パーティー
カール君の立場を変えました。前の設定だと、彼が次期当主にすんなり決まってもおかしくなかったからです。
今日はフィーネの五歳の誕生日だ。
この国では基本的に五歳と十歳、そして十六歳の誕生日を盛大に祝う。もちろん毎年誕生日を祝う家もあるが、祝わない家もある。その辺の決まりはないが、五歳、十歳、十六歳の誕生日はほとんどが確実に祝う。順番的になぜ十五歳じゃなくて十六歳なの?とは思うが、これは十六歳で成人として認められることが影響している。ほかにも十歳は学校に入学する年でもある。
貴族ともなると特にこの年は重要になる。基本的に五歳はほかの貴族たちへの顔見せ、十歳は学校入学を祝って、十六歳は成人貴族だ。
貴族は家を守り発展させるために、大抵早めに結婚する。特に女性の結婚は早い。この国は一夫多妻であるから、貴族は積極的に他家に嫁に送り出す。もしも貴族の当主か次期当主に嫁として送り出せれば、家同士の関係ができるし強化される。娘としても家を出た後も貴族として生活できるのは魅力的だろう。そのためにもこういったパティーで縁をつなぐのである。
しかしフィーネは少し面倒な立場にある。
彼女は一人娘だ。このままいくと彼女は婿を取って、その婿がロークス家の当主になることになる。この国での貴族家当主は男性だからだ。この場合貴族は積極的に婿に出そうとする。なんせ自分の息子が他家の当主になるのだ。乗っ取りまでは望まないだろうが、関係は著しく強化されるし、娘なら嫁に出せばいいが、息子なら婿に出すのは難しい。長男は欲しいし次男は予備だが、それ以下はいらない。男子を貴族として独立させられるのは、そいつが優秀な者であるか、実家の権力がよほど大きい家だけだ。
ほとんどの貴族家の男子は、平民だったり名誉貴族として生きていくことになる。そうなるとフィーネはねらい目だろう。
しかし、ロークス夫妻に男の子が生まれる可能性がある。そうなるとその子が爵位を継ぐことになると思われる。そのため貴族側からすると男の子が生まれるかどうか見極める必要があるが、そんなことはふつう無理である。
フィーネが二十歳くらいまで行けば、そのあとに男の子が生まれたとしてもその子はフィーネたちの次の跡取りになったりする。
よって、フィーネはまだまだ結婚相手を決めようがない。男の子が生まれるまで待つ必要がある。
今日のパーティーは単純に顔見せだ。会場にはロークス領近くの貴族たちや、ロークス家と親しい家の貴族などが来ている。俺は名誉貴族の息子なのだが、今回のパーティーに呼ばれている。名誉貴族の子供であり、両親がロークス家の重臣だからだろう。
正直この手のパーティーには来たくなかった。なんせ名誉貴族は一代限りだ。両親がこれから通常の爵位をもらう可能性はゼロではないが、いっても男爵だろうし、そもそも二人とも貴族になることを望むとは思えない。
この町の騎士団長の父さんと、魔法顧問の母さんとの縁をつなぐのは大事かもしれないが、別に将来その地位を継ぐわけでもない俺には、あまり話しかけてこない。
これが貴族の子弟であれば、仮に将来爵位を継がなくてもその家との結びつきを強められるのだが、うちは俺と仲良くしたところでそんなに旨味はない。
名誉貴族本人なら基本的にそこそこは優秀だと証明されているが、その子弟は別だ。
めんどくさい奴らが話しかけてこないのは嬉しいが、どうしても手持ち無沙汰になる。
その上、貴族どもの中には名誉貴族を軽んじている者もいるので、その息子となるとそういう質の悪い奴がちょっかいをかけてくることがある。
俺なんかにちょっかいをかける暇があるのなら、他の貴族なりと友好を深めておけばいいのに、厄介な奴らである。
ちなみにフィーネはこのパーティーの主役なので大変そうだ。次々と招待客があいさつに来て、その対応でいっぱいいっぱいのようである。
君子危うきに近寄らず。俺は今回のパーティーでフィーネとの接触はしないことにした。
