第52話 ブラッドローズと合同打ち上げ
ギルド解体広場は誰もがその目を疑いたくなるような光景であった。
オレがその場に売却素材として出した魔物は約700匹分。それでも全体の約3割程だ。
その場に居合わせた職員は、腰を抜かして倒れ込むもの、溢れるように積み重なる魔物が崩れるのではないかと逃げ出すものなど様々だ。
ギルド長とオーグストンは……これは気絶してるのだろうか。口を開けたまま固まっていて焦点も合っていない。
1階層のゴブリンなどは持ち帰ってもいない。その分、ワイルドドレイクやレッサードラゴン、キラータイガーなどそこそこの大きさで素材価値の高そうな魔物は多めに狩って来ている。
其の辺の魔物は今回は出さずに小動物や虫系の魔物をメインに安値になりそうな魔物を中心に出してみた。
まあ、それだけだと物足りないので、ドラゴン以外の爬虫類種を混ぜて価値を高めておいたのだが。
数はあるが単価はそこまではないだろうと思う魔物を中心に出したはずなのだが、蓋を開けてみてかなり驚愕した。
全体結果はこの日はでないと言われたのだが、其々の基本単価は教えてもらえたのだ。
例えば、12階層の尻尾が鉄球の猫、アイアンテイルキャットだが、コイツ1匹で1万Gらしい。因みにコイツは30匹分あるのでこれだけで30万Gなのだ。
まあ、中には1匹単価が1千Gとかの安いのもあったのだが、高いのは途方もなく高いので合計で幾らになるのか想像つかなかった。
「これで全体の3割だからなー。あ、でも小型のはもう殆ど無いから。場所が足りないだろうから毎日小出ししてくからよろしくなー。」
エイルはそう言うとヒラヒラと手を振りその場を後にしていった。
オレ達はギルド長とオーグストンに「お願いします。」と一応頭を下げてからエイルを追ってギルドを離れるのだった。
「さーて、久々に一杯やりにいくかー!」
エイルのその言葉を待ってましたとばかりにオレ達は歓喜し、いつもの酒場へと向かっていった。
夕食時の一番混んでる時間で酒場も大繁盛している。そんな酒場に入店し、以前にも座った席に案内されると、隣の席にはソニアらブラッドローズのメンバー、もとい親衛隊が先に飲み始めていた。
「おー、ソニア!お前らもここで打ち上げか?つくづく今回は縁があるなー。」
「あら?私を追ってここまで来てくれたのかしら?そんな事だとマリーが可愛そうよ。」
ソニアの先制口撃なのだろうか。いや、単純にこれが挨拶なのだろう。
「ふふっ、ソニアも今晩一緒にどう?ソニアならエイルも歓迎すると思うわよ。勿論私の後でね。」
マリー姉さんの絶妙な返しだ。これが大人の女性の余裕なのだろうか。
前世のオレでも挑発に冷静に返すなど苦手だったので、この舌戦に感心するばかりだ。
「私はエイルよりこっちの坊や方がいいわ。坊や、こっちにいらっしゃい。ミルファちゃんも一緒にね。」
「いやいや、そちらの席もいっぱいで座るとこないですよ。」
またこの人のペースに乗せられたら堪ったもんじゃないと思いやんわり断ってみた。が、
「大丈夫よ。レイ、ナディ。貴方達はディルの隣がいいんでしょ?行ってきなさい。」
どういうことだろうか?オレはその意味が理解できずに首を傾げている。
しかしそのレイとナディという二人の女性は嬉しそうにディルを間に挟んで席についた。
結局オレとミルファは顔を見合わせ、仕方ないなとアイコンタクトを取りソニアの隣に座ろうとした。
「この狭いとこに来なくていいでしょう?そっちの二人が抜けた所に座りなさい。」
二人が抜けた所……ルナの隣だ。これがソニアの企みだったのか。オレはそう思いながらも言われた席に座った。
「てか、とりあえずはロードウインズで乾杯したいんですが……。」
「おう、レイジ!しゃーないけどこのまま乾杯しようぜ。んじゃ、おつかれー!かんぱーい!」
こんな感じで何故か混合での打ち上げが始まってしまったのだった。
