状況2
この世界、少なくともこの国の言語が日本語に非常に酷似していたのは知っていたが、文字すらもほとんど同じであった。
このことによって言語及び文字の習得が非常に簡単であった。文字もほぼ同じであったので、早くから本を読んで情報収集をすることが簡単にできた。
この世界、少なくともこの国では本は日本に比べれば高かったが、高級品ではなく、庶民にも手が出るほどであったし、うちは稼ぎが良く、仲のいい子爵家も本を読ませてくれていたので、本にあまり不自由することなく、情報収集がかなりはかどった。
その結果、ここはいわゆる剣と魔法の世界であり、ファンタジーの定番であるエルフやドワーフ、精霊や妖精、獣人に魔族、魔物やドラゴンなど様々な種族がいるらしい。
辺境に隠れ住んでいる少数部族や、進化して新たに生まれた個体など、世界には自分たちのまだ知らない様々な種族がいるかもしれないらしい。
たくさんの種族がいるという意味では地球と同じといえるが、大きな違いは人間以外とも意思疎通ができるということだ。エルフやドワーフは言葉を話すし、魔物でも高位のものになると言葉を話せるものが割と多くいるらしい。
この世界の文明レベルは中世ヨーロッパくらいみたいだが、魔法によって地球とは全く別の進化を遂げていて、必ずしもすべてが地球より劣っているわけではなく、むしろ優れている部分も所々に見かける。
貨幣は銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、白金貨であり、10銅貨=大銅貨、10大銅貨=銀貨というように10進法であらわされる。お金の単位は『R』といわれ、銅貨一枚で1Rであり、白金貨一枚で100万Rである。自分としては1R=10円くらいで考えている。
また、暦は12ヶ月で一年であり、1ヶ月で30日、地球と同じく日曜日から土曜日の七日で一週間である。
現代人としては自転のずれなどを計算していないのかとも思うが、そもそもこの星は明らかに地球ではないので、地球と同じとは限らないからそんなものかと納得することにした。
そして最も気になっている案件である俺と同じところ、もしくは別のところから来た異世界転移/転生者の存在の有無だ。
結論から言うと、異世界転移者は過去にも、そして現在にも少数ながら存在している。
異世界転移者はその転移方法から二種類存在している。
一つ目は召喚魔法で呼ばれてくることだ。
召喚魔法は膨大な魔力や星の位置など、様々な条件を満たさなければならないだけでなく、失敗することも多く、ただ異世界人が召喚されなかったとかならいいが、場合によっては失敗して大爆発などが起こることがある。
異世界人を召喚しようと考えるのはよっぽどの物好きか、よっぽど追い詰められていて、異世界人の力を借りたいという者(大抵は国)が失敗覚悟で行うというのが相場である。
二つ目は迷い人の存在である。
迷い人とは、詳しく理由はわからないが急にこの世界に来てしまった人たちであり、何の前触れもなく唐突にこの世界に現れる者たちである。
この者たちは基本的に国が保護していることが多いらしいが、現地人に溶け込んで生活する者もある程度いるらしい。
異世界人に共通することとして、何らかの力を持っているということがわかっている。
おそらく魂が別の世界に来たことで変化して、そのことにより何らかの力が発現するといった説や、元々何らかの力を持っていたが、それがこの世界に来たショックで発現したなど様々な説がある。
異世界人は何らかの力が発現するらしいのだが、それが強力なものであるとは限らず、全然役に立たないものや、この世界の住人が少し頑張ればえられるものなどもある。
だが、強力なものになるとそれこそ英雄のような力をふるうことができるらしい。
転生者は今のところ見つかっていない。
もしかしたら俺がこの世界初の転生者かもしれないが、転生者本人が申告していない場合もあると思う。
俺だってこの先自分が転生者だとばらす気はない。
異世界の記憶がある転生者だからと言って期待されることは嫌だし、もし前世の記憶を持った転生者だと知られれば家族との関係にも変化が生じるかもしれない。
俺は家族のことはなんだかんだ言って大好きだし、向こうも俺のことを好きであると信じているが、それでもすこし不安である。
異世界転生者だと明かしたとしても俺に何らメリットはなく、むしろデメリットしか考えられない。
仮に向こうの世界に行けたとしても、俺の姿は完全に別人だ。家族や友人に会ったところでどうにかできるわけでもない。
異世界転移者の数は非常に少なく、この国には現在公にされている範囲ではあるが異世界転移者はいないらしい。
今後異世界転生者だということは明かさないとして、強力な力を持つかもしれない異世界転移者には一応注意しておこう。
俺たちの住んでいる町は、シルフォード王国内にあるロークスという街だ。
ロークスという町名は、単純にこの町ができたときにロークス家がこの地を治めていたことからこの名がついているだけだ。
