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<生贄の少女M>


「このままここにいれば全員が生き残れるわ。」


少女は辺りを見回して、真剣な表情で告げた。

黒色の着物に身を包む藍色の髪の10歳の少女、弥姫。

彼女は村で魔物の生贄に選ばれた一人である。


少女の暮らす『生贄ホテル』はポイント制で、ポイントが0になった人間から魔物の生贄になる。そのため、弥姫は日々ポイントを貯めながら必死に生きようとしている。


今の弥姫のポイントは1。

そして今回同室になった葱咲、ルプナ、佐藤の三人もポイントはそれぞれ1しか残っていない。

この部屋のルールは、今までのようなクイズや課題がなく「部屋から誰も出ない限り、ポイントはそのまま」というものだ。


つまり、4人全員がこの部屋にずっと居るならば魔物の生贄になることなく生存ができる。


同郷の葱咲がここに居るのも心強い。

ルプナと佐藤は、今まで弥姫とそれほど部屋が被ったことはなかったけど、こんな状況ならうまくやっていけるだろう。


弥姫はそう思い、部屋から誰も一生出ないでいようとみんなに同意を求めた。


けれど弥姫の意見を真っ先に否定したのが葱咲だ。

薄紅の髪に浅葱色の着物の12歳の少女は、指先で自身の髪を触りながら困惑を露わにした。


「ねぇ。どうしたの?生贄ホテルだなんて変なことを言い出して…」


「葱咲こそどうしたの。私たち一緒にここに来たのに」


0542368星から5789657星まで直進して5789657星から333545川へ沿って6685479星で右折して、弥姫は葱咲とこの生贄ホテルにやってきた。

なのに葱咲はそれをまるで覚えていないといったような反応をする。



<記憶のデータK>


少女ケイはフォークで地面をビリビリと破いて中に入る。

ここには様々な「記憶」が存在して、ぞれが繰り返し反芻されている。ケイも、この記憶の中の一部の存在だった。

46億年間ずっと、黒い影から逃げていた。

ケイはその記憶だった。けれどケイはそこから抜け出して、この数多の記憶の中を彷徨い歩いていた。


今回、ケイが中に入った記憶はホテルの中のようだ。

見知らぬ幼い少女が何やら言っている。

生贄だの、魔物だの、あまり要領を得ない。


その少女はケイを「葱咲」と呼び、まるで姉のように頼ってくる。ケイはそれに少し驚いた。

ケイは様々な記憶に干渉をしてきたが、記憶から干渉をされるのは初めてである。


ケイは思った。

この記憶はただの繰り返しじゃないかもしれない。

なら、この少女と一緒なら自分はどこかへ逃げれるのかもしれない。ケイは弥姫というこの少女に、この世界は現実ではなく、ただ記憶を反芻しているだけなことを説明した。


「だからね、弥姫。私がこの記憶を破るから、ここから一緒に出ましょう?私ずっと一人で、もう嫌なの」


弥姫は困惑した眼差しを向けた。

頼りにしていた存在を信じられなくなったとでも言うような眼差し。


「葱咲、葱咲はきっと前の部屋で変な記憶を植え付けられたの。だからそんなおかしな妄想に取り憑かれてるのよ。私たちずっと一緒に村で育ったでしょう?全部覚えてるわ」


「それはそういう記憶だからよ、弥姫。私も自分が記憶の反芻の役割をしていた時は、何も違和感がなかったの。白い建物で、ずっと影から逃げていて…」


葱咲と弥姫が争っていると、ルプナと言う少女がおずおずと手を上げた。


「ここから逃げ出したら、政府に捕まるから…」



<反政府思想大罪人R>


少女アールはため息をついた。

アールは日本政府が義務として定めた「推し活」ができていないため、反政府思想大罪人としてこの刑務所で暮らしている。アールには「推し」がいなかった。

他者に対して「かわいい」「このましい」と言った感情はあるが、人生をかけれるほどの激しい情熱のような愛を感じたことがない。


