第96話 お祝いに全員集合!
オレとミルファは一旦家に帰り、エイル達三人に今日のお祝いをブラッドローズとマッドネスサイスが参加する事を伝えた。
するとエイルから、シルバーランクのブリュードルやベロニカ、更にはラッセルまでもが来ると聞かされたのだ。
いや、ブリュードルとベロニカはまだ分かる。寧ろ大歓迎だ。だが何故ラッセルが来るのかが分からない。
「いや、アイツをシルバーランクに昇格させたのって俺なんだよ。その責任って言うの?それでしっかりレイジに謝罪させるから。」
エイルは凄く申し訳なさそうにラッセルがシルバーランクになった経緯を説明してくれた。
そうなのか。だが、謝罪なんぞは要らないとも思うのだが。
てか、ラッセルが素直に謝るとは思えない。まあ、どうでもいいか。
着替えを済ませ、五人皆で出発する。
そういえば、普通の服を着るのは随分久しぶりかもしれない。
自分の事は気にならないが、ミルファの私服姿が可愛すぎて眩しいくらいだ。
いや、普段の冒険者スタイルも間違いなく可愛い。
しかし、今の服装は女の子らしさが際立って、その可愛さがより一層増してて女神といっても過言ではないだろう。
うん。単なるノロケになってしまったな。
とりあえず其々がオシャレスタイルで行く事になったのだ。
◇
「主役が到着したようだぞ。おーい。こっちだー!」
酒場の奥の広間からオレ達を呼んでいるのはブリュードルだ。
その隣からはケントが顔を出している。既に結構集まっているようだ。
「後はブラッドローズくらいか。主役も来たことだし始めちまうか。」
見渡して見たところ、先程エイルから聞かされたラッセルの姿が見えないが、オレ的には問題ないので気にしないでおく。
周りもそうだと思うが、気にしないというより早く飲みたいだけだろうな。これでこそ冒険者って感じだろう。
今いる全員の手にエールが行き渡ったのを確認し、エイルが音頭を取る。
「ウチのレイジのシルバーランク昇格を決めた祝いにこれだけ集まってくれた事に礼を言う。ありがとな。」
エイルはオレとミルファがロードウインズを脱退する事。この街のゴールドランク四人が揃って、一旦この街を離れる事を伝えた。
「この街の事は、マッドネスサイスやブリュードルにベロニカ、お前達に任せる事になるけど、よろしく頼むな。そんじゃあ、此処は俺の奢りだ!好きなだけ飲めや!」
「「「おぉ!」」」
皆が一斉に飲み始め騒ぎ出した時、ソニアとルナを含めたブラッドローズのメンバーがやってきたようだ。
「また凄い騒ぎだね。私達場違いな気がしてきたけど。」
ソニアを含めたブラッドローズの面々が、この場いる冒険者達を冷めた目で眺めている。
それに気づいた者の反応は様々で、ある者は見られている事に顔を赤らめ黙ってしまい、またある者はそんな冷めた目に新しい扉を開いてしまい興奮している。
「主役はどこ?」
主役ってオレの事だよな。ソニアはオレを探しているのか。
違ってたら恥ずかしいけど、出て行った方がいいのだろうか。
「レイジはあそこに居るぞ。どうしたんだ?」
エイルにオレの居場所を聞いたソニアが此方へやってくる。
「坊や、ウチのルナを連れて行くんだって?。勿論、それ相応の覚悟は出来てるのかしら?」
「か、覚悟……?それって……?」
ソニアはオレの胸ぐらを掴み、軽々と持ち上げる。
流石はゴールドランク。とんでもない力だ。
それよりもかなり苦しい。これはどういう状況なんだ。
数秒が経ち、ソニアがその手を離す。
「ルナが自分で選んだ道だって分かってるわ。それでも、ルナを泣かせるような真似をしたら決して貴方を許さないわ。わかったわね?」
オレは少しの沈黙の後、大きく頷いた。
これはソニアの親心からの行動だろう。
ルナがブラッドローズで大事にされてたって事だ。
ソニアの想いの為にも、ルナの気持ちにしっかり答えねばな。
ブラッドローズのレイとナディは早速ディルの両隣を確保に向かっている。
暫く会えなくなると分かっているからだろうか。かなり積極的にディルに迫っているようだ。
「遅れてしまった。楽しんでるか?」
このタイミングでやってきたのはギルド長だ。
首根っこを抑えて連れてきてるのはラッセルのようだ。
