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プロローグ

朝までに本編第一話もアップ予定です

「どうですか?大デュマさん」


肩にかかるアッシュブロンドの髪がふわりと動く。覗き込む様に小首を傾げたその表情は、ワクワクと音が聞こえそうなほど期待と興味に満ち溢れていた。

 その矛先が俺である事は分かっているが、細切れの指がサイコロみたいに転がっている中で、よくもまぁそんな顔をしていられるものだ。傍から見たら相当ヤバい女の子だと思う。

かく言う僕も、肉サイコロの真ん中でそんな事を考えられるくらいには、この凄惨な現場を受け入れてしまっているのが少し悲しい。


「その大デュマっての、どうにかならないか?」


 大出悠馬(おおいで ゆうま)、そう名乗った僕に、この人形が命を持ったかの様な彼女はそんな大層な呼び名を与えた。あくまで発音は「おおでゅま」だが、それでも大デュマは大デュマ。どうしたって頭の中にはモンテクリスト伯がチラつく。


「良いじゃないですか。呼びやすいですし」


こっちの世界の発音の都合というのが彼女の弁だ。しかし、この世界に来てもう随分と経つが、これまで彼女以外の人間から大デュマなんて呼ばれた事は一度だって無い。発音の都合なんて理屈もだいぶ怪しいものである。


「クリスティだって、自分の名前を勝手に変えられたら嫌だろ?」


 ちょっとした仕返しと、それから少しのからかいを込めて。僕は彼女をそう呼んだ。

 我ながらなかなか上手い事を言ったものだ。


「私の名前はメアリです」


 心外だと言わんばかりのしかめ面。ピッタリなんだけどなぁ。殺人現場で犯人を追う少女がメアリでクリスティなら完璧すぎるほどだ。


「そらみろ」


 当然だが、彼女にメアリをクリスティと変えられた意味は理解出来ていない。この世界にアガサ・クリスティが居るはずもない。そもそもあっちの人にしたって、クリスティの名前にメアリと入っているのを知ってる奴が何人居るか。

 大デュマにクリスティなんて、こんなにも今の僕たちにピッタリなネーミングも無い。ダルタニャンとマープルもさぞご満悦だろう。



 僕がこのヘンテコな世界へと迷い込んで、もう1年が経とうとしている。

 ここに来る前、入学した高校ではミステリー研を立ち上げ、部員も形になるくらいには集まっていた。解釈の違いで時には激しい舌戦なんかもあったが、まぁ仲良くやっていたと思う。

 あの日も、そうやっていつもの仲間たちとミステリー談義に花を咲かせて帰ったところだった。夕方疲れてた僕が制服も脱がずにダイブしたベッドが、首切り死体との同衾オプション付きだったなんて、夢幻の類だったらどれだけ良かったか。

 あの日の雅人のセリフが思い出される。


「魔法が出てくるミステリーも捨てがたいもんだよ」


 ミステリーに魔法なんて邪魔だと一蹴した、あの時の俺のなんと愚かな事か。雅人、君の言う通りファンタジックなミステリーってのもなかなかどうして味わい深いものだったよ。

 出来ることなら自分と何の関係も無い紙の上の物語として、楽しんでみたかったけれど。



「で、どうですか?」


 先ほど有耶無耶になってしまった質問の答えを催促された。目の前で淡く光る紺碧の粒子を眺めながら、今度はメアリの問いかけに応じる。


「残ってるよ。割とはっきり」


 魔痕、それがこの光る粒子の正体……らしい。僕にしか見えないというこいつは、長く時間が経つと薄れ始め、やがて消えてしまう。

 この場所で、もしくはここに対して魔法が使用されたという確たる証拠でありながら、証拠として余りにもお粗末。他人には見えない証拠など使いものにならないからな。

 更に魔痕にはもう一つ、決定的にお粗末な欠点があった。


「魔法探偵大デュマの出番ですね。この事件を解き明かせるのは大デュマさんだけです」


 過剰に持ち上げるメアリに少しの気後れしながらも、僕は心を決めて口を開いた。


「言うほど大それた人間でもないけど……そうだね、魔法が絡んでるなら僕の仕事だ。犯人の前で、その悪行の全てを詳らかにしてやろうじゃないか。まぁ……」


 格好つけて啖呵を切ってみても、結局は何も始まっていないのだ。なにせ魔痕からは




「どんな魔法か知らないけれど」




 魔法が使われたという事実以外、使った魔法の名前も効果も、何もかも分からないのだから。

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