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第31話

表情は冷たくこわばっていた。


もう笑ってはいなかった。


代わりに、はるかに危険な計算が顔に浮かんだ。


「今日は奪えなくても構いません。」


彼の声が低く落ちた。


「どうせあなた方は北へ行かざるを得ないのですから。」


アデルが剣先を向けた。


「その前にお前の脚をへし折ることもできる。」


その男はふっと笑った。


「やってみなさい。」


彼の背後の壁面の影が、不意に揺らいだ。


転移術式。


エリンが叫んだ。


「また逃げる!」


マヤが矢を放った。


セラも同時に踏み込んだ。


しかし今度は相手のほうが速かった。


灰色手袋の男の体が影の中へ半ば沈み、最後の言葉だけが外に残った。


「リリアお嬢様。」


「北部へ行ったら、叔父君がまだ生きていることを祈っていますよ。」


それは悪意というより確信のように聞こえた。


そのほうが、なお悪かった。


リリアの顔が白く凍りついた。


直後、男の姿は黒い絵具のように壁へにじみ、消えた。


マヤの矢が何もない壁に刺さった。


セラの剣先も石壁をかすめただけだった。


短いが重い沈黙だった。


リナが先に鈍器を下ろし、息を荒げた。


「逃げたね。」


アデルが歯を食いしばった。


「ああ。」


「だが場はこっちが持った。」


エリンはすぐに運搬台のそばへ戻った。


彼女は震える手で封印線をもう一度確認してから、ごく小さくつぶやいた。


「ぎりぎり……本当にぎりぎり持ちこたえたね。」


レオンは壁にもたれて座っていた。


全身がうずいた。


肋骨、肩、腕、膝。


それどころか、転んだときにぶつけた場所の一つ一つが存在を主張し始めていた。


それでも彼は笑った。


みんな生きていたからだ。


壊れはしたが、崩れはしなかった。


リリアはぼんやりと礼拝堂の入口を見ていた。


灰色手袋の男が残した最後の一文が、まだ耳の奥に引っかかっている表情だった。


セラがその前に立った。


リリアが顔を上げた。


セラは短く言った。


「揺れるな。」


リリアの唇が震えた。


「でも……」


「生きているか確かめに行けばいい。」


とても単純な言葉だった。


けれどその単純さが、不思議と人を引き留めた。


リリアは何度か目を瞬かせた。


セラは続けて言った。


「奴が口を開くほど、私たちが行く理由が増えるだけだ。」


リリアは長い間の末にようやくうなずいた。


「はい。」


その返事はまだ弱かったが、さっきよりは芯があった。


マヤが鐘楼のほうを確認して降りてきながら言った。


「とりあえず、ここに長くはいられない。騒ぎが大きすぎた。じきに別の連中か、本物の警備隊が押し寄せてくる。」


アデルも同意した。


「そうだな。」


「だが一つは手に入れた。」


彼女は床に落ちていた黒いマントを足で裏返した。


内ポケットから小さな銀牌が転がり出た。


目の形の紋様の下に、ごく小さな文字が刻まれていた。


エリンがそれを拾うと、目を細めた。


「『灰色眼球会』。」


レオンが眉間にしわを寄せた。


「名前もかなり残念ですね。」


マヤがふっと笑った。


「いい知らせは、これで敵の名前ができたってこと。」


リナが明るく付け足した。


「悪い知らせは、名前がついた敵ってだいたい長く面倒くさいってこと!」


レオンがため息のように笑った。


「きわめて正確です。」


アデルは銀牌をポケットに入れ、まとめた。


「移動する。」


「ここからそのまま北側外郭の隠れ家へ行く。」


「街の中じゃもう隠れられない。」


セラがうなずいた。


エリンは運搬台の取っ手を握り直した。


リリアも反対側をつかんだ。


リナは壁に突っ込んだ荷車を引き抜きながら、一人でうんうん唸っていた。


「ちょっと待って、これまた使わなきゃ!」


マヤが即座にツッコミを入れた。


「それをまた使うの?」


「まだ転がる!」


「それ、転がるっていうより悲鳴を上げてるんじゃない?」


レオンは壁にもたれて立ち上がろうとして、痛みでまた顔をしかめた。


その瞬間、セラが彼の腕を片方から支えて立たせてくれた。


ごく自然に。


レオンは少し呆けた。


セラは何でもないように尋ねた。


「歩けるか。」


レオンは面食らって答えた。


「はい。」


「たぶん。」


「たぶんとは何だ。」


「……歩きます。」


「面子がありますから。」


セラがほとんど見えないほど口元を動かした。


「よし。」


その短い反応一つで、レオンの顔が一瞬止まった。


マヤがそれを見て、すぐにくすくす笑った。


「おやおや。」


「うちのレオン、今また無駄に元気が出た顔してるけど?」


レオンは即座に否定した。


「違います。」


「私はいつも一定です。」


エリンが冷たく切った。


「今、心拍数上がった。」


「なぜそれが分かるんですか?」


「魔力の流れを見れば分かる。」


リナが荷車をつかんだまま、無邪気に声を上げた。


「お、照れた?」


「照れてません!」


リリアはその短いやり取りを見ていて、思わず口元を押さえた。


まだ怖くて、まだ不安で、北部への道はまだ遠い。


それでもこの人たちのそばでは、恐怖がすべてを飲み込む直前に、必ず一度笑いが漏れた。


それが不思議と心強かった。


アデルが最後に礼拝堂の中を見渡した。


壊れた祭壇。


倒れた敵たち。


裂けた旗。


そして、まだ完全には崩れていない鐘楼。


朝の光は、今やその廃墟の上へ公平に降りていた。


まるで、ここでたった今誰が血を流そうと、誰が生き残ろうと、世界はどうせ明るくなり続けるのだと言っているように。


その無関心さが少し憎らしく、少しありがたかった。


アデルが言った。


「行くぞ。」


「次は北だ。」

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