俺はまだ四歳であるし、出しゃばって目を付けられるのも面倒なので、隅で料理でも楽しんでいよう。
姉ちゃんは来てないし、俺の知り合いはこのパーティーの主役のフィーネとその家族くらいしかいない。
母さんと父さんは仕事があるとか言って来ていないが、父さんはともかく母さんはこのパーティーに来たくなかっただけだろう。
まさか子供を一人、自分すら行きたくないパーティーに放り込むとは思わなかった。おそらく自分たちの家族が誰もいかないのは体裁が悪いと考えたんだろう。
本当は父さんは来るべきだが、あいにくと仕事である。そうなると母さんが来るべきであるが、母さんは行きたくない。姉ちゃんのほうが俺よりも年上だが、俺がフィーネと同年代ということで俺になったんだろう。
姉ちゃんじゃなくて俺なのはわかるが、せめて母さんは来るべきだっただろう。クライフさんたちに母さんは来ないと伝えたところ、『逃げたな』といっていた。さすが幼馴染、母さんの性格をわかっているようである。
そんなわけで俺はたいしてやることもないので、立食形式のバイキングで子供らしく料理を食べていたのだが、残念ながらそんなときは長く続かなかった。
「おい、そこのお前」
なんだいきなり。俺がせっかくおいしい料理を楽しんでいたのに。いや待て、これは俺の自意識過剰だろう。そうに違いない。
そう決めつけて俺は聞こえないふりをして料理を食べ続けた。
「おい、無視するな。そこで料理を食べ続けてる五歳くらいの子供だよ」
ちっ、さすがにそこまで言われたら無視するわけにはいかない。というか、おそらく初対面なのにお前扱いとか無礼すぎるだろう。
「えっと、それは俺のことであっていますか?」
「当たり前だ!お前以外ありえないだろう」
俺に話しかけてきていたのは、俺と同い年くらいの男の子だった。
「それで、何か用ですか?」
「貴様!この方にそんな口をきいていいと思っているのか」
「そうだ、この方はフロスト伯爵家次男のカール・フロスト様だぞ」
俺に話しかけてきた奴は、なんと伯爵家の次男だったらしい。ほかの二人はこいつの取り巻きって奴だろう。名誉貴族か下級貴族の子供なんだろう。
ちなみに下級貴族とは子爵以下の貴族のことだ。
「それで、伯爵家次男のカール・フロスト様は俺に何か御用ですか?」
「ふん、お前もこんなところにいるのだから名誉貴族か爵位持ち貴族の子弟なんだろ。見たところ同じくらいの年齢だから、俺の下につかないかと思ってな」
派閥へのお誘いってやつか?長男ならまだしも次男に言われるとは思わなかった。
しかしこいつが派閥なんて形成しようとするとは、もしかして長男を引きずり落して次期伯爵家当主にでもなろうとしているのか?
「俺はただの名誉貴族の子です。家名もありませんので、あなたの力にはなれないと思われます」
家名を持てるのは、貴族家当主の子供とその子供までだ。つまり、歴代の当主の孫までである。それ以下では家名を持てないことになっている。家名を持てるのは親が貴族家当主か、その兄弟の場合のみである。
そのため、家名を持たないということはすなわち、貴族家とは今現在血縁上のかかわりのないことを示すのである。
「確かに名誉貴族の子供などたいして役には立たんが、いないよりはましだ。お前も五歳くらいなんだろう?それなら学校で同じになるからな」
なるほど、数は多いに越したことはないか。貴族の子供は王都の学校への入学を強制される。そこでコネを作ったりするのだ。また、そこで出会ってから結婚するケースも多く、貴族の見合い会場になっている面もある。
そしてその貴族の中には名誉貴族の子供も入っている。この世界は封建社会であり、世襲制ばかりだ。まあ貴族がいる時点である程度予測できるが。
そのためか親が優秀だと子も優秀という考えが非常に強く、親が名誉貴族なら子も優秀だとみられるので、大抵王都の学校に入れられる。青田買いみたいなものだろう。
冒険者でBランク以上になってしまったがために、勝手に名誉貴族にされて、今もどこにも仕官していないとかなら王都の学校に行く必要もないが、うちの場合は両親とも仕官しちゃってるので、おそらく王都の学校行きだろう。
