第94話 聖騎士ベロニカ
ラッセルを倒したオレはすかさずブリュードルを視界に捉えた。
開始と共に飛び出したラッセルが、次の瞬間には真っ二つにされて消えていくのを、ブリュードルはただ眺める事しか出来なかった。
「嘘だろ……秒殺って……っのヤロー、俺だってシルバーランクの意地ってのがあるんだよ。何もしないで負けるような無様な真似はしねぇぞ。」
ブリュードルは槍斧を振りかぶりそのまま叩きつけてくる。
バックステップで躱したオレはそのままファイアーボールを放つ。
が、ブリュードルはそれを回転した勢いの風圧でかき消した。
流石にこの辺はシルバーランクだ。対応の仕方が非常に上手い。こういった動きは勉強になるなぁ。
しかし、そのファイアーボールは完全に躱さなくてはいけなかった。
ファイアーボールの直ぐ後ろ、相手からは見えない位置にサンダーショットを追尾させていたからだ。
風圧でかき消したと同時に、サンダーショットを喰らい、ブリュードルは麻痺に掛かってしまう。
これで勝負は決まった。
直ぐに走り出し鋁爪剣にて一刀両断にし、決着を迎えた。
「おおっ、ブリュードル死亡。勝者、レイジ!」
ギルド長の宣言によりオレの勝利が確定した。
ブリュードル相手のは楽勝に見えたけどただの作戦勝ちだろう。
アレを武器を振らずに回避してたら、まだどうなってたかは分からなかった。
まあ、二対一なのに一人突っ込んだ馬鹿のおかげで楽に戦えたのは間違いない。
「かぁ~!負けたー!やっぱ強いわ。」
「ブリュードルさんだって、あのファイアーボールを回避してたらまだ勝負はどうなってたか分かりませんでしたよ。」
「お!そうか?嬉しい事言ってくれるじゃんか。」
オレとブリュードルはお互いを讃えあった。
そんな中、一人騒ぎ立てる男がいた。
「こんな戦いは無効だろ?何だあの剣は?何か仕掛けがしてあるはずだ。でなければ俺があんなガキに負けるはずがないんだ。」
ただの負け惜しみにしか聞こえないんだが、あれでも必死に訴えてるのだろう。
周囲の冒険者達も誰もが呆れた目でラッセルを見ている。
こんな奴がシルバーランクなのかと、疑いの目が大半だろうな。
そんな空気を一瞬で吹き飛ばした冒険者が一人いた。
ベコッ、ドゴォォン
一瞬何が起こったのか理解できなかった。
音のした場所を見ると、ラッセルが吹き飛び白目を剥いて倒れている。
そして、そこに立っていたのはシルバーランクのベロニカだった。
「全く……そもそも此奴を模擬戦の相手に選んだ時点で話になっていない。
レイジ殿の相手は私がすれば、それで全て解決だ。」
まさかの展開だ。
いや、この練兵所に来た際にベロニカに話しかけられたが、「何故自分が選ばれなかったのか。」と、聞いてきていた。
それって、選ばれたかったのではないだろうか。
つまりは、あそこで話しかけられた時点でフラグが立っていたという事だろう。
「どうだ、レイジ殿。私の装いならお前の苦手としている目のやり場に困る事も無いだろう?」
それを皆の前で言うのは止めてもらいたい。
だが、シルバーランクとしての実力を見せるなら、これ以上ない相手ではある。
それに此処で断ったら、明らかにオレのダメージが大きすぎる。
挑まれた時点で受ける以外の選択肢は存在していないのだ。
「この状況でそれ言われて断ったらオレがただの腰抜けってなるだけじゃないですか。
面倒でも受けるしかないんですよね。」
「決まりだな。」
ニヤッっと効果音でも付きそうな笑みを浮かべたベロニカ。
そして、その様子を固唾を呑んで見守っていたギルド長が高らかに宣言する。
「これより特別模擬戦を行う。双方、リライブフィールド内へ。」
オレとベロニカがリライブフィールド中央で相対する。
