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「松浦先輩っ!」

「は、はい」

「僕は…、僕は、松浦先輩の事が、好きなんですッ!!」


こんな叫ばなくたっていいのに。


自分でも呆れるほど子供っぽい告白。

そして、リンゴのように真っ赤になっているだろう顔を自覚すれば、恥ずかしくて今度こそ逃げ去りたくなる。

先輩なんて、さっきまでのシリアスさをどこにやってしまったのか、目を瞬かせて僕を見ている。

絶対に呆れてるんだ。


…と思ったのに。


「え?え?…だって、耀ちゃんは…?」


違ったみたい。

もしかしたら、僕が名波先輩の事を好きだと思っていた?


ひたすら驚いたように僕を凝視してくる先輩に、一度だけ首を横に振った。


「名波先輩には、金曜日に話をしました。…僕が松浦先輩を好きだってこと、名波先輩は知ってます」

「………」


突然先輩は、掴んでいた僕の手を離し、下にしゃがみ込んでしまった。

それまで視界の全てを占領していた先輩がしゃがみ込んだ事によって、妙な解放感が僕を襲う。

この心もとなさは、何?


なにがなんだかわからなくて下を向くと、しゃがみ込んで俯いている先輩がいて…。

髪の隙間から見える耳が、真っ赤になっている事に気が付いた。


………え?


そして、ボソッと聞えた呟き。


「………嬉しすぎて泣きそう」

「…先輩…」


ビックリして、僕もしゃがみ込んだ。

すると、それまで俯いていた顔が上げた先輩が、その端正な顔に必死な表情を浮かべ、


「ホントにホント?今更冗談とか言われても取り消せないよ?」


なんて言うものだから、あまりの可愛らしさに自然と顔が緩んだ。


「本当です。冗談でも嘘でもありません」


言い終わったと同時に先輩が僕に圧し掛かってきて、ギューっと抱きしめられた。

二人とも土の地面にしっかりと座り込んでしまったものの、そんな事、全然気にならなかった。

先輩と同じだけの強さで、僕もギューッと抱きしめる。


「…ノノちゃん」

「はい」

「葵って呼んでもいい?」

「……ッ…はい」


また頭が沸騰しそうになった。

更には、


「俺の事も苑って呼んで?」


なんて要望まで出されて、僕が平気な顔を出来るわけがない。


「……はい、…苑先輩」


熱く火照った顔を上げて先輩を見つめ、そう呼んだ。

物凄く嬉しそうに笑う先輩を見て、物凄く幸せになる。

そのまま先輩の顔が近付いてきて、僕は目を閉じた。

そっと唇に触れた、温かな口付け。

優しくゆっくりと何度も繰り返されるそれに、今までに感じた事のないような甘い何かが心を満たしていった。














「名波先輩、いいんですか?」

「…俺にとって、二人とも本当に大切なんだ。だから、二人が幸せならいいと思えるよ。……今はまだ、苦しいけどね」


裏庭に面した二階の空き教室。

その窓から葵と松浦を見下ろしている二人。陸と名波。


名波の顔を見た陸は、その言葉が本心からのものだとわかると、それ以上何も言わずに下を見下ろした。

本当に幸せそうな二人。

陸は、ふわりと柔らかな笑みを浮かべ、隣に立つ名波と肩を竦めあうと、静かにその場を後にした。









~終わり~




完結までのお付き合いありがとうございました!

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