14話
よろしくお願いします。
しばらくして女神たちの準備が出来たのか、女神達は一斉に何かを唱え始めた。
言語は日本語が通じるけど魔法は聞いたことがないなぁ。
しばらくすると地面に模様が描かれ始める。
「実際に見るとやっぱり異世界って感じするんだね~」
「私達の存在を認識できる時点で異常なのですが…………!」
思い出したかのようにフレイアは聞く。
「そういえばどうして人間に私達の姿が見えるんでしょう!?」
「それを俺に言われてもねえ~」
サキは困ったような顔を浮かべながら二人を観察する。
アクエルもそれは考えていた。確かに人間には女神を視認することはもちろん会話もできないはずだ。
信託を使えばまた違ってくるが。それもたった一言二言程度である。
しかしアクエルには1つだけ心当たりがあった。
「異世界から召喚される勇者の中に、希に女神の声が聞こえるものや見える者がいると聞いたことがあります。もしかしたらこの世界に来た時に何かがあって見えるようになった………。とも考えられますね」
「そうですね……にんげ―――、あなた様の体に異常が発生したと考えるのが妥当でしょうか?」
どうも女神達は呼び名が無く喋り方が変になっていたようなのでサキは名前で呼ばせるべきか思案する。
「名前で読んでくれて構わないよ」
「お名前ですか。そういえばまだ伺っておりませんでしたが、なんとお呼びすればよろしいですか?」
そういえば名前そのままにしてたような…………。流石に改名したいところだけど。
サキは新しい名前を考えるがなかなか思いつかない。
仕方がないので女神達に考えさせることにした。
「俺には名前が無くてね~。よかったら新しい名前をつけてくれないかな?」
女神達は不思議そうな顔をする。
この世界にきたばかりとはいえ記憶があるのだから名前もあるだろうと不思議に思っているのだ。
もちろんそれを理解しているサキはこう続ける。
「とりあえずこの世界で生きていくのための名前だからさ。よろしく頼むよ」
先程と同じ笑みで女神にお願いすると女神達は相談し始めた。
そんなに真剣に考えなくてもいいんだけどなぁ………。
しばらくするとアクエルがおずおずと前に出る。
「あの、もしも気に入らなければご自分で変えていただいてもよろしいですか?…………」
「うん、大丈夫だよ」
「”ユキ"でどうでしょうか?」
随分元の世界に似通った名前だなと思った。
「ちなみにその名前には意味とかあるの?」
アクエルは少し嬉しそうに答える。
「はい。昔世界を救った勇者様が、とある女神に『あなたはユキのように美しい』と仰ったそうです。それが始まりで”ユキ゛という言葉には美しい、純白という意味があると言い伝えられています」
「そっか」
サキは少し納得した。
しかし何故アクエルが嬉しそうなのかまでは読めずにいた。
「あの………。ユキ様……と及びしても宜しいのですか?」
「うん、ありがとうね」
そう言うとアクエルはなんだか嬉しそうだった。
特別な思いが込められているとか?俺には理解できないけど。どうでもいっか。
しばらくして女神達は契約に必要な魔法陣を完成させた。
「ではユキ様、こちらの円の中心にお立ちください」
魔法陣の中心には三角形と四角形に重なるように書いてある円があった。
その円に立つと一瞬自分の中に何かが入ってきたような感覚があり、サキはふたりの女神に目を合わせる。
「あ、それは悪いものではありません。女神との契約には魔力を消費します。今のはユキ様の中にある魔力を魔法陣が確認しただけです」
どうやらこの世界特有の魔力という力が働いたようだ。
もし魔法を使うことになったらこの感覚が必要になる?……なら念の為に覚えておこう。
サキが魔力の感覚を覚えようと感覚の調整をしている間も女神達は準備を進める。
サキの立っている円の向かい側にある三角形の上に二人の女神が浮く。
「ではこれから詠唱をしますので、ユキ様はそれを復唱してください」
サキは頷くと先ほどの魔力の感覚を思い出しながら女神達を見る。
「「我、汝に従いし者」」
「我、汝に従いし者」
「「世の理から外れた力を欲す者」」
「世の理から外れた力を欲す者」
するとだんだん魔法陣が青白く光り始める。
「「我、今一度主を欲す」」
「我、今一度――――」
「「え?!」」
サキが復唱しようとしたとき、魔法陣から黒い電気のような光が走った。
女神達は何が起こっているのかわからずただその光を見つめるばかりだった。
するとサキの魔力の感覚がごっそり抜かれるそうな感覚がした。
同時に頭の中に声が響く。
『従者登録に成功しました。これより女神のスキルとレベル、ステータスが譲渡されます』
え?