けれど、政府がそれを罪とするなら自分は罪人になるのだろう。先日、ようやく刑期を終えて出所したが、それでもやはり「推し」ができずにまた刑務所に戻ってきた。

刑務所は4人部屋で、ホテルのように綺麗であった。


しかし同室の人がおかしな人たちばかりだ。

まず、弥姫という少女はここは生贄ホテルだという。

まあ、刑務所に捧げられた身であるし、私たちは生贄と言っても差し支えないだろう。長らく出られないのだから、幼い少女が現実逃避のために空想をしたとしても仕方がない。


そして、葱咲と呼ばれてる少女はここは記憶の中だという。

まあ、彼女もまだ幼いし、空想を繰り広げるうちに思い込んでしまったのかもしれない。


アールは何故か彼女たちにルプナと呼ばれた。

この刑務所の入り口にある、白亜の像ルプナから取られてるのだろうか。何にせよ、刑務所からの脱獄を促す葱咲のことは止めなくてはならない。


「刑務所なんだから、みんないい子にしましょう。逃げても推しのいない私たちは捕まるんだから…」


年下の子に言い聞かせるようにアールは言った。


「ルプナ、何を言ってるの。刑務所じゃないわ、生贄ホテルよ。私たち、前に一度同じ部屋でクイズを乗り切ったじゃない。どうしよう。ルプナまで前の部屋で装置に記憶を変えられたんだわ」


「弥姫、落ち着いて。ルプナ、貴女もここから出ましょう。誰のかはわからないけど、それも全てただの誰かの記憶の反芻なの。私たちは存在しない、記憶の中の存在なの」


両隣の少女たちにはアールの意見は全く通じなかった。


「ルプナルプナって、彼女はアールじゃないか!」


ずっと黙っていた少年、佐藤が二人を制した。

佐藤ジェイ、彼は政府がアールに彼を推すようにと定められた少年だ。



<地球人佐藤J>


佐藤ジェイは地球人だ。

地球人は地球に存在する知的生命体として二番目に数が多い。一番目はみんなも知っての通り、ミミズ星人だ。ミミズ星人は上半身が人間で下半身が人間の個体と、上半身が人間で下半身がミミズの個体が存在する。

彼らはある日一斉に宇宙船からやってきて、瞬く間に地球で最も数の多い知的生命体となった。


彼らは地面を好み、地球人に地面を分けて欲しいとお願いをした。お願いを断ったアメリカの大統領が一瞬で土になった事件から、地球人は地面をすぐさま捨てた。

船を浮かべ、その上で暮らしたり、飛行機を飛ばし、その上で暮らしたりしている。


ジェイは新たに人類が暮らせる惑星を探すために三人の仲間と旅立った。エム、ケイ、アール、この三人と。


しかし、この長い宇宙船生活に耐えられなかったのか、乗員は少しずつおかしくなってしまった。


エムは自分を弥姫だと言い、ここにいるのは魔物の生贄たちだと主張する。

ケイは弥姫の影響からか葱咲と呼ばれ出して、そしてここは記憶の中の世界だと主張する。

そしてジェイが好きだったアールは、あろうことかここを刑務所だと主張しはじめてしまった。


「僕たちは地球人のために、重要な旅をしているんだ!ここは宇宙船だろ!!外を見ろよ!星があんなにあるじゃないか!」


ジェイは窓の外の輝く宇宙を指さした。



「佐藤、あれはただの壁紙よ。ね、落ち着いてよ。」


エム、あるいは弥姫が言う。


「壁の向こうに宇宙なんてないの。フォークで破いてもコンクリートの道がまっすぐに続いてるだけ。」


ケイ、あるいは葱咲が言う。


「ミミズ星人なんてそんなのいないよ。」


アール、あるいはルプナが言う。



各々が皆、自分が経験した真実を主張する。

経験した真実である自身の記憶を。


部屋の隅の錆びた鉄屑の機械から音声が流れた。



End.


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