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第26話  魔法

 深い森の中、僅かにある獣道を進んでいる。

 大型ポイズントードの出現によりミゲレート村の人間が立ち入らなくなったことで、その道も見えなくなってきていた。

 道が見えなくても、こういう時こそマップの出番である。

 マップを駆使し道っぽい場所を目的の沼に向けて進んでいく。


 途中ゴブリンや大毒蜘蛛が現れるが、エイルやディルに屠られていく。

 そして姿を見せた。ポイズントードである。

 その姿は見るからに毒々しい。紫と黄色の模様に呼吸の度に喉から何かが出ている。

 しかしこれは通常のポイズントードだ。目的のヤツではない。

「レイジ、魔法試してみろ。」

 その言葉に待ってましたとばかりに魔力を込める。

「ストーン!」

 これは……いしつぶて?思ったよりショボかった。

 ダメージにもなっていない。ならば、

「ウインド!」

 風が吹き荒れポイズントードの身体が浮き上がる。

 1メートルから落下。微妙だ……。

 森で火はマズイだろうし、水には耐性がありそうだ。

 魔法はイマイチだった……。

「レイジー!なんだそのみみっちい魔法は!ディル、頼んだ。」

 ディルのパワーアローでポイズントードは倒れた。


「まあ、森では火は使えないから仕方ないよな。とりあえず今回は弓でいけ。」

 オレはショボくれながら頷き、アイテムボックスから弓を取り出した。


 ポイズントードはその血液にも毒がある。

 その為近接戦闘は極力避けられる傾向がある。

 中にはそれをお構いなしに戦うものもいる。

 毒に耐性を持つ者、もう一方が切りつけた後に即離脱出来る者である。

 エイルはそのスピードを活かせば切りつけ、血液が出る前に範囲外まで出ることが可能だ。


 ミルファを含め三人の弓による射撃で出てくるポイズントードを次々と撃退していく。

 打ち漏らせばエイルが止めを刺し、直ぐにその場を離れる。

 気が付けば20を超えるポイズントードを倒していた。


 それは紫の沼。吸えば噎せ返る瘴気に包まれ、呼吸もままならない。

 周囲の木々は腐り、既に毒草すらも生えていない。


「いねえな。間違いなく此処がその沼なんだがな。」

「沼の中ということもあるわよ。気を抜かないようにね。」

 毒の沼には触れないように、ゆっくり進んでく。

 先程まで襲ってきていたポイズントードが今は全くいない。


「なんかおかしいな……気をつけろ。近くにいるかもしれねぇ。」

 周囲を警戒する。


「きゃあああああぁぁぁぁ」

「ミルファ?」後ろを振り返るとミルファの足を何かが掴み沼に引き込もうとしている。

 既に足が毒の沼地に引きずり込まれている。

「くそっ!ファイアー!」

 掴んでる何かに向けて全力で放つ。

 直撃した瞬間ソレはミルファを離し沼に引っ込んでいく。

「大丈夫か?」

 そう言いミルファの足を観る。

 特に何もなっていない。大丈夫なのか?

「多分そのイヤリングのおかげね。」

 イヤリング……そうだ。ミルファのイヤリングには毒無効が付与されている。

 おかげで無傷だったみたいだ。


 それでもまだ沼の中にヤツはいる。

 姿は見えない。しかし確実にそこにいるであろう。

「もうメンドくせぇ!ディル焙り出してやれ。」

 沼に向けてレインアローを放つ。そこに次々と矢が降り注ぐ。


 キュオオォォォォーーー!