人口は2万から3万ほどであり、経済的には貧乏でも裕福でもないまあまあの町である。
ロークス家は代々とびぬけて優秀な領主はいないが、どの領主も領民のことを考え領民のために働いてきたため、ロークス家への領民からの信頼は厚い。
シルフォード王国は貴族制をとっていて、頂点に国王を置いている。
貴族の位は上から公爵・侯爵・辺境伯・伯爵・子爵・男爵であり、貴族以外のもので功績をあげたが、爵位持ち貴族に任ずるほど大きな功績ではない者を名誉貴族としている。また、貴族家の当主と次期当主以外は家を継げないため、家にいる間はあくまで貴族の子供として扱われ、家を出た場合は名誉貴族の扱いになる。
ちなみに家名を持てるのは爵位持ちの貴族とその一族だけであり、貴族は二つ、王族は三つ、国王は四つの名前を持つ。家を出て名誉貴族となった場合も家名を持ち続けるはできるので、平民上がりの名誉貴族よりは上だと思っている者がほとんどだ。
また、名誉貴族は家名を持てないだけでなく、特権といってもなにか給料や年金が出るわけではなく、国で貴族と同じ扱いを受けるだけの名誉職なので、口の悪いものはなんちゃって貴族と呼んだりする。
ちなみにうちの母と父は名誉貴族である。母さんはBランク冒険者として、父さんはロークス騎士団の団長として名誉貴族となった。
父さんと母さんはこの町を出て冒険者として名を挙げた後に、故郷で子供を産んで育てたいということでこの町に帰ってきた。
両親がしていた冒険者のランクは、G~Sまでの8段階ある。
母はBランク冒険者であったらしく、これはかなりすごいことであり、母さんはお酒が入るとよく自慢話を始める。
「私たちは下級竜倒したことがあるのよ。私とルークにかかれば下級竜だって楽勝よ!」
下級竜はBランクの魔物である。
魔物にもGからSのランクがあり、Bランクの魔物はかなりの脅威であるので報酬もたんまり出たらしい。
母さんと父さんは基本的に二人でパーティーを組んでいて、依頼の規模によっては臨時でほかのパーティーと一緒に依頼を受けていたらしい。
「がんばって私を超えなさい!私とルークの子供ならAランクも夢じゃないわ。爆炎の魔女として鍛えてあげる」
爆炎の魔女というのは母さんの二つ名であり、Bランク以上の冒険者には必ず付くものである。
父はCランクなので二つ名はついていないそうだが、Cランクでもなるのが難しく、強者の部類に入るらしい。
この世界には『鑑定』という魔法があり、その魔法は対象の力を見ることができるらしい。
『鑑定』の魔道具によって強さのランクが誰にでもわかるらしく、このランクもG~Sの8段階である。
ランクによる強さの基準は
Gランク・・・一般人以下
Fランク・・・初球の戦士、見習い
Eランク・・・そこそこの戦士
Dランク・・・一人前の戦士、凡人の限界
Cランク・・・一流の戦士、秀才の限界
Bランク・・・超一流の戦士、天才の限界
Aランク・・・怪物、人間の限界
Sランク・・・人の限界を超える、種族進化『ハイヒューマン』以上
これが強さの基準である。
もっとも冒険者のランクは強さ以外の要素も必要であるが、単純な実力としてのランクはこうである。
ちなみに、寿命はランクが高いほど長い傾向にあり、Aランクの魔法使い等は、二百年近く生きる者もおり、『ハイヒューマン』だと千年以上生きる者もいる。
これはあくまで人間の話で、獣人やエルフなどの種族では寿命や限界の基準は違うが、総じて言えるのはSランクになるためには、種族進化をしなければならないということだ。
魔物のランクは強さだけでなく、その脅威度からも算出される。
もちろん同じ魔物でも個体差があるので、ランクはあくまで基準であることを忘れてはいけない。
とくにSランクの魔物や実力者の場合、Sランクより上の基準がないので、もしSSやSSSランクなどがあったらそこに収まっているんじゃないかという者もいる。
まあどちらにせよSランクの魔物が現れた場合、大抵の人間は全力で逃げるか脅威が去るのを待たなければならない。
話はずれたが、母さんと父さんは冒険者として名声を得てから、ロークスに帰ってきて子爵家の家臣として働いている。
特に母さんは元Bランク冒険者なのでもっと待遇のいいところにも仕官できたそうだが、故郷に帰ってきたということで割と領民からは人気だ。
父はロークス騎士団の団長として、母は魔法顧問として働いているらしく、父は騎士団の訓練や書類仕事などで忙しいらしいが、母は問題がおこらない限り割と暇らしく 、よくミリムさんや町内の婦人会の人たちとお茶したりしている。
そのくせ給料は父とさほど変わらないので、『それでいいのかロークス領』とは思うのだが、元Bランク冒険者の価値は高いらしく、全然問題ないらしい。
まあそこらへんは俺が口出すことでもないので、気にしないことにした。
ワイバーン→中級竜→下級竜といろいろ変化しましたが、下級竜で決定のつもりです。