父さんと母さんはこの町の寺子屋みたいなところで、午前中だけ算術や文字、簡単な歴史などの基本を三年間習っていただけなのに、俺は王都の学校で六年間もみっちり学ばないといけないなんて不公平だ。学校には、どこも十歳からはいることになる。そして、王都の学校は成人するまで逃れられないのだ。
しかも、あくまで俺のイメージではあるのだが、こいつのような偉そうな貴族のボンボンどもがうようよしているところだ。王都の学校は貴族を除くと、比較的裕福な家の子供くらいしか入れないくらいに学費が高い。
特待生制度はあるが、それにかかるのは毎年一人いるかどうかであり、審査が非常に厳しい。大方、教育を受けられるのを一部だけにして貴族の特権を守りたいのだろうが、それだと周辺諸国に負けてしまうかもしれないから、よっぽど優秀な奴だけは引き上げようということなんだろう。
武力なら冒険者のように自力で証明できるが、文官などはそもそも知らないとだめだし、鑑定などで能力をはっきりと証明できるわけではないので、コネがないと難しいだろう。そのため、こういった制度もあるのだろう。
俺は将来冒険者として自由に旅したいのである。
日頃の勉強で基本と常識はついてきているし、確認のため三年間学べばそれで十分だろう。王都の学校になんて行きたくないのである。
しかし、自由に生きたいといってもさすがに法律くらいは守らなければならない。なので、今はしぶしぶ了承しているのである。
「確かに俺は今年で五歳ですし、五年後には王都の学校に通うことになるでしょう。しかし俺は貴族の権力闘争には無知ですし、何より名誉貴族は一代限り。こんなことでは伯爵家の次男のお力にはなれないでしょう。残念ですがこの件はお断りさせていただきます」
こんなめんどくさそうなことに首突っ込んでられるか。
一応敬語で話したし、自分の価値の低さもちゃんと伝えたから大丈夫だろう。
「それもそうか。確かにお前みたいな無能そうなやつはいらんな。なんせ俺は伯爵家当主になるのだからな」
無能そうだと!?俺の親はそこそこ優秀で名前も知られてるし、確かに俺は家族の中では一番美形ではないかもしれないが、平均よりは上のはずだ。
自分でいうのはともかく、こいつに言われるとかなり腹が立つが、ここは抑えよう。こんな奴にかまっているだけ時間の無駄だ。
それよりもこいつ今、伯爵家当主になるとか言いやがった。
お前次男だろ?といいたいところだが、権力闘争はどこにでもつきものだろう。まあこいつがこのパーティーに来たのは、もしもロークス家に男子が生まれなかった時の婚約者候補としての顔見せもあるだろうが。
基本的に貴族は貴族と結婚する。もしも入り婿に取るなら同格以上の貴族の次男以下が多い。まあそもそも入り婿なんてほとんど起こらないし、場合によっては養子をとって継がせることもある。
「カール様は侯爵家令嬢の長男だからな。この方が継ぐのが正しいんだ」
「お前も次期伯爵の家臣になれたかもしれないのにな」
「ああ、第一婦人とはいえ男爵の娘が生んだ兄さんよりも、第二婦人だとしても侯爵の娘である母上が生んだ俺のほうがふさわしいだろうからな」
なるほど、こいつの言うこともあながち夢物語ではないわけだ。
自分の母親が第二婦人とはいえ、実家の権力は第一婦人よりも、それどころか自分の貴族家である矍鑠家よりも上である。その侯爵家としても兄よりもこいつが当主に成ったほうがいろいろと都合がいいのだろう。
フロスト伯爵の領地はロークス領と接してはいないが、それでもなかなかに近い。親密とは言えないが、ある程度の交流もある。
おそらく伯爵としてはこいつをロークス家の婿養子にしてしまうことで、継承争いを避け、なおかつロークス家と縁戚になろうとしているんだろう。
もしロークス家に男の子が生まれたら、次期当主とフィーネが結婚することで縁戚になるかもしれないが。
