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山に到着

 しばらくバスに揺られ、目的地に到着した。

 (ふもと)の駐車場に止め、生徒達はバスを降りる。


 夏季は周りを見渡すと、木々が生い茂り、緑に溢れていた。

 ちょっと車を走らせただけで、こんな所に出るのかと、夏季は少し感動した。

 夏季は自分の正面にある山を見据え、これからここに登るのかと思うと、気持ちが高ぶってきた。


 ふと、和泉に目がいったがゲンナリしている。

 夏季とはまったく逆の感想をもったようだ。


 朱希に視線を向けるが、表情の変化は見られない。

 しかし、おそらくは和泉と同じ思いだろう。


「想像していたよりも高いな。これは苦労させられそうだ」


 隣で健太も愚痴を溢す。

 確かに大変だ。

 これを目の前にして気持ちが高揚する夏季は登山家に向いているかもしれない。


「はーい。では皆さーん班別に固まって下さいね。これから登山を開始しますよ」


 中村先生が声をかける。

 夏季達は班でまとまって次の指示を待つ。


「それでは順番に歩いて行きます。いいですか、落ち着いて下さいね。具合が悪くなったらすぐに近くにいる先生に申告して下さい。保険医の鞍馬(くらま)先生といますし、タンカも用意しています。くれぐれも無理のないように」


 それを聞いて近くにいた北条グループがヒソヒソと話している声が聞こえてきた。


「ねー、だったらサボっちゃわない? 具合悪くなりましたーって言って」


「あ、それある!」


 夏季は眉を吊り上げた。


「北条さん」


 にっこりと笑って近づく。

 夏季が話しかけてきたので、北条はビクリと震えまた。


「く、草村、君。何・・・」


 グループ内で、この間掃除をサボろうとしていた2人も恐々とこちらを見ている。


「ズルはダメだよ。またサボる(・・・・・)気?」


「い、いやいや。そんなこと思ってないから。ねっ?」


「そうそう。さっきのはギャグ?」


「うん。本気じゃない本気じゃない」


 3人は首をブンブン横に振った。


「ならいいんだ。お互い頑張ろうね」


 爽やかにそう言うと、夏季は班に戻った。


「北条さんと何喋ってたんだ?」


 健太が訊いてくるので、夏季はこともなげに「いや、ただの世間話し」と答えた。


「ふーん」


 健太は北条を見ると、明らかにオドオドしているので首を傾げた。


 それからゆっくりと、夏季達は移動を開始した。

 最初は緩やかな坂からだ。

 これくらいなら問題ないだろう。

 朱希に目をやると、問題なくついてくる。

 あまり注目すると目立つし、視線を合わせると気まずい。

 すぐに正面を向いて歩き始めた。



 しばらく歩くと汗もかいてくる。

 夏季はペットボトルを取り出すと、お茶を一口含む。


「皆も水分取ってね。5月とはいえ熱中症になるかもよ」


「そうだね」


 健太もペットボトルを取り出し、麦茶を飲む。

 和泉もかおりもそれに倣った。


「あー、四季さんも・・・」


 朱希は無言で、ペットボトルを取り出した。

 夏季はほっと胸を撫でおろす。

 一番飲んでほしかったのは朱希だったのだから。


「きゃあー!!」


 突然、かおりが叫んだ。

 夏季は慌ててかおりの傍に走る。


「宮崎さん。どうした!」


「虫、虫ぃ! 虫が飛んでて」


「虫?」


 手をブンブンと振り回しながら、かおりは目を瞑っている。

 夏季もかおりの周りを見渡すが、特に飛翔している物体は見当たらない。


「宮崎さん。大丈夫だよ。もう虫はいないみたいだ」


「ほ、ほんと?」


 そぉっと薄目を開けて見渡すかおり。

 何も飛んでいないことを確認出来てほっとしたらしい。


「蜂とかじゃなくてよかったね」


「蜂! この辺いるかなぁ?」


「それは分からない。蜂は熊よりも怖いっていうし。あ、熊はいないよな・・・?」


「く、熊! 熊いるの!?」


 かおりは口に手を当てて怯えた。

 夏季は慌ててそれを否定する。


「い、いやいや。こんなハイキングコースの山にそんなのいるわけないよ」


「そ、そうだよね。熊なんているわけないよね。あはは」


 笑って誤魔化そうとしているかおりを見つつ、夏季は神妙な顔をする。


「でも、猪くらいはいるかもしれないな」


「い、猪!」


 ビクンとかおりの体が震えた。


「猪って、人襲うのかな?」


「さあ、それも分からない。分からないけど・・・」


「け、けど」


 こんな話をしていいのかと思いつつ、思いつくままに口を開く。


「僕がプレイしたことのある狩りゲーに猪が出てきて」


「え、ゲーム?」


「それが中々手強いんだ。あの突進は脅威だ。しかも集団で襲ってくる。四方八方から襲ってくるあいつらは大型モンスターよりもよっぽど脅威で」


「わーー! 怖い怖い怖い!!」


 かおりは耳を塞いで屈みこんだ。

 しまったと、夏季は慌ててフォローに勤しむ。


「ごめんごめん。多分大丈夫と思うよ。この辺りは人も多いし、いないんじゃないかな」


「そ、そうかな。そう思う?」


「思う思う」


 泣きべそをかいていたかおりは、目元をぐしぐしと拭きながら立ち上がった。

 ここはもう一押し、かおりを安心させなければなるまいと、決意を固める。


「もし、宮崎さんが猛獣に襲われることがあれば僕が護るよ」


「えっ?」


 かおりは目を見開いて顔をかぁっと赤らめた。


「も、もう! 草村君はすぐにそういうこと言う!」


「え、何?」


 何故かいきなり怒りだした。

 自分は一体何を言ってしまったのだろう?

 頼りない自分が護るなどおこがましいということだろうか?

 だとしたらショックだ。

 これでも夏季は男の子。

 女の子1人も護れないようでは男が廃るというものである。


(そういえば・・・)


 そう。

 そういえばだ。

 最近かおりは夏季に対し、態度がどこかよそよそしかった。

 目を合わせると慌てて反らそうとするし、かと思えば、こっちを見ていることもあるし、近くにいても、もじもじするばかりで話しかけてこない時もある。


 いったい、かおりの中で何が起こっているのだろうか?


「よ、よし! もう大丈夫。さあ、行こう行こう!!」


「あ、うん」


 よくわからんが元気になったようだ。


 かおりは颯爽と先頭を歩く。

 夏季は苦笑しながらそれに続いた。


「・・・夏季。彼女欲しいって言ってなかった?」


「あ、うん。いたら楽しいかなって。でも、なんで今聞くの?」


 健太は苦笑いを浮かべながら頭をかいた。


「いや、うん。まあ、いいんじゃないかな。高校生活はまだ始まったばかりだよ」


「うん。そうだね?」


 なんかよく分からんが、取り合えず頷いといた夏季であった。

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