第37話 光の日
この日、朝食時に5ジョブを獲得し僧侶を付けたことを告げた。
「そっか、んじゃあ、まずはトコトン戦って経験を積まなきゃな。」
エイルはそれ以上は何も言わず、黙々と食事をし続けている。
もう少し何か助言が貰えると思ってたオレは、ただその場で首を傾げているだけだ。
実はエイルはこの時遠征に行くことを考えていた。
このロードプルフ周辺は限りなく平和な地域である。
他地域に比べると魔物などは比べ物にならない程少ない。
敢えて魔物がいるとすれば東の森くらいだろう。
実際に魔物の多い地域だと、一週間も討伐を続けたら楽に神官になれるくらいまで強くなれる。
それに対しミルファが掛かった期間は二週間以上、その差は歴然だ。
そこで今回エイルが考えてるのが北にある巨大ダンジョンでのレベリングであった。
そのダンジョンでは全てのフロアで常に百匹の魔物が闊歩している。
討伐されその数が減っても、一分で一匹ずつ新たに産み落とされている。
そして今のレイジの強さなら、単独でも10階までは問題ないと判断している。
そこを全員で行くなら40階でも大丈夫なはずだ。
しかし行くだけで三日の道程だ。その距離を考えれば行くたいと思う人は少ない。
金銭的に考えても、往復一週間掛けて持って帰れるのは魔物数匹の必要最低限の部位だけなのだ。
誰も行こうとは考えないだろう。
今回エイルがその遠征を考える切欠はレイジの存在である。
レイジの持つアイテムボックスがあれば倒した魔物は全て持ち帰れて、マップのスキルがあるので階層踏破するのにも時間を要さない。
そうすると、レイジとミルファを育てながらも、数千万単位の稼ぎも有り得ると考えたのだ。
今日はその為の準備をしようと考え、レイジ達も休ませるつもりでいた。
「まあ、そんな感じだから今日は休んでくれ。その代わり明日からは暫くこの家にも帰ってこれないからな。」
エイルの言葉に全員が頷き、今日どう過ごすか考えているようだった。
オレはとりあえず鍛冶でもしてようか。そんな風に考えていた。
そんな時ミルファから声が掛かった。
「レイジさん、デートしませんか?」
いきなりだったので少し驚いたが少し考えた末、了承する事にした。
昨日別行動だったのもあり、一緒にいたいと思っているのもあった。
明日からも一緒にいるとは言え、皆の前でイチャイチャする訳にはいかない。
今日は目一杯楽しめばいい、そう思いミルファと共に家を出た。
「ところで何処か行きたいトコってあるのか?」
いきなりの休みで予定など立ててはいないはずだ。なのでミルファに聞いてみた。
「歓楽街の劇場に行ってみませんか?今丁度王都の劇団が来てるはずですよ。」
演劇か、歌劇か。そういうのもこの世界にあったのか。
「それは見てみたいな。」
その一言で行き先は劇場に決まった。
歓楽街と言っても、ネオン街のような雰囲気ではない。
いや、奥までいけば風俗店が立ち並ぶ一角はあるが、このメインストリートは劇場やサーカス、闘技場など人々が普通に楽しむ施設が並んでいる。
中には甘味を取り扱う店も多々有り、特に人気なのが卵と砂糖を焼き固めたお菓子らしい。
カステラかと思ったがどうも違うみたいだ。
歓楽街は商店街に負けないくらい人が多い。
この街にこれだけ人がいたのかと思ってしまうほどだ。
「そういえば今日は光の日でしたね。道理でで人が多いわけです。」
ここで聞いたことのないフレーズが出てきた。
光の日とはなんだろうか。
「光の日って?」
「知らないんですか?えーと、日にちの数え方って言うんですかね。
光の日から始まって、火・水・風・土・闇で一サイクルなんです。
それを五回繰り返して一ヶ月です。今日は光の日ですから明日は火の日ですね。」