どうやら誘われたがオレへの遺恨などから躊躇っていた所をギルド長に無理やり連れてこられたのだろう。
「ほら、言う事があるんだろう?」
ギルド長に背中を押され、ラッセルは前へ出る。
「ああ、……まあ、なんだ。色々済まなかった。」
ああ。慢心していた事などをギルド長から説教でもされたのかもしれないな。
それでも年下のオレに頭を下げる事が出来るとは思ってなかった。
うーん、すまん。ぶっちゃけオレはコイツのことはどうでもいい。勝手にしてくれと言いたい。
だが、形式上謝罪を受け入れ、ミルファに手を出すなと念入りに言って聞かせておいた。
オレはその場に来ている全員に、挨拶として酌をして回っている。
ブリュードルとはかなり話をし、ベロニカには一緒にパーティを組もうと、かなり積極的に来られた。
そして、マッドネスサイスの下に行った。
「……お前達、旅に出るって?」
「そうですね。数日で出発しようと思ってます。」
「そうか……なあ、ケントの奴も連れていけないか?」
マッドネスサイス側から来るとは想定外だった。
オレも来て欲しい気持ちはあるのだが、ケントが首を縦に降ってくれないから困っているのだ。
「ケント自身も行きたいとは思ってるはずなんだ。だが、パウロへの義理と、多分女だな。女が心配で気持ちを殺してると思うんだ。」
ケントの女とすると、メイだな。
あの感じからすると、その可能性は高いだろう。
一度見ただけだが、あのデレ方からしたら誰でも分かるくらいメイにゾッコンだったのだから。
オレもケントを連れては行きたいが、最終的に決めるのはケントだ。それに対してどうこう言う程オレも無粋ではない。
「実はオレも誘ってはいるんですよ。だけど断られてるんで。」
「そうか。悪かったな。アイツには才能がある。パウロさんならその才能を伸ばしてやれたのだろが、俺たちでは無理そうなんでな。お前らみたいな同世代だと発奮材料にもなってより成長出来ると思ったんだが……」
親の心子知らずとはよく言ったものだな。などと思いながら、ミルファやルナと談笑しているケントを眺めていた。
ブラッドローズのメンバーにも挨拶に行ったのだが、ルナを返せとかなりお怒りの様子だった。
まあ、本気で怒っている訳ではなく、一度ルナを忘れた事への罪悪感が大きいようだ。
最初は怒った様子で話していたのだが、オレがのらりくらりと躱すようにいなしていると、その様子は一変。泣きながらルナを頼むと懇願してきた。
多分これが彼女らの本当の気持ちなのだろう。
オレは彼女達の想いをしっかり受け止め、この気持ちを忘れないように心掛けた。
最後の一人はギルド長だ。
ここ最近は話をする機会がかなり多かったが、今後この街を出るという話を聞かされていなかった事に対し、かなりご立腹のようだ。
ギルド長という立場を考えたら、折角シルバーランクにした冒険者が、その直後に街から出て行ったら嫌だろう。
そう考えたら言えなかった。ギルド長が良くても、他の職員が何考えてるか分からないしな。
「まあ、お前の能力は常識を逸してる物があるからな。十分気をつけるんだぞ。」
最後は激励の言葉を貰い、来てくれた皆への挨拶を終えた。
◇
「随分楽しそうにしてたなー。」
オレはミルファやルナの下へ行き、先程から楽しそうに話してる姿に対し、少し愚痴ってみた。
「レイジさん、お帰りなさい。あのですね、明日皆で買い物行きませんか?
装備や旅をする上で必要な物を買っておかないといざという時困るじゃないですか。」
「そうだな。ミルファもルナも今の防具じゃ心許ないよな。」
「あと、ウチは普通の服も欲しいのです。お金があるのでやっと買えるのです。」
「ケントも行くんだろ?」
「俺?お前らと行くとは言ってないだろ。」
「いや、お前の装備も良くした方がいいんじゃね?」
最初に会った時よりはいい装備になってはいるが、オレより被ダメージが多い為、装備にガタが来ているように感じていた。
「おお。そう……だな。それなら俺も行くか。」
最近このメンバーでの行動ばかりだな。楽しいから全然構わないけど。
このメンバーで集まるのはこれが最初で最後だという事は、誰もが深く感じていた。
だからこそなのだろうか。この日は閉店まで誰一人欠ける事なく飲み続けていた。
本日は夜にもう1話更新予定。
お楽しみに!




