報告
「それで、四人はそのまま逃げかえったということか?」
俺は今王城で国王に報告している。この部屋にいるのは俺とアースとユリウスの三人と、国王にカリウス、そして騎士団長と宰相だ。校長はガルドフから負った傷をいやすために今は休養を取っている。
「すみません。こちらの被害が大きすぎたことと敵のほうがかなり優勢であったこと、そしてこの情報を持ち運べるのが自分たちしかいなかったことから、一度撤退することに決めました」
この中では唯一国に直接雇われているアースが俺たち三人を代表して発言する。
「それは本当に撤退するしかなかったのかね?それに、敵が言った通り本当にディアナ様がいなかったとは限らないのではないか?それこそ、向こうの演技に騙されたとかはなのかね?」
宰相が責めるような口調で問い詰める。
「向こうの演技であった可能性は否定できません。しかし、仮にそれが向こうの演技であったとしてもそもそも戦力差がありました。私たちの中に騎士団長や宮廷魔術師が一人二人でもいれば戦えたかもしれませんが、そもそも敵のほうが戦力が上であるのに加え、校長が手負いであるこの状況では撤退せざるをえませんでした」
アースは意外と冷静に状況を説明する。撤退するときはいろいろとごねていたが、報告するときはあくまで冷静だ。さすがに国王の影なだけある。もしかしたら、いきなり出てきた子供である俺にイラついていたのかもしれない。それがなければちゃんと冷静なのかもな。というか、隠密行動をすることが多いと思われる影は常に冷静でなければいけないだろう。
「ウォルコット、撤退を決めたのはお主と校長が中心だったそうじゃが、本当に無理そうだったのか?」
「ああ。向こうの人数がこちらの倍以上いたうえに、その全員が手練れだった。その上、敵のトップは俺たちの中では校長しか倒せそうにない相手なのに、その校長が手負いになってしまった。しかも、ここにいるアースさんはあまり冷静ではなく、ユリウスさんに至っては恐怖で戦力になっていなかった。これ以上戦っても勝つのは不可能だと思われたから撤退した」
「敵のトップと思われる人物はなんという名前だったのじゃ?」
「たしかガルドフっていう名前だったと思う」
「ガルドフだと!?それは本当か?」
騎士団長が俺に詰め寄ってくる。
「それが本当じゃったとしたら、撤退するのもしょうがないかもしれんのう」
「本当でしたよ。私も間違いなく聞いていました。ウォルコット君の言う通り、情けない話ですが私はそのガルドフから受けた恐怖に足がすくんでしまいましたしね。あれほど恐ろしい敵と出会ったのは初めてでした。なんせ、これまで対峙してきた敵とは格が違いました。あれほどの殺気や覇気は知りません」
「それほどまで強い敵なのですか?」
この中でガルドフの力を知らないのは宰相だけのようだ。
「奴に直接会ったのはあのクラス対抗戦で国王様が襲われて、ディアナ様がさらわれた時だけだが、その強さは肌で感じることができました。それに、奴にまつわる噂はすごいです。一人で数万の敵に立ち向かったとか、ドラゴンとサシで勝負したとか、とにかくいろんな話があります。宰相殿にもわかりやすく説明するのであれば、大体私と同格とでも考えていただければいいと思いますよ」
「騎士団長と同格ですと……それは本当なのですか?」
「嘘を言ってどうするんですか。私はただ感じたことを言っただけですよ」
「しかし、我が国の軍事のトップでありなおかつ最高戦力でもある騎士団長が敵と互角などと知れたら、兵の士気が下がるのではないですか?」
「そんな見栄はとうの昔に捨てている。そもそも、この国最強は建国以来ずっとカリウス様だ。カリウス様と互角かそれ以上だと言われればともかく、私と同格ならそれほど士気が下がらないと思うぞ」
「確かにカリウス様はすごいですが…」
「よい。今はそんなことを言っている場合ではないだろう。今しなくてはならないことは、一刻も早くディアナを見つけ出すことだ」
「「は!」」
「しかし陛下、これからどうするのじゃ。向こうが彼女をどうするつもりかは知らんが、王女ともなればたくさんの使い道がある。彼女の奪還を諦める手はないと思うのじゃが」
「はい。カリウス様の言う通り、ディアナを見せてるという手はありません。ですが、そこにばかり力を割いていては国が回りません。ですからディアナ捜索隊を結成し、その者たちに捜索を一任します。余を含めたほかの者たちはその捜索にはあまりかかわらず、政務をきちっとこなしていこうと考えています」
「ここにいる三人や向こうで死んだ者たちのことはどうしますか?」
「一度現場に戻り死体や武器なりを回収し、死体や持ち主の分かる武器はそれを遺族に届けるものとする。敵がどうしているかわからないので、ある程度の戦力を用意しできるだけ早く回収に向かわせることとする。また負傷者がいるかもしれないから、一応回復魔法なりが使えるものも同行させる。この者たちは任務こそ果たせなんだが、こうやって報告に来てくれたことからある程度の礼は渡すことにする」
国王はそう言って、今回の報酬として用意していたであろうたくさんの金貨が入った袋の中から、金貨を何枚か取り出して俺たちに渡した。いくら依頼の達成ができなかったとはいえ、あんな敵と戦わされたうえに〈テレポーテーション〉まで使って俺以外の奴も逃がしたのにこれだけとは、今回の依頼の効率はあまりよくなかったな。どうやら今回の依頼を断ろうとしていた俺の判断は正しかったらしい。
「それなら儂が何人か連れて今から行きましょうか?」
「さすがにカリウス様に回収作業をさせることはできませんよ。何人か適当に見繕って送り出しますから大丈夫です」
「いや、そうした場合かなり時間がかかるじゃろう。あまり時間をかけすぎるとアンデッドになってしまいます。それに、早く行けば敵がまだいるかもしれん。上手くいけば敵の情報を入手できますから、ここは儂が中心となってすぐに向かうべきじゃろうな」
「カリウス様が直々に向かってくれるとは…感謝いたします」
「うむ。任せておけ」
いや何が『うむ。任せておけ』だ。あんたが向かえるならその前の段階で向かっておいてくれよ。あんた一人がいれば、それこそ今回敵アジトに行ったメンバー全員より強いだろう。俺たちなんかが行くよりもかなり効果的だ。
「それではウォルコットよ、早く準備するのじゃ」
「え?」
なんで今帰ってきたばかりの俺が準備しなくちゃならないんだ?
