第13話「均衡の波紋」
その異変は、金輝島から始まった。
だが、決して――そこだけではなかった。
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日本・関東地方。
午前9時17分。
都心上空で、一瞬だけ空が“反転”した。
青が裏返り、その奥に、見たことのない森が映る。
「……今、見えた?」
「蜃気楼?」
誰もが、そう思った。
だが――
ビルの影に、角の生えた影が落ちていた。
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ヨーロッパ・アルプス山脈。
氷河の裂け目から、淡い光が噴き出す。
雪原に立つのは、長耳の影。
「……エルフ?」
研究者の声は、震えていた。
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ドラード・マスリア国。
城下町の空が、低く唸る。
ヴァリズ国王は、玉座から立ち上がった。
「……始まったな」
側近が、青ざめる。
「王よ、これは侵略ですか?」
「違う」
ヴァリズは、静かに言った。
「均衡が、揺れている」
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金輝島・司令区画。
「報告が、止まりません!」
国連職員が、声を上げる。
「各地で、異界の“にじみ出し”を確認!」
丸山が、即座に判断を下す。
「各国、警戒レベル最大」
「だが――」
松田美由紀は、瑛斗たちを見た。
「封鎖は、不可能」
「境界は、すでに“線”ではない」
「面だ」
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瑛斗は、胸の奥がざわつくのを感じていた。
(……来てる)
世界中の“重なり”が、感覚として伝わってくる。
皐月が、胸元を押さえる。
「……人の感情が、流れ込んでくる」
「怖い」
「混乱」
「怒り……」
ラークが、歯を食いしばる。
「戻すには、数が多すぎる」
ルルが、珍しく真剣な顔をしていた。
「……境界が、自律を始めてる」
「人の意思を、媒介に」
瑛斗は、ハッとした。
「……俺たちが、原因?」
「“きっかけ”」
ルルは、否定も肯定もしなかった。
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そのとき。
空が、真っ黒に染まった。
金輝島の中央に、巨大な影が降り立つ。
「……魔族?」
ラークが、剣を構える。
だが、その存在は――
「……違う」
ミルスが、息を呑む。
「魔王級」
影が、形を取る。
黒衣の男。
背後に、禍々しい紋章。
「……デイド」
ルルが、低く呟いた。
魔王デイドは、ゆっくりと拍手した。
「見事だ」
「人と世界を、ここまで繋げるとは」
瑛斗は、前に出る。
「何の用だ」
デイドは、楽しそうに笑う。
「観察」
「そして――」
視線が、瑛斗、皐月、ラークを順に捉える。
「確認」
「境界の核は、誰か」
空気が、重く沈む。
「……答える義務はない」
ラークが、低く言う。
デイドは、肩をすくめた。
「そうだな」
「では――」
指を鳴らす。
世界が、一瞬止まった。
「……っ!」
瑛斗の視界に、無数の“選択肢”が流れ込む。
救える命。
救えない命。
失われる未来。
「……これが、お前の背負う重さだ」
デイドの声が、頭の中に響く。
「均衡を選べば、誰かが死ぬ」
「守れば、別の誰かが壊れる」
「さて――」
「耐えられるか?」
時間が、再び動き出す。
瑛斗は、膝をついた。
「……っ、く」
皐月が、必死に呼びかける。
「瑛斗!こっち!」
ラークが、剣を地面に突き立てる。
「戻せ……!」
ルルが、光を放つ。
だが――
デイドは、すでに背を向けていた。
「次は、答えを持って来い」
闇が、彼を包む。
そして――消えた。
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沈黙。
瑛斗は、荒い息を整えながら立ち上がった。
「……選ばなきゃ、いけないのか」
ルルは、静かに言った。
「もう、選んでる」
「それでも、進んでる」
遠く。
世界は、確実に混ざり始めていた。




