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龍衣~竜騎士になった俺は白い少女と旅をする~  作者: 千 譚恵
第1章 竜騎士見習い編
9/10

温かい音色が浴室に反射して

 養成学校の授業が始まった。科目ごとに合格をもらい、全科目合格をもらったものから卒業、という仕組みになっているため、先輩後輩入り混じっての授業だ。

 

 授業の中には「基礎体力」という科目もあるのだが…


「なんで上半身ばっかり鍛える課題なんだよ…」

聞こえないようにつぶやく。


 俺の龍衣は膝周辺から下なのに、なぜかこの1週間、腕立て・背筋・ベンチプレス・砲丸投げなど、上半身しか鍛えていない。誰かの課題と間違えているのではないかと思いながら黙々と課題をこなす。それを言えないのは先生ムッキムキで怖いから…ではない。うん。


 ジェンシンとモードは全身、ヘルモス弟とエルモは下半身だ。ひたすら足腰を強化している。いいなあ~俺も走りたい。


 今日は基礎体力の科目で終了なので、今日の分の課題を終えたら浴室に直行だ。皆、何となく時間をずらして入っているようで、この1週間で誰とも浴室で会ったことがない。

 ヘルモス弟に聞いたら、「竜騎士は安易に龍衣を見せないのだよ。」と言われた。そうだったのか、だから俺が裸足、もとい、足の龍衣丸出しで出歩いているのをみんなぎょっとした目で見るのか。

 そんな目で見られるから、まだズボンは長いまま。そろそろ膝上が穿きたい。



「エルモ、今終わりか?一緒に浴室行こうぜ!」


…と気楽に誘えたらいいなあ、と思いつつ、「やあ、奇遇だな!」作戦を考え中である。男が風呂に誘いたいなんて、と思ったが、あの広い浴室の中で一人は寂しすぎる。食事の時にたまに話をするだけで、他の生徒とかかわりを持つことが少ないせいで、人恋しくなっているのかもしれない。


 エルモがちょうど浴室に入っていくところを見かけ、いそいそと俺も浴室へGO!


「いやあ~奇遇だな~」

イメージしていたのよりも歯切れが悪かったが、作戦成功だ。

「…そうですね。」


 エルモが上着を脱ぐと、肩甲骨のあたりから肩にかけて、ムール貝のような黒い龍衣が現れた。


「エルモ…エルモの龍衣、かっこいいな!」

思ったことを口に出してしまった。龍衣には触れない方がよかったか。


 すると、エルモは一瞬驚いた顔をして、ぼそぼそと何かを呟いた。

「ん?なんだ?なんか言ったか?」

「呪いの色なのだ。」


「呪い?ああ、背中だからあまりよく見えないんだな。後ろから見ると、黒光りする鎧みたいでかっこいいぞ?」

「あなたのそういうところ、うらやましいですよ。」


なぜかうらやましがられた。きょとんとしていると、エルモは脱衣所から浴室へ向かっていった。


 エルモの黒い龍衣をもっと見たくなって、俺も後を追った。すべての色を飲み込んでしまったような黒。まだ面積は広くないが、広い肩幅に広がる黒衣はまるで翼のようだった。


「エルモ~もっと見せろよ!」

「自分のでも見ていろ。」

そっけない返事が返ってきたが、話には付き合ってくれそうだ。


「生徒で龍衣を見せている人、いないよな。風通しのいい状態が好きじゃないのか?」

「できれば服で覆いたくないが、貴族としてよくない服装になるから、我慢しているのではないか?」

それからエルモはぼそぼそと、みんな“貴族”でいたいのだ、と続けた。


「やっぱり!服で覆いたくないのは一緒なのか!」

エルモのぼそぼそとしたしゃべり方に慣れてきたころ、モードがやってきた。


「エルモ~っうわ!えーと、ワオ?」

WOW!

「シャオだよ。」

「そうだった。ごめんなさい。」



 はじめは目も合わせないことが普通だったが、最近目を合わせてあいさつができるようになった。モードのエメラルドの龍鱗に目が奪われる。まだほとんど増えておらず、“龍衣”と呼ぶにはつつましやかなそれは、水に反射してひどくきらめいた。


「シャオ、龍衣が気になるのか。」


 エルモに言われ、はっと我に返った。そう言われればそうか、と妙に納得した。龍衣が、龍鱗がとても気になるのだ。自分でもびっくりするくらい。


「ああ、何となく、気になる。モードの龍衣はエメラルドみたいですごく光るな。」

「耳だから、龍鱗が増えるたび目立ってしまって…」


 そっか、モードは隠せないもんな。俺ももう隠さなくていいかな。すでに靴を履くのはあきらめたし。


「俺、明日からキュロットで授業に行くから。目立つのはお互い様だ。」




 お互いさまってなんだよ、とモードとエルモは心の中で同時にツッコミながら苦笑した。

その時、モードは、龍鱗が増えるたびに聞こえ、感じられるようになってきた音の波の中に、ガラスが打ち合わせられたような音が響くのを感じた。キイィィーンと響いた音の波は耳に心地よく、固まっていた心まで溶かすような音色だった。

 振り返ってみると、シャオが湯船に腰かけながら立派な龍衣のついた両膝を打ち合わせていた。燃えるような赤い龍衣から、温かい音色が浴室に反射して、モードの心も温めた。


お読みいただきありがとうございます!

週一くらいで更新いたします。

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