しかし、オレの微かな不安を他所にその打ち上げは平和そのものだった。
オレを挟んでミルファとルナも凄く仲良さそうに話をしている。てか、オレを挟まずに話せばいいのにそこは譲らないらしい。
オレはというと、正面に座っているソニアと話したりしている。
内容は様々だが、ファスエッジダンジョンについて聞かれることが多かった。
一応ある程度は教えておいた。
勿論シームルグの事は伏せたままで。
ある程度酔いが回ってくると、両隣の会話がオレの事になってきている。
何となく居づらい雰囲気なので離れたいが、ミルファが腕を組んで離してくれないのだ。
「なあ、ミルファ、一旦腕離さない?」
一応聞いてみたが、笑顔で「嫌です。」と返ってきた。
正面にいたはずのソニアはエイル達の席に移動しており、エイルもマリーとソニアに挟まれる格好になっていた。
現在正面に座っている二人は名前も知らないし、話しかけてもそっけない態度をとられて相手すらしてもらえない。
昨夜のお好み焼きの時はあれだけ来てくれたのにだ。寄ってくるのは食べ物が絡んだ時だけのようである。
暫くミルファとルナの会話を聞いていたのだが、これがかなり小っ恥ずかしいものだった。
ミルファがオレの素晴らしさを力説しているのだ。
囚われの女騎士ならば「くっ、殺せ!」と言ってることだろう。
そんな幸福と地獄に挟まれたような時間を過ごし、ミルファの力説が漸く一段落着いたらしい。
「ミルファちゃんの話を聞いて、より一層レイジくんと一緒に討伐依頼でも受けてみたくなったのです。
ソニア姉さまの許可が下りたら是非お願いしたいのです。」
「ルナちゃん、その時は私も一緒していいの?」
「勿論ですよ。ミルファちゃんが一緒ならもっと楽しく出来るのです。」
二人はいつの間にやらかなり仲良くなってるようだ。
しかも砕けた口調で話をするミルファを見るのはケント以外で見たことがない。
ミルファは普通にルナと気が合うのかも知れないな。
気が付くと閉店の時間まで飲んでいたようだ。
今回オレ達は飲み過ぎに注意しつつ飲んでいたが、ブラッドローズの面々は一切の加減をせず飲んでいたらしく、ソニアを含め六人中三人が潰れてしまったいた。
しかも三人ともエイル達と同じ席で飲んでいた面子だ。
ディルの両脇に陣取った二人は元よりディルの隠れファンらしく、ソニアが気を利かせてディルの隣を確保するように仕向けたらしい。
オレを誂う目的も絶対あったとオレは思っているが。
その二人は憧れのディルの隣に長い事居続けた事で、喉の渇きが酷かったのだろう。
水のように酒を飲んでいたらこのような状態になってしまったようだ。
ソニアは元より酒に弱いだけらしい。
飲み潰れた三人は、エイルがソニアを。ディルは二人を担いで帰る。
家まで連れて行くのは面倒だといってロードウインズの家に連れて行くとか。
マリーはエイルの部屋に行くからマリーの部屋を使わせるという。
ルナら残りの三人は家に帰るからと言って帰っていった。
随分久々の我が家だ。
今では此処を我が家と言うのにも違和感が無くなってきた気がする。
家に入るなり、このまま二階行くからと言って三人は上がっていってしまった。
「私達だけになっちゃいましたね。もう遅いし私達もベッドに入りましょうか。」
ミルファのセリフが誘ってるようにしか聞こえないが多分そういう意図はないのだろう。
危うく勘違いをするところだった。
「明日は別に早く起きなくても大丈夫だろ?久しぶりだから風呂入らない?」
「あ!いいですね!私もスッキリしたいです。」
別にミルファと入りたいとかではなく、長い事ダンジョンや外で寝泊りしてたので風呂どころか水浴びも出来てなかったのだ。
この十日程の間はずっとウォッシュの魔法だけっていうのは流石に限界だった。
久々の風呂で十分に満足をし、ミルファと二人ベッドの上、久しぶりに二人だけの時間を噛み締めるように味わった。




