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狼煙

 8月20日、単翼機の時代に国防軍の複葉機が前線の遥か奥を飛んでいた。最高時速は200km/hに満たない。この時代、単葉機は最高速5、600km/hはあるから相当な鈍足。


 この複葉機は戦闘を目的としておらず、兵員の輸送を目的としたものだった。


 高い短距離離着陸性能を持つこの機は女の子がお気に入りの人形を撫でる時のように丁寧に柔らかく路面に着陸した。


 中から飛び出したのは国防軍の最精鋭、特別工兵連隊所属の10人。レーダーサイトの破壊を目的に各地に降り立った。


 各人は一般の兵と違い、ひさし部分が切り落とされたデザインのヘルメットに細かい破片模様のスモック、灰緑色のズボンは一見普通のズボンと同じに見えるが、良く見ると右膝部分の横にポケットが付いている。ブーツについても一般的な長靴ではなくフロントレースの編み込み靴である。


 これは降下猟兵と同じ被服で、特別工兵連隊の将兵の過半数が降下猟兵から移籍してきたことに由来する。


 降下猟兵は、敵地に空挺降下のち戦闘という、前提からして敵中に孤立する。ゆえに精兵で構成され、独立した強力な戦闘能力を有する。


 この、特に敵地に独立して行動、戦闘可能という点が長駆敵地に浸透する特殊部隊という性質に合っていた。


 兵員は新鋭の兵器で武装し、豊富な弾薬を携行している。例えば、この時は最新のセミオートライフルを所持していた。


 そして降下猟兵も出撃準備を着々と進めていた。既に1ヶ月前から集結を開始。道中では部隊の行動を秘匿するために特徴的なヘルメットや迷彩、野戦服は全て着用を禁じられた。通常の陸軍の制服と装備一式で基地まで向かった。また防諜上よろしくないということで部隊歌を歌うことは禁じられ、また基地からの外出も同様に一切を禁じられた。


 基地に到着後に別途送られてきた装備一式を受領。小隊長以上の指揮官は連日格納庫に集められた。図上演習を繰り返した。


 任務が下達され、想定される敵戦力が伝達され、それらを元に図上演習を繰り返した。


 作戦発動一日前、8月24日には兵士に作戦が下達され、戦闘準備を完了した。


 滑走路には弾薬、燃料を満載した戦闘機、爆撃機が並んでいた。格納庫内には降下猟兵を乗せる輸送機、さらに牽引されるグライダー。


 グライダーの内部には37mm対戦車砲、81mm迫撃砲、弾薬、4人乗りキューベルワーゲン、バイクとなどが積載され活躍の時を静かに待っていた。


 輸送機の中にはコンテナの中に小銃、短機関銃、機関銃、携帯式対戦車擲弾が詰められていた。


 夜、前線では工兵による地雷及びその他障害物除去が行われた。戦車や装甲車から偽装が取り払われ、砲兵は射撃位置へ進出した。


 日が25日に変わる頃、司令部は一言だけ発信した。


 『Blitz』


 電撃を意味するこの言葉は反撃に先立ち、レーダーサイトを破壊を実行するよう命令するものだった。


 この間帝国軍は何をしていたのか。帝国軍は再度の攻勢を発起しようと精力を傾けていた。つまり国防軍も帝国軍も、同時期に攻勢を発起しようと戦力の集積に努めていた。


 しかし国防軍の戦術、戦略爆撃機が頻繁に補給線、拠点、列車や線路を爆撃するから補給が滞っていた。結果として国防軍の方が早く攻勢のための準備を整えた。



×××××



 クラッチマン中尉は一番深くまで浸透した部隊の指揮官だった。25日に変わったばかりの時間に『Blitz』電を受信した。


 中尉の見るところ、破壊を目指すレーダーサイトの警備は緩かった。レーダーサイトは二機のレーダーにコンクリート製の司令部と思われる建物、小ぶりで簡素な木造宿舎が2つの構成。100人ほどがいると思われる。


 周囲を鉄条網と地雷で囲い、土嚢で簡易な陣地を拵え数丁の重機関銃もある。


 だがそれらが相互に連携していない。各個に存在しているだけになっている。鉄条網で敵を足止めし、あるいは地雷と組み合わせて火力網(キルゾーン)に敵を誘引するようにも構成されていない。


