第40話
炭焼き窯跡へ続く道は、道というより、森が一度忘れて通り過ぎた傷のようだった。
黒く焼け焦げた円形の石積みがあちこちに埋もれ、半ば腐った丸太が苔の下からぽつぽつ突き出していた。
足元の土は、ほかより黒かった。
昔の煙が染み込んだ土地特有の、乾いた匂いがまだ残っていた。
風が一度強く吹くたび、落ち葉の下に隠れていた灰がごく細く舞い上がり、すぐ散った。
良く言えば、痕跡を隠しやすい地形。
悪く言えば、誰かが潜むにも向いた地形だった。
セラが前を開き、マヤが左の高所、リナが右後方を見た。
エリンとリリアは運搬台をつかみ、慎重に黒い土を踏んだ。
レオンはその後ろについて、できるだけ足音を殺そうとした。
そして三歩目で、乾いた枝を正確に踏んだ。
ぱき。
森全体がその音を聞いたようだった。
レオンは一瞬目を閉じた。
「……はい。」
リナがすぐ笑いを飲み込んだ。
「なんで毎回そんなに正確なの?」
「私もその点が少し気になり始めました。」
ところがその取るに足りない失敗が、不思議と先に敵をあぶり出した。
左の黒い土山の裏から、石弓が一本きらりと持ち上がった。
マヤの矢のほうが速かった。
ひゅっ。
石弓を持つ者の手の甲に、正確に突き刺さった。
「見つけた。」
マヤが低く笑った。
同時に、右の炭焼き窯の石積みの後ろからも二人が飛び出した。
黒いマントではなかった。
茶色のマントに、森色の当て布をまとっていた。
偽装用だ。
都市側の連中とは違うやり方で、森に紛れた者たち。
セラが一番近い一人へ踏み込んだ。
相手は短い槍を突き込んだ。
セラは体をほんの少しずらして槍を受け流し、槍柄の中央を剣で押さえた。
曲がった力がそのまま相手の手首へ返った。
武器が下がった瞬間、セラの足が相手の脛を蹴り、剣の柄が顎を打った。
男は後ろへどさりと倒れた。
二人目は運搬台を狙って内側へ踏み込んだ。
レオンが反射的に動いた。
正確には、動こうとして黒い土が足元で滑った。
彼は一回転半ほど横へ回って倒れた。
「あっ!」
【転倒判定】 【右側死角接近経路発生】
レオンは自分が地面に突っ込んだ姿勢を理解する前に、目の前に相手の脛が見えた。
近すぎた。
だから彼は、その足首を両手でただつかんだ。
相手は一瞬、罵声を吐いた。
「何だ、こいつはまた!」
【『しょぼい』判定を感知】 【補正上昇】
レオンは歯を食いしばったまま、そのまま体をひねった。
つかんで離さないほうが今の自分の得意技だと、悲しいが認めて久しい。
男の姿勢が崩れた。
リリアがすぐ、運搬台の脇に立ててあった短い鉄製の支えで、その男の手首を打った。
かん。
武器が落ちた。
エリンの氷片がその隙に飛び、相手の耳の下をかすめた。
冷たく細い悲鳴。
男はそのまま黒い土に膝をついた。
レオンは息を切らしながら立ち上がろうとして、今度は手に黒い灰がびっしりついているのを見てつぶやいた。
「いいですね。」
「だんだん人間より掃除道具に近づいています。」
マヤが上から笑った。
「不満なら、あまり転がらないことだね。」
「それができたなら、とっくにそうしています。」
短い交戦はすぐ終わったが、問題はその次だった。
捕らえた者の一人が舌を噛む前に、セラが顎をつかんでひねり、押さえ込んだ。
しかし二人目はすでに遅かった。
口元に黒い血の泡が広がった。
エリンが顔をしかめた。
「毒。」
マヤが悪態をついた。
「口まで仕込んでる連中か。」
生き残った一人は、腕を折られたまま地面に押さえつけられていた。
セラの膝が彼の背を押さえ、剣先は首筋のすぐ横の土に突き立っていた。
あと少し押せば、先に肉が開く距離。
その男は歯を食いしばっていた。
セラが尋ねた。
「誰の命令だ。」
沈黙。
セラの膝がほんの少し深く沈んだ。
男の息がぐっと詰まった。
「言え。」
その一言は森より冷たかった。
男は歯ぎしりし、やがて低く吐き出した。
「……灰色の目。」
マヤが舌打ちした。
「名前自慢はいいって。」
セラがすぐ続けて尋ねた。
「先回りした奴らの目的。」
男がちらりと笑った。
「丘だ。」
リリアの表情が固まった。
セラが目を細めた。
「そこで何を見るつもりだ。」
男の笑みが少し深くなった。
「見るのは……」
「お前たちだ。」
静寂。
レオンはその言葉がひどく嫌だった。
不吉な言葉は、内容より構造が嫌だ。
『お前が見ることになる』という文は、たいてい、すでに用意されたひどい光景があるという意味だからだ。
セラはさらに尋ねようとしたが、男の瞳が揺れた。
口元に泡が広がった。
エリンがすぐ言った。
「こっちにも毒が回ってる。」
「長くは持たない。」
男は最後に笑うように息を漏らし、そのままぐったりした。
リナが顔をしかめた。
「う。」
「本当に気持ち悪い笑い。」
マヤも同意した。
「良くないね。」
セラはゆっくり立ち上がった。
彼女の剣先についた黒い土が、風で少しずつ乾いていった。
「急げ。」
その一言で、再び隊形が動いた。
その後の道はさらに険しくなった。
炭焼き窯跡を過ぎると森は少しずつ開けたが、その分、風をより正面から受けた。
浅い岩の尾根の上を進まねばならず、尾根の下には封印河川へ続く灰色の水筋がところどころ見えた。
水は遠くからでも色がよくなかった。




