第38話 遠征
少し残虐な描写があると思います。
ご了承下さい。
遠征当日の朝、普段通り起きて普段通り準備を始めた。
まだLV1の僧侶を育て、あわよくば中級職になれるようにしたい。
そういう今後の事を考えると楽しみで仕方ない。
レベルを上げるのにはもう一つ理由がある。
最近気が付いたのだが、いずれかのレベルが1上がればスキルポイントが10増えているのだ。
ジョブは五つまでになったので、そろそろ他のスキルを上げにかかりたい。
その為にはレベリングをしなければならないのだ。
昨夜様々な料理も作り、アイテムボックスへ入れてある。
装備の状態も確認し、遠征にむけての準備は整った。
今回は依頼を受けての移動ではない為、馬車での送迎はない。
その為、馬車はレンタルサービスで借りる事にしている。
この世界でレンタルショップがあるのに驚いた。
このシステムをもっと違う流用の仕方を考えれば、結構便利になる事もあるのではないだろうか?
そんな事も考えたが、内容が思いつかなかったのでそれ以上考えるのを止めた。
馬車のレンタルには担保が必要になる。
理由は誰もが察する通り、持ち逃げ対策だ。
最初は善意でこの商売を始めた店主は、相次ぐ持ち逃げ被害に頭を悩ませていたらしい。
それでも本当に必要としている人も一定数存在していた為、考えたシステムが担保制みたいだ。
しかし一定以上の資産がないとレンタルは出来ず、その一定以上の資産がある人は個人で馬車を所持している場合が多い。
その為、レンタル馬車を使うのは冒険者がその大半を占めている。
今回は現金で100万Gを担保として渡した。
それなりの長期になる可能性と、確実に信用を得る為だ。
実はこのパーティには御者を出来る者がいなかった。
例えLV1でも操車スキルがあればとりあえず走らせる事が出来るのだが、誰もそれをやったことすら無かった。
その為別途料金を支払い、一時間ほど操車のレクチャーを受けたところ、エイル・ディル・オレの三人が操車スキルを獲得できた。
そんな事でかなり時間をロスしたが、無事出発したのだった。
行き先は北にある巨大ダンジョン。正式名称はこの国の名を冠した、『ファスエッジダンジョン』である。
走行距離は500キロ程で馬車で三日あれば行けるはずの距離である。
馬車の座席にはレッサーウルフの毛皮が敷き詰められ、悪路でもお尻へのダメージは減るようにしておいた。
御者は交代制でディル・オレ・エイルの順だが、マリーとミルファにも道中覚えてもらい、ローテーションに組み込むことになった。
これでオレ達の負担はかなり減るだろう。
オレが御者をしている時、ミルファはディルの指導で、走っている馬車からラビット種を的にして弓の練習を行っていた。
こういう練習があるから、オークと対峙した時でも冷静に射抜く事が出来たのだろう。
それにしても御者とは暇だ。
車の運転と比べても明らかに操作が少ない。
まあ、ほぼ直線を走ってるからと言うのがその理由なのだが、馬が賢いのが一番の理由だらう。
緩やかなカーブなら何もしなくても道なりに走ってくれる。
お陰でオレは楽が出来てはいる。
御者をエイルと交代した後は、オレも弓の練習に勤しんだ。
やってみると揺れる馬車から射るのは凄く難しい。
流鏑馬となるとこれ以上になるのだろうが、よくこんな状態で狙いを定められるなと感心しっぱなしだ。
御者の二巡目の前にエイルの指導でマリーが御者をやっている。
馬が賢いので全く問題ないみたいだ。
同じようにミルファもやってみる。指導するのはオレだ。
ミルファはかなり筋が良かった。始めて五分程でスキルを覚えていたのだ。
少し嫉妬して膨れてみたのだが、この時のミルファの反応が可愛かった。
辺りも暗くなったのでこの日の移動を止め、野営の準備を始める。
一応進行状況を確認する為、マップを見たら北の山脈までの三分の一程の進行具合だった。
マリーの魔法、セントフィールドはその周辺に魔物を寄せ付けない効果がある。
そのセントフィールドを使う。するとその場を中心にピラミッド型の空間に包まれた。
その中にテントを設置し、火を起こす。
煙はその空間からは普通に出て行くようだ。
食材の節約の為、途中で狩ったフットラビットを解体し、その肉を焼いて食べることにした。
今まで売ってるのを見たことはあったが、買ったことは無かった。
初めて食べたが、思ったより筋張っていてイマイチだった。
全員に生活魔法のウォッシュを掛けて、この日は終わる。
翌日は霧雨が降っていた。
起床時は降っていなかったのだが、食事を終え、出発しようかと思った時に降り始めてきたのだ。
とりあえずは走り始めたのだが、昼前には本格的に降ってきた。
マップで周囲を確認すると、道から逸れて5キロ程行った先に集落があるのが分かった。
「エイルさん、左に逸れた先に集落があるかもしれません。そっちに向かったらどうですか?」
「だな。これ以上酷くなる前に何処かに避難した方がいいな。そこを目指すぞ。」
馬車はその進行を左へ向け、その集落を目指した。
そこは酷く寂れた村だった。
民家の半分は手入れもされずにその形を残してるだけの状態であり、まともな家も少なかった。
とりあえず誰も使ってなさそうな納屋に馬車をいれ、天気の回復を待つことにした。
「全然止みそうにないな。」
エイルは小さく呟く。
「人がいそうな家を探してみましょうか?とりあえず休める場所でも見つけないと。」
皆が頷き民家を訪ねて回ることになった。
近くの家には誰も住んでいない。
探し始めて八件目、外からでも人が居る気配が分かる。
少しだが話し声も聞こえている。
「すみません。どなたかいらっしゃいますか?」
返事がない。とりあえず扉を開け中へ入ってみる事にした。
中を見てオレ達は皆戦慄した。
二人組の男に陵辱されている若い女、その傍らに手足を縛られ横たわる男。
一目で状況は理解出来た。
エイルとオレは直ぐに武器を構えて走り出す。
「なんだ、テメエらは?ん?女もいるじゃねえか。へへ……こいつはいいおん…」
二人組の男の内一人が近づいてきた所を走り出したエイルが斬りつける。
マリーに向け伸ばした腕が飛ばされるが、男は状況を理解出来ていない。
もう一人の女を陵辱したままの男に向け走り出してるオレは、そのまま男を蹴り飛ばし女から離してから斬り伏せた。
ディルは縛られてる男の元へ行き開放し、マリーとミルファは女に毛布を掛けて救出するに至った。
「大丈夫か?」
ディルの問いに答えは返ってこない。
不雰囲気から察するにこの二人は夫婦なのだろう。
手足を縛られ妻が陵辱されてる姿を、ただ眺めてる事しか出来なかった夫の気持ちは推し量れないだろう。
「こいつらって何者なんですかね?」
「多分普通の盗賊だろ。雨音に託けて農村で略奪や強姦をして回ってる碌でもない連中だ。」
エイルは顔を顰めながらも淡々と話す。
「なあ、こいつらに襲われて命があっただけでも良かっただろ。
答えてくれ。こいつらはこの二人だけか?」
エイルは手足が解放されても尚、俯いたままの男に問い詰める。
「……わからない。けど、こいつらは最近山から降りてきた盗賊のはずだ。
ある程度は徒党を組んでると思う。」
「そうか、あんたはこの女の旦那だろ?これから先も嫁を守っていくんだろ。
とっとと立ち直って守ってやれよ。」
エイルはそう言い立ち上がると扉の方へ歩き出す。
「全部の家を回るぞ。」
一言だけ発し外へ出て行った。




