第26話
その言葉が落ちるやいなや、丘の下の方から獣の唸りのような音が聞こえた。
長く、低く、鉄を引っかくような唸り。
リリアの耳がぴんと立った。
「あれは……」
マヤが屋根の代わりに斜面の端の木へ登り、下を見た。
そして顔を固くした。
「は」
「ずいぶん律儀だね」
レオンが生唾を飲み込んだ。
「何が来るんですか?」
マヤが答えた。
「犬」
一拍置いて、付け加えた。
「ただし、ものすごく大きくて、ものすごく醜くて、ものすごく速い」
斜面の下の路地の端から飛び出してきたのは、本物の犬ではなかった。
黒い毛の代わりに影のような霧をまとった猟犬が三匹。
体格は子牛ほどあり、口元からは唾ではなく灰色の煙が流れていた。
目は黄色く光り、肋骨の線が皮膚の外へ浮き出たように痩せこけていた。
生きた肉片に呪いの形をかぶせたような姿。
奴らは低く唸って頭を上げると、正確に運搬枠の方へ飛びかかった。
エリンが罵った。
「呪術追跡犬じゃない」
「本当にひどい見た目」
セラが即座に言った。
「計画変更」
「ここで仕留める」
逃げながら相手にする種類ではなかった。
斜面は狭く、運搬枠は重く、後ろから猟犬三匹が速度を上げている。
一匹でもかすれば、リリアか箱が吹き飛びかねない。
セラが前へ出た。
マヤは側面の上へ広がった。
エリンは運搬枠の前に氷の印を打ち込んだ。
リリアは震える息を飲み込み、固定棒をまた握った。
そしてレオンは……
少し止まった。
目の前に文言が浮かんだからだ。
【強敵個体接近】 【使用者状態:負傷、疲労、それでもまた戦闘必要】 【補正要因:味方の保護対象存在、敵対個体による露骨な侮り予定】 【参考:今日も忙しそうですね】
レオンは唇の内側でつぶやいた。
「はい」
「なんともご親切です」
一匹目の猟犬が跳び上がった。
セラの剣が下から上へきらめいた。
奴の前脚の一本が空中で切り落とされた。
それでも奴は止まらなかった。
血の代わりに黒い煙が噴き出し、切断面がうごめいた。
「再生する!」
マヤが叫んだ。
二本目の矢が奴の目を貫いた。
猟犬がよろめき、地面を掻いた。
二匹目は右へ大きく回り込み、リリアの方を狙った。
リナがいない空白だった。
レオンがそちらへ走った。
正確には二歩走り、三歩目で泥を踏み、四歩目で滑った。
「おっと」
体が横へ回って転がった。
奴の牙は、本来レオンの首を噛むはずの位置で空を噛んだ。
【転倒判定】 【回避上昇適用】
レオンは転がった勢いのまま、斜面に刺さっていた木材の破片をつかんだ。
長さの中途半端な木片だった。
彼は半ば本能的に、それを猟犬の口の中へ突っ込んだ。
奴が唸って噛んだ。
ばきっ。
木が折れた。
その隙にレオンが叫んだ。
「今です!」
リリアが、本当に本人も信じられないという顔で、固定棒を奴の鼻に力いっぱい振り下ろした。
こつん。
とても人間的で単純な音だった。
だが妙にうまく効いた。
猟犬が頭を振った。
エリンの氷槍が、すぐその開いた上顎を貫いた。
黒い霧が噴き出した。
一匹が形を失って崩れた。
リリアは自分の手を見て、また消えていく猟犬を見て、最後にレオンを見た。
「わ、私、また当てました」
レオンは床から立ち上がりながら笑った。
「おめでとうございます」
「これで戦闘経験ができましたね」
「喜んでいいのかはよく分かりませんけど」
三匹目はその間にマヤの方へ跳んだ。
マヤは地形を利用し、斜面の石山の上へ軽く跳び上がった。
奴が後を追って跳んだ瞬間、彼女は体をひねって真下の顎に矢を打ち込んだ。
同時にセラが側面から踏み込み、首筋を深く裂いた。
しかしまだ一匹目が残っていた。
目を失い、前脚も半分切られたそいつが、かえって狂ったように運搬枠へ突進した。
目標が単純な奴だった。
箱に食いつくにせよ、封印を裂くにせよ、とにかく届きさえすればいい種類。
エリンが罵りながら封印陣を立て直した。
「くそ、今これを逃したら」
セラが振り返るには半拍遅かった。
マヤは弦を引いたが角度が悪かった。
リリアは固まった。
その刹那に、レオンがまた体を投げ出した。
今回は本人ももう分かっていた。
ああ、またこのパターンか。
彼は猟犬と運搬枠の間へ自分の体をねじ込んだ。
正面から止める力はなかった。
だから横へ体をひねってぶつかった。
相手の突進方向を、ほんの一寸でもずらすために。
猟犬の肩がレオンの肋骨をかすめた。
ものすごい衝撃だった。
世界が一瞬、横に倒れる感覚。
だがその一寸が大きかった。
奴の体は運搬枠の正面ではなく、斜面の外側へわずかに逸れた。
その隙にセラの剣が降りてきた。
まるで最初から待っていたように正確に。
ずぷっ。
鋭い音が一つ。
猟犬の首が半分ほど裂けた。
マヤの矢が同じ傷の中へ食い込んだ。
エリンの氷が傷ごと凍らせた。
奴はさらに二歩よろめき、黒い煙とともに崩れ落ちた。
静寂。
夜明けの冷たい空気の上に、しばらく白い息だけが浮いた。
リリアが最初に叫んだ。
「レオンさん!」
レオンは斜面の床に半ば突っ込んでいた。
彼はしばらく何も言わなかった。
それから、とてもゆっくり指を上げた。
「生きて……」
「います……」




