言いながらサキに殴りかかってくるジーアス。しかしそれと同時に事態は動いた。
「「?」」
二人の足元にある模様が突然光りだすとサキの体だけが光の粒子隣足元から消えていったのだ。
そして近くにいたジーアスはまさに殴りかかってこようとしていたため反射的にナイフで切りつけた。
「イヤアアアア!……痛い痛い痛い痛い!」
左胸から腹部まで切り裂かれたジーアスは地面にのたうち回る。
しかしサキの体の崩壊は止まらなかった。
「術者らしき人を殺しても止まらないか……。やっぱりファンタジーとは違うのかな」
などとのんきなことを呟きながらまだ残っていた両手で床の魔法陣を破壊した。
しかし状況はそれでも変わらないままサキの体はどんどん崩壊していく。
そして消えたと同時にサキの意識は途切れた。
人間追い込まれると何をするかわからない。私もそうだったりします。
今回も読んでいただきありがとうございます。ブクマが増えていてモチベがグングン上がりました。
これからも頑張りますので応援よろしくお願いします。




