第29話
二人とも運搬枠へ向かって一直線に切り込んできた。
エリンが運搬枠の前の床を突いた。
白い光の紋様が広がった。
瞬間、階段下の地面が凍りつき、滑りやすい傾斜になった。
斧を持った奴がそのまま足を踏み外した。
どん。
崩れた石柱に顔から突っ込んだ。
鎖を持ったほうは姿勢を低くして耐えたが、その隙にレオンが石を一つ蹴った。
飛んでいった石はあまりにも素朴で、むしろ悲惨に見えた。
だが、よりによって眉のあるあたりに当たった。
こつん。
「ああっ!」
レオンは自分でも驚きながら言った。
「これは私も予想以上に効きましたね」
敵が顔を上げた。
「この野郎、ただの邪魔物じゃなかったのか!」
【『取るに足らない』判定感知】
【補正上昇】
レオンは心の中だけでつぶやいた。
いや、もうほとんど荷物扱いだな。
相手が鎖を振るった。
レオンは避けようとして、肋骨が先に悲鳴を上げた。
体が遅れる。
しかしその遅れが、かえって妙に拍子をずらした。
鎖は本来彼の脇腹に巻きつく角度で飛んできたが、レオンが息を吸い込んで痛みで半拍ためらったせいで、肘のあたりだけをかすめた。
【負傷による動作低下感知】
【結果的に回避軌道変更】
レオンはもう本気で苛立ち半分、感心半分だった。
「このスキル、だんだん性格が悪くなっていますね」
彼は鎖がかすめた腕で相手のほうへ踏み込み、いきなり胸元を押した。
押したというより、本人がよろけながらぶつかった。
どちらも見栄えが悪かった。
それなのに相手が後ろへ倒れた。
その瞬間、リリアがまた動いた。
今度は固定棒ではなく、運搬枠の横にあった補強用の短い杭だった。
彼女は震える手でそれを振り上げ、倒れた男の手首にそのまま突き刺すように押さえつけた。
「ぐうっ!」
男の手から鎖が抜けた。
リリアは荒く息をした。
自分の目で見ても自分が信じられない顔だった。
レオンがにっと笑った。
「いいですね」
「もうずいぶん怖くなってきました」
「そ、そんなこと初めて言われました!」
「今日はたくさん初めて言われるでしょう!」
エリンがその最中にも冷たく切った。
「喋ってる暇があったら持ち手を握って」
「右側から術式が来る」
本当だった。
礼拝堂の内側、祭壇の影から赤い光が浮かび上がっていた。
灰色手袋の男は直接出ず、後ろの術者を通して儀式を動かしていた。
床に薄い円が幾重にも浮かび、鐘塔の旗の紋様と共鳴するように赤黒い線が広がった。
エリンの表情が悪くなった。
「奴ら、礼拝堂そのものを媒介にしてる」
マヤが叫んだ。
「意味だけすぐ言って!」
「建物ごと封印を揺さぶるつもりだってこと!」
その言葉とともに、運搬枠の中の箱が一度大きく脈打った。
どくん。
生きている心臓のように。
リリアが息を飲んだ。
レオンはその音に背筋がぞくりとした。
単に危険だという感じではなかった。
箱の中で何かが外を一度『見た』ような感覚。
今ここに誰がいて、どれほど揺れ、どれほど隙間が開いたのか。
エリンが素早く封印線を描き足した。
「くそ」
「長くは持たない」
「術式の円から切って!」
セラはすでにそれを分かっていた。
彼女は階段の上の三人をさらに倒し、礼拝堂の入口の中へそのまま切り込んだ。
回廊の中は狭かった。
壊れた椅子、倒れた燭台、砕けた聖像の欠片、埃。
正面には曲刀二本。
左には短槍。
後ろに術者が一人。
セラはためらわなかった。
彼女は真っ先に右の柱を蹴った。
どん。
柱そのものは折れなかったが、寄りかかっていた壊れた聖像の欠片が傾いた。
それだけで十分だった。
槍を持った敵の一人が本能的に視線を奪われ、セラはその半拍の隙を裂いた。
剣先が手の甲を突き、振り向いた肘がみぞおちを打ち、体をひねりながら足首を払う。
相手の一人が膝をついた。
他の二人が同時に斬りかかってきた。
セラは下がらず、さらに近くへ入った。
刃は遠いほど怖く、近づくと急にぎこちなくなる。
その真理を誰よりもよく知る動きだった。
二本の曲刀の間にあるごく狭い隙間へ体を押し込んだ彼女は、自分の剣ではなく、相手たちの肩と腕を互いにぶつけさせた。
刃物が絡んだ。
セラはその間を抜けながら、一人の耳の下を剣柄で打った。
もう一人の膝裏を足で蹴った。
短い。
正確だ。
そして残酷なほど効率的だ。
レオンは外からそれを見て、本気で思った。
うわ。
あれは怒った狼ではなく、避けられない宣告だった。
灰色手袋の男も、そこでようやく表情を少し変えた。
彼は一歩後ろへ下がり、低く命じた。
「捕らえろ」
「殺す必要はない」
マヤがすぐに嘲笑った。
「その台詞、一番弱い奴らが一番よく言うよね」
彼女の矢が鐘塔の旗竿を狙った。
たん。
旗竿が半ば裂けた。
旗がぐらついた。
赤い術式線が一度揺れた。
エリンがその隙を逃さなかった。
「いい」
「もう一回!」
マヤが二本目の矢を食らわせた。
今度は灰色の糸の紋様のど真ん中。
裂ける音とともに旗が半分に割れた。
その瞬間、礼拝堂の床を走っていた赤い線が一瞬切れた。
箱の脈動も止まった。
エリンが叫んだ。
「今!」
「奥の祭壇!」
セラはすでにそちらへ走っていた。
灰色手袋の男が初めて直接手を上げた。
彼の手袋の先から、黒い鎖のようなものが飛び出した。