 哨兵は二人組の動哨が30分に一度現れるのみ。しかもただ歩いていて周囲に気を配っていなかったり、キョロキョロ見渡すだけで警戒すべき箇所をまるで把握していないようだった。練度が低い。どうやらここには空軍兵しかいないようだから、陸戦に慣れていない、下手したらまともな訓練を受けていないと思わされる。

 

 前夜までに小隊は地雷を除去し侵入経路の啓開に成功。その時腐食している信管や、そもそも信管がセットされていない地雷まで発見された。


 01:00、小隊10名は集合した。


 突入部隊は機関銃班2名の援護の下に中尉を先頭に6名がレーダーサイトに突入。なるべく静粛に、発見されふまでこちらからの発砲は禁止。2名はレーダーサイトの通信線を切断し、爾後じご現在地で突入部隊の収容、もし襲撃が失敗した場合の報告を行う。


 月は極々薄く、時折り雲がかかる。同士討ちを避けるために銃剣の鞘を偽装網に差し込む形でヘルメットに付けた。銃剣は刃渡り25cm。鞘もそれくらいの長さがある。鞘が頭から飛び出るシルエットになるから夜闇の中でも敵味方の判別は容易につく。


 それはそれとして全員なんだか締まらないな、とは思っていた。


 01:30に突入部隊は侵入を開始。側面に僅かだが溝があり、これがレーダーサイト内部まで続いていた。おそらくせせらぎが流れていたと思われる。


 ここを匍匐で前進、鉄条網を切断する必要は無い。小型の円匙えんぴ(シャベル)で深く掘り、ツェルトバーンと呼ばれる迷彩が施された生地を何枚か重ね、木の枝でそれを支え天蓋のようにした。その下を各員が潜り抜けた。


 内部は全く静かで、風に草が揺れる音も聞こえる。6名は一丸となってレーダーに接近。二機あるのは包囲と高度の探知にそれぞれ機能が分かれているから。レーダーの周囲は腰の高さまでの土嚢に囲まれている他は地上に剥き出しで設置されている。これを操る人員が各6名。


 ここからはドンパチの時間だ。さすがに一切の音を立てずに12人を殺すことはできない。


 中尉は各人に手榴弾と、それからレーダーを爆破するための爆薬を持ってきている者は信管を装着するよう命じた。


 遠目から観察する限り、レーダー手の視線は上を向いている。敵航空機を発見するためのレーダーだから自然そうなるのだろう。


 レーダーの元まで匍匐で近付く。聞こえてくる話はとりとめがない。先程食べたという豆の缶詰の話だった。


 一斉に手榴弾を投擲、爆発と同時に突進して土嚢内を掃射した。


 部下が素早くレーダーに爆薬を設置。1kgの梱包爆薬を四つ束ねた物を時限信管をセットして基部に置いた。


 爆発と銃声に驚いてレーダーサイト内が混乱に包まれている内に部隊は全速力で潜り抜けた鉄条網まで走った。


 中尉は横目に兵舎から出てきた帝国兵のシルエットを見る。あまり判然とはしないが、どうやら武器を持っていない兵が目立つ。お粗末だ。


 戦時下に、爆発だけでなく銃声も響いたのに何も持たずに飛び出してくるとは。


 鉄条網の近くで伏せ、爆薬の起爆を待つ。


 次第に各所から出て来た帝国兵は武装している。けれど自分達突入部隊の位置は掴んでいないよう。


 レーダーに帝国兵が近付いてしきりに叫んでいる。距離もあり、また蜂の巣を突いたような騒ぎに何と言ってるのかはわからない。けれど爆薬は発見されていない。


 内心もうおさらばしたかったがレーダーの破壊が任務である以上爆発は見届けなければならない。


 さらに2分ほどで爆発。突入部隊は長いは無用とさったさと後退。結局、交戦は生起しなかった。


 各所でレーダーサイトが破壊され、さらに有線通信の多くが切断された。


 中尉は複葉機に回収される地点を目指し歩きながら振り返った。レーダーサイトから黒煙が立ち昇る。さながら国防軍反撃開始の狼煙のろしだった。

そこの君!この物語をここまで読んでくれたそこの君!読者諸君!私は切実に評価を必要としている。ぜひこの作品にポイントを付けコメントもしてくれ!おもしろかったでもつまんなかったでも何でもいいぞ!

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