「何を驚いておるのじゃ。〈テレポーテーション〉は行ったことのある場所にしか行けん。向こうに行ったことがある中でなおかつ〈テレポーテーション〉を使えるのはお主しかおらんじゃろ。儂と後何人か運ぶのじゃ」
またあそこに行くのか。ガルドフに目をつけられてしまっていたから向こうにはまだ戻りたくないのだが。もしもまだガルドフがいたら襲い掛かってきそうな気がする。
「魔力量的に今は厳しいんですが」
「それならほれ、ここにある魔力回復のポーションでも飲めばよかろう。これで回復はできるから大丈夫じゃろう?」
「やっぱそうなりますよね…」
もらったポーションを飲むと、魔力が回復して〈テレポーテーション〉を使っても問題がなくなった。まあ、これを飲まなくても〈テレポーテーション〉をできるだけの魔力は会ったのだが。
「それではいくぞ」
「いやちょっと待った。たった二人でいくつもりか?」
「そんなわけあるまい。そこにいる騎士団長も一緒に行くのじゃ」
「はい。こうなったのは私がふがいなかったことも原因だ。悪いが、私もカリウス様と一緒に連れて行ってもらえないか?」
なんで騎士団長と首席宮廷魔術師を連れて行かなきゃならないんだ!?というか、やっぱり最初からくればよかったじゃないか。そうすれば犠牲はもっと少なかったかもしれないのに。
「わかりました」
二人の態度を見ると、ガルドフたちがまだ残っていることを望んでいる節さえある。まだ俺たちが帰ってからあまり時間がたってはいない。向こうがすぐに逃げようと考えていたのならともかく、そうでないのならまだいる可能性は十分にある。この二人が敵と戦う分にはどうでもいいし勝手にやってくれという感じだが、それに俺まで巻き込まれるのはごめんだ。この二人を送ったらとっとと帰らせてもらおう。
「それでは頼むぞ」
「ええ。それでは行きます。〈テレポーテーション〉」
俺は本日三回目の〈テレポーテーション〉で敵アジトまで一瞬で飛んだ。
「それで、結局敵とは会えずじまいだったのだな?」
現場にもう一度戻ったのだが、敵は全員撤収していたようで誰もいなかった。敵といないことを確認した後、カリウスが一度〈テレポーテーション〉で戻り遺体や遺品、けが人を回収するための人間を運んできた。一発で何十人と一気に連れてきても余裕そうな顔をしていたことから、彼の魔力量のすごさを思い知った。
その後三時間くらいですべての作業を終えて帰ってきた。それからもう一度報告に向かい今に至る。
「残念ながら。これはもう捜索隊にすべて任せるしかないですね。ディアナ様がどこにいるかはわからないですから。一応敵アジトの残骸の調査はすべきかもしれませんが、あれほど破壊されているのでそんなものがあるかどうか。それにディアナ様がいなかったのだから、重要な資料はすでに運び出しているでしょうしね」
「すまんディアナ……ふがいない余のことを許してくれ」
「王のせいではありません。あの場にいてディアナ様を守り切れなかった我々が悪いのです」
ディアナが敵対組織の手にあることでこの国がどうなっていくのか。何も変わらないのか?それともショックから王の政治力が落ちるのか?どこかの貴族が力を伸ばしてくるのか?ディアナを手に入れた組織の活動が活発化していくのか?どうなるかはわからないが、俺の願うことは一つだけだ。そう、どうにかそれに巻き込まれませんように、ということだけである。
「次はガルドフ相手でも勝てるようになってもらわんといかんのう。そのためにも、もっと修業を厳しくせねばな」
やはり爺の修業からは逃れられないようだ。しかし、修業はつらいがその分得るものは大きいので、修業を受けること自体は有益だ。この爺の修業を受けて強くなりちょうどいいところで卒業し、その後この国の中枢にあまりかかわらない位置に行こう。
今の状況はあまり望んでいる立ち位置ではない。もう少しはなれたくらいがいい立ち位置だ。いつでも切り離されるかもしれないし、いつでも切り離せる。これがベストである。なぜなら、密接になりすぎるとその貴族なりが失脚したときに道連れになるからだ。野心があるならそのリスクを負ってでもというのはわかるが、俺はそこまでの野心がないので、顔見知りであるというくらいの距離感がいい。自意識過剰かもしれないが、なんだか国王が俺を囲い込もうとしているように思えるのだ。勘違いならそれでいいが、勘違いじゃなかった時は大変である。
「お手柔らかにお願いします」
ディアナを救出できなかったことにより重い空気が漂いながらも、その日はそれで解散になった。




