第18話「力の意味」
金輝島は、張りつめた沈黙に包まれていた。
ダークの侵攻は止まった。
だが――
止まっただけだ。
いつ再開しても、おかしくない。
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医療区画。
瑛斗は、簡易ベッドに座り込んでいた。
全身が、鉛のように重い。
「……正直」
瑛斗は、ぽつりと呟いた。
「止めた感触が、ない」
「押し返したんじゃない」
「……ただ、踏ん張っただけだ」
ラークは、壁にもたれて腕を組む。
「十分だ」
「魔神相手に、“踏ん張った”だけでもな」
だが――
その声には、確かな焦りが滲んでいた。
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ルルが、空中に浮かびながら言う。
「ダークは、境界の理屈を壊す存在」
「選択も、均衡も、関係ない」
「だから」
一拍置く。
「力が要る」
皐月が、静かに問う。
「……力って、どういう?」
「魔力?」
「武器?」
ルルは、首を横に振った。
「それも、一部」
「でもね」
「境界に必要なのは――」
ルルの瞳が、真っ直ぐ瑛斗を捉える。
「意志を、押し通す力」
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会議テント。
精霊族の守り神――
パラケルススが、初めて正式に姿を現していた。
白金の光を纏う、人ならざる存在。
『境界の王』
その声は、世界に直接響く。
『お前は、選ぶ力を得た』
『だが』
『それを、守り切る力が足りぬ』
瑛斗は、拳を握る。
「……どうすればいい」
『学べ』
即答だった。
『力とは、奪うものではない』
『受け入れ、耐え、続けるものだ』
空間が、ゆっくりと変質する。
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気づけば。
瑛斗、皐月、ラークは、精霊界の境域に立っていた。
炎、
水、
風、
大地。
四つの元素が、循環する場所。
「……修行、ってやつか」
ラークが、苦笑する。
ルルが、真剣な声で言う。
「ここでは、嘘が通じない」
「力を欲しがる者は、弾かれる」
「覚悟のない者は、潰れる」
皐月は、瑛斗の手を握る。
「……一緒だよ」
「離れない」
瑛斗は、静かに頷いた。
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最初に現れたのは――
火の精霊神・サラマンダー。
燃え盛る巨影。
『力を望むか、人の子』
「……望む」
瑛斗は、正直に答えた。
『なら問おう』
炎が、一層激しくなる。
『その力で、何を焼く』
瑛斗は、即答できなかった。
守りたいもの。
壊したいもの。
すべてが、絡み合う。
「……選択を、奪う存在を」
「焼く」
サラマンダーは、しばし沈黙し――やがて、低く唸った。
『よい』
『だが』
『怒りに、呑まれるな』
炎が、瑛斗の中に流れ込む。
熱い。
だが――
制御できる。
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次は――
水の精霊神・ウンディーネ。
静かな、深海のような存在。
『力を得て、救えぬ命があった時』
『どうする』
瑛斗の喉が、鳴る。
「……背負う」
「逃げない」
ウンディーネは、静かに微笑んだ。
『それでこそ』
水が、心を満たす。
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風の精霊神・シルフ。
『迷った時、立ち止まるか?』
「……立ち止まる」
「でも」
「止まり続けない」
風が、背を押す。
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地の精霊神・ノーム。
『壊れる覚悟はあるか』
瑛斗は、迷わなかった。
「……ある」
ノームは、深く頷いた。
『ならば』
『壊れぬよう、支えよう』
大地の重みが、身体に宿る。
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すべてが、終わった時。
瑛斗は、膝をついていた。
だが――
倒れてはいない。
「……重い」
「でも」
「立てる」
ルルが、安堵の息を吐く。
「これが、“力の意味”」
「壊す力じゃない」
「続ける力」
皐月は、微笑んだ。
「王様、ちょっと強くなった?」
瑛斗は、照れたように笑う。
「……まだまだ」
だが。
遠く、虚界。
ダークは、その変化を感じ取っていた。
「……面倒なことになったな」
「だが」
「力を得たなら」
「折る価値がある」
闇が、蠢く。