要するに一週間の数え方みたいだ。光の日が日曜扱いらしい。
一ヶ月は30日、それはほとんど変わらないみたいだ。
「因みに前に一緒にお買いものに行って、コレを買ってくれたのも光の日でしたよ。」
ミルファはそう言いながら耳に付けてるイヤリングを見せてくる。
そう考えると、休んでるのは光の日ってことになるのか。
劇場もなかなかの人ごみになっている。
聞くと今回の劇は二時間近い作品らしく、立ち見は勧められないと言われた。
元からそこでケチるつもりもないが、指定席を買いミルファと二人並んで見ることになった。
今回の物語はこの世界に纏わる神話をオマージュしたものらしい。
内容としては、その昔人間も二足歩行を始めた頃、この地上での四大精霊と四聖獣による大地の支配を巡る戦いの話だ。
四大精霊であるウンディーネ・サラマンダー・シルフィード・ノームは全ての生き物が共存出来る楽園にしようとし、四聖獣である青龍・朱雀・白虎・玄武は生きとし生きるものを恐怖で支配しようとする。
互いの考えはぶつかり合い、百年の戦いを経て四大精霊がその支配権を勝ち取った。
しかし四聖獣は己らの肉体をその大地の奥に眠らせ、今でもその肉体より魔物を生み出しながら大地を恐怖で支配しようと目論んでいる。
そんな話だった。
しかし、出てくる精霊や聖獣も向こうの世界の伝説にもいる名前ばかりだ。
何処かで繋がっているのかと思ってしまう。
「これって実際の神話とかなの?」
気になったのでミルファに聞いてみる。
「私も詳しくは知らないんですけど、そういう話があるのは確かだと思いますよ。
魔物がああやって生まれてるとなれば、もっと倒さなきゃと思ってしまいますね。」
所詮は物語だが、何処か現実味のある話だった。
強ち間違ってないかもしれない。
演劇鑑賞後、少し休もうかと人気の軽食屋に行くことにした。
この店に入って驚いたのが、その飲み物だ。
メニューを見て驚愕した。そこに書いてあったのはコーヒーだ。
家でも飲めるなら飲みたいと思い店員に聞くと、王都から直接仕入れてるから販売は無理だと言われた。
一般の店舗での取り扱いはしていないらしい。残念だ。
その後は服などを見て回るショッピングデートだ。
前世のオレはこれが一番苦手だった。しかし今は全くと言っていいほど苦痛に感じない。
今の肉体がそうなのか、冒険者として鍛えられたからなのか、いずれにせよ女の子の買い物に付き合えるのは素晴らしい事だ。
最後に皆にお土産としてカステラみたいなお菓子を買って帰ることにした。
家に着くとエイルとマリーが出迎えてくれた。
ディルは朝から出掛けたままらしい。
今日の夕食はオレが作る。ミゲレート村で貰った木耳を使いあんかけ焼きそばを作る。
麺というものがないので小麦粉から作らなければならない。大変だ。
しかしそこは皆が手伝ってくれる。
捏ねたりするのは任せて餡を作っていく。
麺を伸ばしていくのに麺棒を使うのだが、これを錬成で作る。
ここで錬成が役に立った。
麺を切るのにエイルのスキルが役に立つ。いい感じの細麺だ。
野菜もたっぷりオークのバラ肉も入ったあんかけ焼きそばだ。
出来上がる直前にディルも帰ってきた。
皆で実食をする。
最高に美味い。初めての麺は素晴らしい出来だった。
ディルに至っては涙を流している。
遠征から帰ったら小麦粉を大量に買ってきて、麺を作っておこうとエイルは言っている。
風呂にも明日からは入れなくなるので十分に堪能する。勿論ミルファも一緒にだ。
寝る際にベッドへ行ってもミルファはあんかけ焼きそばの事を聞いてくる。
今までにない食いつき方だ。
また作るから、と言って宥めながら眠った。




