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増加装甲

 パンテル大尉の悩みはどの方向から敵補給物資の集積地、補給廠へ突入するかだった。幸いにして、先の襲撃で無傷の燃料トラックを鹵獲したため燃料は気にせず戦うことができる。


 敵補給廠の警備は少数と見込まれるものの、補給を円滑ならしめるために動脈たる街道のそばに位置している。


 補給廠自体の警備は薄くとも、そこに至るまでには敵兵力が存在するだろう。


 パンテルが目を付けたのは補給廠北方に存在する小川。川幅10メートルほど。これを渡河すれば補給廠までに街道など帝国軍が警戒していそうな地点はない。そして帝国軍からすれば川の存在する北方への警戒は薄く、まさか戦車中隊が突撃してくるとは想像の範疇外だろう。


 通常、川を戦車は渡河できない。膝丈ほどの浅瀬であれば川底の泥質により可能だが、一般には不可能と考えて良い。


 もし戦車が渡河するのであれば工兵による架橋支援が不可欠である。けれど四号戦車には、より正確には四号戦車の装備する増加装甲シュルツェンを活用すれば可能になる。


 具体的な方法としては戦車に取り付けられている増加装甲を川底に並べる。


 およそ二時間を掛け渡河。騒音から被発見を避けるため、最低トルクで前進。


 補給廠は最も近い樹木線から800メートルの距離にあった。


 「戦車前進《Panzer Vor》!」


 三回の斉射の後前進。履帯が土を噛み後方に巻き上げる。


 補給廠は、廠と大仰な名前が付いているものの、実態としては平屋の家屋や倉庫の集まりで、戦車中隊だけで十分に撃滅可能だった。


 走行間射撃でありながら、動かない、大きい家屋が目標であるだけに次々と命中する。百発百中。榴弾の炸裂は家屋を補給物資ごと炎上させ倒壊する。


 突然の襲撃に恐慌に駆られた帝国兵が建物から蜘蛛の子を散らすように出てきて駆け散っていく。中にはジープで走り出すものも見受けられた。


 倉庫の脇、道には物資輸送のためのトラック多数が停車していた。これが機銃弾によってバターのように切り裂かれていく。パンテル車は体当たりで横転させた。


 倉庫の一つが盛大な爆発を起こした。あまりの轟音にパンテルは一時的にろう状態になり、衝撃波に体がハッチの淵に打ち付けられた。


 爆発のやや茶色がかった煙、衝撃波に窓という窓が割れ、土煙が舞い上がり補給廠全体を覆った。


 十分とかからず補給廠は完膚なきまでに撃滅、無限軌道の歯車に蹂躙された。パンテル中隊は全ての建築物に砲撃、これを炎上、倒壊させた。


 これにより帝国軍の軍団司令部直轄として機動防御に急派した戦車一個師団の二日分の物資が失われた。

  

 さらにパンテル中隊は隣接の、戦車やトラックなどの修理を行う野戦修理廠も破壊。これにより本格的な修理は不可能になった。


 帝国軍軍団司令部は、この攻撃を実態より非常に過大に評価した。


 一つは命からがら逃げ延びた帝国兵が単に正確な数を覚えておらず大量の敵戦車と報告したこと。


 いま一つは攻撃の方向だった。北方から発起された敵戦車大部隊の攻撃。となれば戦車の大部隊が渡河するだけの工兵支援が、それも規模相応の工兵部隊の支援があったはず。そしてこのような支援を実施する後方部隊である建設工兵が大規模に進出していることを意味する。後方職種が大規模に進出しているとなればそれ以上の前線部隊、戦車や機械化歩兵が進出しているはず。


 要約すれば、どこからか国防軍の大規模団隊が急派した戦車師団後方に浸透している。軍団司令部もまた恐慌に陥っていた。


 軍団司令部から見て、補給廠は戦線の内側深くにある。そこを襲撃されたとなると楔は深く深く打ち込まれている。このまま事態が推移すれば前線の師団複数個が敵後方に置き去りにされ後退できずに殲滅されてしまう。


 軍団司令部は前線の師団、機動防御に用した戦車師団に後退を命じた。

 

 機動防御の戦車師団は、誤解された情報に基づき大きく迂回しての後退を余儀無くされた。誤情報というのは、軍団司令部から戦車師団への情報伝達の段階で、大動脈たり得る主街道は既に敵手に落ちたというもの。


 大隊、連隊、旅団はそれぞれ自前の補給段列を所持しているから、補給が来ないからといって即座に戦闘も運動も不可能になるわけではない。しかし既に戦闘に突入した部隊、つまり燃料弾薬その他の消耗が激しい部隊も存在する。


 そこかしこで燃料切れにより放棄される戦車、トラック、ジープが現れた。そういった車両は鹵獲を防ぐてめに戦車砲の射撃で破壊された。


 ここへ、泣きっ面に蜂とばかりに国防空軍の攻撃機が圧力を掛けた。急降下爆撃、ロケット弾による攻撃による直接的な損害、航空攻撃から隠れるために空費された時間、燃料。


 そして。軍団司令部が性急に後退命令を下したために前線各師団は混乱した。戦闘の指揮による多忙に加えて後退命令受領とあって、幾つかの師団司令部は麻痺と言って支障ないほどだった。


 反攻作戦を指揮するリュッツ歩兵大将以下司令部は、この混乱を敏感に捉えた。敵は戦線規模で態勢が浮つきふらつき崩れつつある。


 作戦規模での戦機。リュッツ歩兵大将は強力無比な打撃を当該戦線に迅速に与えるよう求めた。


 最初は2キロメートルに及ばない戦線の破口だった。これだけなら厳しいが歩兵師団単独で対処できない破口ではない。一個戦車師団であれば容易に閉塞できる規模。


 けれど特にパンテル中隊の突進により引き起こされた混乱により適切な対応ができず、むしろ情報の混乱、俗に戦場の霧と呼ばれるものによって悪手を重ねてしまった。


 結果、破口はとうとう20キロメートルを越え、種々の国防軍部隊がその破口から雪崩れ込んだ。

次回最終回


多分

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