0 闇
月のように街灯が輝いていた。
辺りに植え込まれた緑は、夜の色を帯びている。
その光からわずか離れた場所を、一組の男女が歩いてくる。
「でさー、あいつったらさあ……」
甘えた声を上げ、しなだれかかってくる彼女を、彼も満更でもない様子で見つめている。
というか、すでに2人ともとろけそうな顔をしていた。
━━夜の公園。歩くカップル。最高のシチュエーションだ。
Tシャツにジーンズ姿の、なかなかハンサムな彼は、改めて彼女に目をやった。
喉を鳴らして、唾を飲み込む。
流れるような髪。星のような瞳。赤い唇。
なめらかな首筋。紫色のキャミソール。張り出した胸。
剥き出しの細い腕と白い肩……。
大きく深呼吸。彼は、彼女の肩に手を伸ばした。
━━その時だった。
静寂を崩すように草が鳴り、足音が響いた。
カップルのすぐ脇の暗がりから、1人の少年が現れた。
闇色のスウェット姿だ。青い鞄を背負っている。
「あ、なんだおまえ⁈」
いいところを邪魔された男は、あからさまに不機嫌な声を上げた。
出てきたのが、背の低い、中学生くらいの少年だったので、見下しているのだ。
少年は下を向いたまま、微動だにしない。
「なんだよおまえ……⁈」
「ちょ、やめなよ」
荒れそうな男を止め、彼を促し、女はその場を去ろうとした。
だが……!
少年が、ゆっくりと顔を上げた。
カップルは、思わず息を飲んだ。
少年の瞳は、血のように、濁った赤色だった。
少年は、その瞳を不気味に細め、男を見上げた。
「危な……⁈ 裕……!」
本能的に危機を感じた女が男を突き飛ばす。
動物的な素早さで2人へ飛び迫った少年は、
「ちっ……!」
邪魔そうに女を払い飛ばした。
彼女は、木の幹に背を打ちつけ、地に伏し、気絶した。
「宏美……⁉︎ てめー、よくも宏美を……うわっ⁈」
皆まで言わせず、少年は男に飛びついた。
見かけによらないすごい力だ。男は遊歩道を下にし、少年に押し倒された。
電灯の届かぬ闇の中。赤い瞳を狭め、少年が嗤った。
男の喉の隙間から掠れた声が漏れる。
「ひ、ひぃ……⁈」
流れる雲の間から顔を見せた月の光が、少年の赤い瞳を美しく輝かす。
男は瞬間すべてを忘れて、その不思議な瞳に見とれた。
妖しいほどに美しい血の瞳。
少年は音がしそうな程の勢いで口を開けた。
真っ赤な口内。一際目立つ、白く長い牙。
その牙が、男の首筋に向かう。
嫌な音を立て、少年は男の首に、自身の牙を埋めた――。
数分後。
少年は、男の首筋から顔を離すと、手の甲で自分の口を拭った。
「ふん」
舌を這わせ、拭い取った血を舐め取る。
倒れたままの男を蹴るようにして立ち上がり、血色の瞳を空に向けた。
月はもう雲に姿を消されていた。
━━闇を睨み、少年は嗤った。




