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聖女たるもの見過ごす訳には参りません 第2期  作者: 櫻木サヱ
正しさの形

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11/11

対話では止まらないもの

 事件が起きたのは、夜だった。


 私は城で報告書を書いていた。


 珍しく真面目に。


「……終わらない」


 机に突っ伏す。


 文字が多い。


 なんで兵士ってこんなに細かく書くんだろう。


「聖女殿」


 団長が呆れた顔をする。


「サボらないでください」


「心が折れました」


「木箱は折れるのに?」


「うまいこと言った顔やめてください」


 その時。


 扉が勢いよく開いた。


「報告です!!」


 兵士が飛び込んでくる。


 顔色が悪い。


 嫌な予感がした。


「北区画で襲撃事件が発生!」


「……襲撃?」


「武装した集団が難民居住区を――!」


 空気が凍る。


 私は立ち上がった。


「規模は」


「十数名!」


「兵士は!?」


「応戦中ですが、市民が巻き込まれています!」


 次の瞬間には走っていた。


 夜の街を駆け抜ける。


 遠くに火が見えた。


 怒鳴り声。


 悲鳴。


 嫌な音が風に混じる。


 現場へ到着した瞬間、私は息を呑んだ。


 酷かった。


 家屋が燃えている。


 難民たちが逃げ惑い、武装した男たちが暴れていた。


「出て行け!」


「この街を汚すな!」


 憎悪だった。


 完全な。


 兵士たちも応戦しているが、数が足りない。


 子どもの泣き声が響く。


 私は拳を握った。


「聖女殿!」


 団長が叫ぶ。


「止めます!」


 私は地面を蹴った。


 一瞬で一人目へ接近。


 男の腹へ拳を叩き込む。


 吹き飛ぶ。


 二人目の武器を蹴り上げ、そのまま壁へ叩きつけた。


 怒号。


 混乱。


 でも止まらない。


 私は次々と制圧していく。


「ひっ……!」


 襲撃者の一人が怯えた顔をする。


 知らない。


 今は止める。


 それだけだ。


「やめろォ!!」


 奥で悲鳴。


 振り向く。


 男が子どもへ剣を振り上げていた。


 間に合わない。


 そう思った瞬間。


「――ッ!!」


 私は全力で飛び込んだ。


 拳を振るう。


 轟音。


 男が地面を転がる。


 剣が砕け散った。


 静寂。


 子どもが泣き崩れる。


 私は息を荒げながら立っていた。


 周囲には倒れた襲撃者たち。


 兵士たちも呆然としている。


 その時。


「もうやめてください!!」


 声が響いた。


 リシェルだった。


 彼女は負傷者へ治癒を施していたらしい。


 白い服が血で汚れている。


「……終わりました」


 私は低く答える。


「違います!」


 リシェルが叫ぶ。


 初めてだった。


 彼女がこんな声を出すの。


「まだ倒れている人を殴ろうとしていました!」


 私は止まる。


 拳を見た。


 確かに。


 次の一歩を踏み出しかけていた。


 完全に制圧した後なのに。


「……あ」


 自分で、自分がわからなくなる。


 リシェルがこちらへ来る。


 苦しそうな顔だった。


「見てください」


 彼女が周囲を指す。


 泣いている子ども。


 怯える人々。


 そして。


 私を恐れている目。


「貴女は守りました」


 震える声。


「でも今、皆、貴女を怖がっています」


 胸が強く痛んだ。


 私は周囲を見る。


 難民の女性が子どもを抱き寄せていた。


 私から庇うみたいに。


 違う。


 私は助けた。


 守ったのに。


 どうして。


「……っ」


 呼吸がうまくできない。


 その時。


「聖女様!」


 一人の少年が駆け寄ってきた。


 さっき助けた子どもだった。


「ありがとう!」


 涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔。


「助けてくれてありがとう!」


 小さな手が私の服を掴む。


 私は言葉を失った。


 周囲の視線も揺れる。


 感謝と恐怖。


 安心と怯え。


 全部混ざっていた。


 リシェルが静かに目を伏せる。


「……これなんです」


 小さな声。


「私が怖いのは」


 夜風が吹く。


 燃える家の火が揺れる。


「暴力は、人を守れます」


 リシェルは認める。


「でも同時に、人の心へ傷を残すんです」


 私は拳を見る。


 震えていた。


 止めるための拳。


 守るための拳。


 なのに。


 その拳は、いつからこんなに重くなったんだろう。


 遠くで鐘が鳴る。


 鎮火の合図。


 でも。


 私の中のざわつきは、全然消えてくれなかった。

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