オレ達の間に会話はない。
双方共に武器を手にした。
奇しくも互いにその得物は片手剣。
周囲を静寂が包み込む。そして……
「始め。」
ギルド長の合図と同時にオレ達の剣がぶつかり合い火花を散らす。
不意を突くつもりで仕掛けたのだが、あっさり止められてしまった。
だが、それは相手も同じ考えだったのだろう。
開始と同時にお互いの剣が激突したまま動かない。所謂鍔迫り合いになっている。
多分この状態ならこっちが有利だ。初級魔法で威力を落とせばこの状態からでも発動出来る。
足元から相手の顎を目掛けてストーンを放つ。
しかし、ベロニカの反応はかなり早く、バックステップで躱した。
だが後ろに下がればオレは追撃出来る。二人の距離があいた分、中級魔法も放つ事が出来る。
「サンダーショット!」「魔法剣雷!」
サンダーショットは一直線に相手に向かっていく雷だ。
オレはそれを追従しつつ、魔法剣雷を鋁爪剣に纏わせる。
左右どちらに躱しても直ぐにオレは追撃を入れる事が出来る。
だが、ベロニカは一歩前に出てそのまま飛び上がった。
そのまま追従していたオレの後ろへ移動している。
これはマズイ。一瞬にして背後を取られた。
「オーラブレード!」
ベロニカは後ろ向きの体制から、身体を回しながら剣を横になぎ払った。
その剣から光る斬撃が飛んでくる。
「なっ!ぐあっ!」
咄嗟に盾でガードしようとするも間に合わず、直撃してしまった。
その斬撃によってオレの左腕が切断され飛んでいく。
更にベロニカは同じオーラブレードを連続で撃ってくる。
二撃目以降は全て剣で弾いているが、腕を切断されるのは初めての経験だ。
痛くてかなわない。てか、出血が酷い。ブリュードルが腕を飛ばされるのを見たが、こんな感じだったのか。
本当に嫌だ。もう二度とこんな目には逢いたくない。
とりあえず反撃しなくては。
ベロニカのオーラブレードは尚も降り注ぐ。
このままじゃジリ貧だ。イチかバチかで自分の足元にウインドを放つ。
床は土を固めただけだ。これにより砂埃で視界を奪う。
それと同時に横への移動をしておく。
こちらからも飛んでくるオーラブレードは見えなくなるので、その対策だ。
そこから放つは二種類の魔法。中級暴風魔法のエアブラストと貫通力を高めた氷魔法のアイスジャベリン。
エアブラストの切り裂く暴風にアイスジャベリンを乗せる。
時速200キロで飛んでいくアイスジャベリンはそれでも尚飛んでくるオーラブレードを掻い潜り、ベロニカの胸を貫き、リライブフィールドの外の壁すらも突き破っていった。
「しょ、勝者、レイジ!」
相手の死亡が確認される前に勝利が確定した。
見ると、アイスジャベリンによる胸の穴だけでなく、エアブラストで体中が切り刻まれていた。
そして直後、ベロニカは消えていき、リライブフィールドの端に座った状態で現れたのだ。
「いっ……てぇ~!ミルファ!腕。繋げてくれ。」
「は、はい。」
外で見ていたミルファに至急ちぎれた腕を繋いでもらい、やっと落ち着くことが出来た。
「レイジ殿。流石の強さだった。完敗だよ。」
「あ、ベロニカさん。いえ、オレが勝てたのは運も大きかったですしね。
床が石畳だったら最後のはあんな逃げ方出来なかったし、オレの攻撃も当たらなかったでしょ。」
「いや、咄嗟にそれだけの状況判断が出来るのが凄いのだ。お前は間違いなく私より強かった。
勝負を受けてくれた事、礼を言う。」
オレは少し照れくさかったが、ベロニカの差し出された手を取り、握手を交わした。
ともあれ、これで晴れてシルバーランクの仲間入りを果たす事が出来たのだ。
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