 その姿が現れた。通常のポイズントードの五倍はあるであろう、その巨体。

 よくこの中に隠れることが出来てたな。と思うほどだ。

 オレとミルファでドンドン矢を打ち込んでいく。

「レイジ!ここなら問題ない。火魔法をガンガンお見舞いしてやれ。」

 オレは頷き、ファイアを唱えてく。

「ファイア。ファイア。ファイア。ファイア。ファイア。ファイアー!」

 身体の粘膜が燃えやすいのか、撃ち込まれる度に火は燃え広がっていく。

 ディルとミルファも射ている。

「ファイアー!ファイアー!ファイアーーーー!」

直立のまま止まり、ゆっくりと後ろに倒れていく。

「やべっ、みんな逃げろーー!」

 倒れた勢いで沼の毒が弾け飛ぶ。

「ダメ、皆固まって!セイントウォール!」

 マリーが魔法を唱えると、その前に光り輝く盾が現れた。

 飛んでくる毒は、その盾に当たると全て蒸発して消えていく。

「レイジくん、沈む前に回収出来る?」

「大丈夫です。行ってきます。」


 大型ポイズントードの死体を回収し、アイテムボックスへしまう。

「いやー、最後のは焦ったなー。」

 敵の攻撃ではなく、地形による危険。ある意味自然の驚異と言えよう。

 そりゃゲームでも歩き回ったら死ぬよな。なんて思ったりもした。

 毒の沼、ホントに恐ろしい所だ。


 しかし、オレにとっての地獄はこれからなのだ。

 毒草のある一帯まで戻りソレは始まる。毒治癒マラソンだ。

 オレが毒草を食べて動き回る。ミルファが毒消し薬で治療し、ポーションで体力回復。

 それを繰り返す。ミルファが『治療』と『手当て』のスキルを覚えるまで。


 これが辛い。

 腹痛を起こし、時には喉に激痛が走る。

 更に体力を減らす為走らなければいけない。

 まさに地獄だ。


 しかしそれは思ったより早く終わった。

 丁度十回目で、ミルファは両スキルを獲得したのだ。

 

 オレは終わったと同時に倒れ込んだ。

 終わったんだ。一つ大きく呼吸をし安堵の表情を浮かべた。


 村に戻る前に周辺の毒草を回収する。

 ポイズントードの毒と合わせたら毒兵器が出来たりして。なんて考えたりもした。


 往路では敢えて無視していた、木耳やアフラ草も回収していく。

 木耳は報酬でも貰うが、あって損はない。採れるものは採っていくのだ。


 

 村には陽が沈む前に戻ってこられた。

 早い帰還に村人は不安げな表情を浮かべていたが、村長の前で大型ポイズントードの首を出した途端に、それは歓喜へと変わった。

 村人達は相当不安な日々を過ごしていたのだろう。

 これで従来通り森へ入れるはずだ。


 しかし考えてみると、木耳の生えてた場所にポイズントードはいなかった。

 ポイズントードの生息域はもっと奥の沼エリア周辺だ。

 ポイズントードが生活にも影響するということは、村人はそのエリアまで行ってたという事だ。

 そのエリアで採取出来るものを採る為に。


 多分予想だが、この村はその毒を売ることで生計を立てているのだろう。

 それは薬になるのか、そのまま毒として使われるのかは分からない。

 別にそれを追求する気もないし、事を荒立てるつもりもない。

 オレ達は冒険者として依頼を遂行するだけなのだから。


 その夜、村では宴が行われていた。

 大型ポイズントードの脅威がなくなり、村人の表情はかなり豊かなものになっている。

 ある者は歌い、またある者は踊り、村人は心から喜んでくれている。

 しかしオレ達は常に警戒をし平常を装っていた。

 誰も口には出さないがこの村が毒の販売を生業にしている事に気付いているのだろう。

 そんな中村長が近づき話しかけてきた。


「皆様お気づきかと思いますが、この村は毒を取り扱うことを生業としております。」

 村長が自らその事実を打ち明けたのだ。

「我々は一部の名のある商会としか取引はしておりません。知りうる上では違法に取り扱われる事は無いと思っております。

 勿論それはギルドでも調査済みでしょう。それを踏まえて今回派遣していただけたと思っております。

 誓ってこの村は闇ルートでの販売は行っておりません。」


「疑って悪かった、村長。ただそういう事は先に言って欲しかった。

 俺達冒険者も決して真っ当な商売じゃない。それだけに信用が第一なんだ。

 闇ルートでの毒の斡旋に加担しているってことになったら大変なんだ。理解して欲しい。」

 エイルの言葉にオレ達も聞き入る。

 村長も今後ギルドに依頼を出す際にはそれを説明すると言ってくれた。

 オレ達全員が気の抜けたような表情になり、安堵からか笑った。


 翌朝、ロードプルフへ向かう馬車に乗り込み村を後にした。

 

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