こいつがフィーネの婿になって父さんと母さんに命令しているところを想像するとめちゃくちゃイラつくが、残念なことに俺ができることは何もない。せいぜいそうなった時にロークス領に近づかないぐらいだろう。
まあこいつの中で今のところフィーネと結婚する意図はないだろう。もっとも、こいつがそこまで考えていたらの話だが。
フロスト伯爵家の権力争いには一応注意しておこう。こんなところで堂々と言うやつだ。暴走してとんでもないことになりかねないからな。
俺が名誉貴族の子供だと明かした時の反応からして、あの取り巻きどもの親も名誉貴族の可能性が高いな。
名誉貴族は国に一定の貢献をしたものとあるが、母さんみたいにBランク冒険者になったら勝手に任命されてたとか、父さんのように仕事してたらいつの間にかなってたのように、特になりたがる人はいないのだが、なかにはなりたがるひともいる。
あくまで『名誉』なのだが、例えば商人だと信頼につながるなどがある。ほかにも仕官されやすいなどの利点があるが、そんなにすごいものでない。伯爵以上の貴族が国に届け出を出せば大抵任命されるのだ。特に商人などは賄賂なんかもある。
王国も別に名誉貴族がたくさん増えてもいいのだろう。なんせ実際はただ少し待遇が良くなるだけだからな。ほとんどが箔付けだ。
こいつらの親は伯爵家の家臣でそこそこえらい奴らなんだろう。そしてカールを次期当主にしようとしている派閥に属していると。
こいつらの誘いは断って正解だな。
そもそもまだ五歳とはいえ、取り巻きに下級貴族がいないのは次期当主を目指すものとしてどうなんだ。
もしかしたら友人にいるのかもしれないが、こいつの態度を見る限りそれはなさそうだ。
こいつが次期伯爵家当主を目指す限りはそういった者もついてくるだろうが、巻き込まれたくないのと、なんか失敗しそうなので、派閥に入る気が起きない。しかも仮に成功したとしても俺が得しそうな未来が見えない。
不愉快な貴族がまた新しい派閥仲間でも探しに行ったころ、俺はまた料理を楽しんでいた。
「お!このローストビーフおいしいんだよな」
俺は先ほど食べておいしかったローストビーフを取りに行った。
「何枚取ろーかなー?」
俺はローストビーフのある皿に手を伸ばした。
「ローストビーフもらい」
「な!?」
そいつは俺が取ろうとしていたローストビーフを横から取っていっただけでなく、その皿にある分全部持っていきやがった。
「おい!なにしやがる。俺が取ろうとしてたのに、そんだけの量全部取るなんておかしいだろ」
「は?こういうのは早い者勝ちだろ?」
確かにそうかもしれないが、最低限の礼儀というものがあるだろう。この、見るからに食い意地の張っていそうなデブである子供にはわからないだろうが。
ウォルコットは無意識に憐みの目を向けていた。
「おい。なんだその目は」
「何でもないさ。それじゃあなデブ」
そう言って俺は立ち去ろうとした。
「ちょっと待て、デブとはどういうことだ。貴様、名を名乗れ」
しまった。思わず本音が漏れていたようだ。こいつはおそらく貴族だろうから面倒だな。偽名でも使うかなぁ?
「俺の名前はウォルコットだ」
後で偽名とばれるとなおさら面倒なので、本名を名乗ることにした。
「家名はないのか?」
「ない」
「ならば俺のほうが上ではないか!まあいい、一応そちらに名乗らせたのだから、こちらも名乗っておこう。
俺の名前はブーダ・ラーラだ。家は男爵でそこの長男だ。」
「ブタ?」
「ブーダだ!」
ラーラ男爵家といえば田舎の貧乏貴族だったはずだ。なぜこいつはこんなに太っているんだ?
「ラーラ男爵家ってシルフォード王国に一つしかないよな?」
「当たり前だろ」
まあ体質は人それぞれだからな。そこは追及しないでおこう。
たぶんこいつは普段食べられないようなうまいものをひたすら食いたかったのであろう。ここは見逃してやるとするか。
「まあ、頑張れよ」
「何が頑張れなんだ」
「何でもさ」
俺は新たな味を求めて移動することにした。