サキにも何が起こっているのかわからなかった。
しかし冷静に状況を把握しようと頭の中に響いた台詞の意味を考える。
従者登録ってことは女神を従者に登録出来たってことかな?でも女神のスキル譲渡ってそのまんまの意味なら女神のスキルが俺のスキルになる?
サキいもこれ以上のことが分からないと判断し再び女神達の方を見ると驚くことに魔法陣が女神の体に浸透していた。
「これって!?私どうなっちゃうの!?フレイアー!」
「アクエル!?何?何も見えない!体から力が抜けていく!」
女神でも理解出来ない状況か……。
サキは魔法陣の光が収まるまで待つ。途中そのまま飛ぶこともできなくなり地に落ちそうな女神達を拾いしばらく待った。
やがて光は消え魔法陣の跡も綺麗になくなっており残ったのは女神達の腕に着いた黒い腕輪の模様のみとなった。
「一体何が起こったの?………」
アイタタタと頭を支え長たアクエルが周りを見渡すとフレイアがサキの中で意識を失っていた。
「ユキ様!?フレイアに何をしたんですか?!まさか………。裏切ったのね!」
突然のことで状況を把握できていないアクエルはそのままサキに向かって魔法を唱える。
「アイスプリズン!」
しかしいくらたっても魔法が発動せずアクエルは自分の手とサキと交互に見る。
サキは納得した顔をするがアクエリはますます理解出来ないといった表情で問い詰めてくる。
「わ、私に一体何をしたんですか!?………なんでフレイアを殺す必要があっだんでづがぁ?…………ひっぐぅぇえええん」
すると突然アクエルは泣き出した。
その時ユキの手の中で意識を失っていたフレイアが目を覚ます。
「ん~~~~~~!よく寝たー!やっぱり人間の尻に敷かれるなんて夢にきまってんのよー!この私がまさか人間に―――――」
「おはようフレイアさん。良く眠れた?」
すがすがしい気分で起きたはずのフレイアの平穏はモノの数秒で砕け散った。
「な、な、なななななななななーーーーんでもありませんよー!ユキ様がお元気そうで何よりです!この
フレイアゆっくり眠れました!」
態度が逆転してサキの機嫌をとろうと必死になるフレイア。
その光景を見てアクエルは自分の理解の顕界を超えたのか放心状態になりつつあった。
流石に面倒だと思ったサキは二人に状況の説明をすることにした。
「とりあえず状況の説明をしておこうか」
サキは二人を地面に座らせると契約中何が起こったのかを話し始めた。
最初は女神達の詠唱を復唱している途中で黒い光が魔法陣から発せられ、サキの中から魔力なるものがごっそりなくなった。
その途端頭に声が聞こえたこと。
女神達がその後気を失い地面に落ちそうになったところを拾いあげ光が収まるまで簡易な寝床を作りアクエルを先に寝かせフレイアも寝かせようとしたときに丁度アクエルが目を覚ましたことを。
そしてフレイアが殺されたと思い咄嗟に攻撃をしてきた事を話している途中からアクエルの顔はどんどん赤くなっていった。
逆にフレイアは嬉しそうではあるが笑いをこらえている様子だった。
「わ、私の勘違い?…………」
「うん」
「ぶふっ!」
とうとうフレイアは笑いをこらえきれずに声に出してしまった。
するとフレイアの脳天にアクエルのちょっぷが炸裂した。
「痛い!何するのー!」
「フレイアなんて知らない」
「ごめんってば~」
二人のやり取りを見ながらサキは更に状況を整理した。
頭の中に響いた声の言っていたこと。
これを考えると俺のステータスはもしかして?
