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サウナ1

「ここが、そうなのか」


 和泉は案内された温泉を眺めながら、そう零した。


 夏季が案内したのは、小さいながらも温泉が湧き出ていて、知る人ぞ知る名湯である。

 学校からも一駅しか離れておらず、夏季はよく通っている。


 そして、ここにはサウナもあり、銭湯などではサウナは別料金を取られるが、ここは入館料だけで、楽しむことができ、学生にも有難い料金価格となっている。


「健太くんも来れたら良かったのにね」


「そりゃ、バイトがあるんだから仕方ないんじゃないか? また今度誘ってって言ってたし」


「そうだね。今日は2人で楽しもう!」


「お、おう・・・」


 夏季は屈託なく笑うが、和泉はキョどっていた。

 和泉からしたら、これまでこんなに真っ直ぐな曇りない笑顔を向けられた経験があまり無いのかも知れない。

 どう反応していいのか分からないのだ。


 2人は施設に入り、靴を靴箱に入れて100円を投入し、鍵をかけた。

 この100円は後で戻ってくる。

 温泉にはこのタイプの靴箱がわりと多い。


 受付にやって来た2人は販売機で入館料を購入。


「700円で温泉に入れるなら安い方かな?」


「よく知らないけど、多分安いよ。所によっては1000円を軽く超えるところもあるし」


「ここ以外にも温泉は結構行くのか?」


「行くね。温泉もサウナも僕は好きなんだ」


「なんか趣味がジジくさ・・・。いや、何でもないけど」


「何言ってんだい。温泉街には浴衣の女性達だって行き交ってるんだよ。和泉君のイメージは古い古い」


「そ、そうなのか。勉強になるな」


 そんな話をしながら、脱衣所にやって来た2人は服を脱いでいく。


 だが、下を脱ごうとしたところで和泉が止まった。


「ん? 和泉君、どうかした?」


「いや、その、は、恥ずかしくないか?」


 和泉はもじもじとして、一向に服を脱ごうとしない。

 夏季は呆れて和泉のズボンに手をかけた。


「なっ、お、おい。夏季!」


「ここは温泉だよ。服を脱いで当たり前じゃないか、ほらほら脱いで」


「わ、分かったよ。だから引っ張るのは止めてくれ!」


 和泉は必死になって夏季を抑えた。

 仕方なく和泉はゆっくりと背中を向けながら、ズボンを脱いでいく。

 夏季は再び呆れながらその仕草を眺めていた。


「僕、先に行って体洗ってるね」


「あ、ああ。そうしてくれ」


 脱いでいる様子を見られたくなかった和泉はすぐに返事をした。


 どうせ、その内見てしまうことになるだろうと思いながら、先に大浴場へと向かう。


 夏季はホームサウナとしている温泉ではあるものの、温泉、サウナ以外にも、広いお風呂、ジャグジー、露天風呂まである大きな施設だ。まずは体を洗って和泉がやってくるのを待った。


 フェイスタオルでしっかりと前をガードした和泉が、恐る恐る、浴場に現れる。


 夏季は手招きして、洗い場に招くと、椅子に座るように促す。


「じゃあ、まずは体を綺麗にしよう。公衆浴場のマナーだよ」


「あ、ああ。そうだな。あのさ、その見てられると洗えないんだけど」


 相変わらず必死になって前を隠している和泉。

 夏季は苦笑した。


「な、なんだよおかしいか?」


「いや、なんでもないよ」


「てか、なんで夏季はそう堂々としてるんだ?」


「そりゃ、ここは皆が平等に裸になる所だもの。むしろ恥ずかしがってると目立つよ逆に」


「うっ」


 そう言われてしまうと、別の意味で途端に恥ずかしくなって来た。


「まあ、無理にとは言わないさ。僕は先に温泉入ってるよ」


「分かった」


 夏季は露天風呂に向かった。

 この温泉の効用は疲労回復、美肌効果、神経痛、保湿などなど。

 ゆっくりと肩のあたりまで浸かる。

 風呂の温度は40度と、夏季には適温で、とてもリラックス出来る。

 今日は天気も良く、空を見上げると、いくつかの雲がゆったりと流れていき、時間がゆっくりと感じられた。

 サウナは勿論だが、夏季は温泉も愛する。

 箱根に行ったことがあり、あの独特の匂いに魅せられた1人だ。

 また行ってみたいと思う。

 その時は皆と行こうか。

 1人旅行も悪くない。

 皆と行けば楽しいし、1人なら、このゆったりした自由な時間を楽しめる。

 どちらも悪くない。

 まあ、1人で行くと言えば、間違いなく朱希は付いて来そうだが。

 そんなことを考えていると、体を洗った和泉がやって来た。

 相変わらず前をがっちりとガードしている。


「よ、よう」


「来たね。さあ、入りなよ」


「う、うん。あのこっち見るなよ」


「分かった分かった」


 タオルを湯船に浸かるなど、マナー違反中のマナー違反だ。

 もし、そこまでして隠そうものなら流石に苦言を呈すところだが、そこまで常識知らずではないらしい。

 後ろを向きながらゆったりと湯に浸かる。

 そして、息を吐いた。


「あ〜、いいなこれ」


「うん。最高だね」


「足が伸ばせる湯船なんて久しぶりだ」


 和泉は足を前に出しながらそう言った。

 夏季はクスリと笑う。


「そこもまた、大浴場の醍醐味だね」


 しばらく湯に浸かり、程々に汗をかいた夏季はザバっと湯から上がる。


「それじゃあ行こうか。サウナに!」


「お、おう」

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