そこまで考えたサキは自分のステータスを表示する。
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名前 ユキ(サキ)
性別 男
Lv 302
スキル 上級鑑定
魔力操作 最上級水魔法
最上級火魔法
称号 指名手配ハント
女神を従えし者
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なるほど。
女神のスキル譲渡っていうのはこういうことか。
サキのステータスには最上級水魔法と最上級火魔法のスキルが追加されていた。
つまり女神のスキル譲渡とはこの魔法スキルの譲渡だったのだ。
称号にも女神を従えし者って書いてるし………。契約ってそういう事であってるんだよね?
サキが一人で考えていると、落ち着いた二人の女神が恐る恐る聞いてくる。
「あの、本当にすいませんでした!」
「わ、私からも深く謝罪します……」
深々と頭を下げる女神達。サキは特に気にしていなかったので「大丈夫だよ」と一言だけ言うと二人の女神を鑑定してみた。
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名前 フレイア
性別 女
Lv ―
スキル 鑑定
感知
称号 火の女神
隷属
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名前 アクエル
性別 女
Lv ―
スキル 鑑定
感知
称号 水の女神
隷属
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すると女神達は自分が鑑定されていると分かりお互いに鑑定をしてみた。
すると驚愕の表情を浮かべる。
「ちょ、アクエル?…………あなたステータスが」
「え?」
不思議に思ったアクエルは自分のステータスを鑑定すると本日何度目かの青ざめた顔になった。
そしてフレイアのステータスを確認すると更に驚愕する。
「フ、フレイア!?あなたのステータスも…………」
「!?わ、私まで!?」
二人の女神はまたしてもあたふたし始めたのでサキが説明をする。
「教えてあげるかに静かにしてくれるかな?」
「「はい………」」
二人は静かになるとサキは自らの確認した情報と先程説明した内容を補足して伝えた。
「つまりユキ様n頭員響いた声の通り私達のスキルが譲渡されてしまったと………」
「そんなの納得できないわ!」
声を荒らげたのはフレイアだ。
「どうして?」
しかしサキが何故かと問うと急に黙り込む。
「それは………………」
「怒らないから教えて?」
サキは頬笑みを浮かべながらフレイアを見つめる。
するとフレイアは逆に困ったような顔を浮かべながらもおずおずと話し始めた。
「さっきの儀式………。あれは私達がユキ様と仮契約をして、少し魔力を分けてもらったら魔法を使わせて………。契約を解除することができる魔法でした………」
あたふたしており話し方が変なフレイアをアクエルが補足したがこういうことだった。
二人はサキに魔法を使わせある程度満足させたら魔力枯渇を起こさせその隙に逃げるつもりだったと。
しかし魔法の途中でトラブルが起こりこうなってしまったと。
サキは無表情のままナイフを取り出しそのまま笑顔は崩さずナイフを向ける。
「やっぱ殺しておいたほうが良かったかな?」
「「!」」
女神達はお互いを抱きしめ死を覚悟した。
しかしいつまでたっても来るはずの痛みは来ない。
恐る恐るサキの方を向くとナイフはどこかにしまいこちらを見ていた。しかもそのまま微笑みながら。
「どうして?…………」
「ん~、この世界の知識は君たちの方が詳しいだろうし。それに魔法もスキルだけあっても分からない。他にも君たちが居ないと困ることが多いからさ?もう少しだけ生かしておいてもいいかなって思ったんだよ。それにさっきのは冗談さ」
女神達はほっとしたが生きた心地がしなかった。
常に自分の命を危険に晒す事になるのだ。恐怖を抱かない方がおかしい。
しかしサキを見ていると何故かそんな気持ちはなくなりそうになる。
「とりあえず喋り方は楽にしていいからさ、これからもよろしくね?」
その笑みは恐怖と共に安心感を与えるものだった。
女神達には頷く他の選択肢はなかった。騙そうとしたとはいえ自分のスキルとステータスを全て失ったのだから。
「「はい」」