第十三話 十億円の使いみち
(十二月半ばの居酒屋にて)
まあ、そう言わずに、おめえも一杯ぐれえ飲めよ。久しぶりに、ばったり旧友と会ったんじゃねえか。別に医者に止められているわけでもあるめえ、おれと違ってよ。
ああ、そうさ。医者はあんまり飲むなって言うけどよ、これが飲まずにいられるかよ、ってんだ。
ふん、何でえ、その何とかサワーってのはよ。まあ、いいや、とにかく飲め飲め。チビチビじゃなくて、男らしく、グッといけよ。
ふん、まあ、いいか。
えっ、今日は何の酒かって。決まってるじゃねえか、前祝いだよ。
何のって、察しの悪い野郎だな。
おめえも出ただろ、久しぶりにちゃんとしたボーナスがよ。おれもだよ。だから、年末恒例のよ、アレを買ったんだよ。
アレって何って、決まってるだろ、宝くじだよ。
いくら買ったかって?
見損なうんじゃねえぞ。おれを誰だと思ってるんだ。全部に決まってるだろ。
そうさ。貰ったボーナス全部だよ。
ああん、バカって何だよ。
え、バカじゃなくて、バカバカしいってか。どこがバカバカしいんだよ。
金をドブに捨てるようなもんだって?
バカ野郎。誰が捨てた。こりゃあ、おめえ、投資だよ。先行投資ってやつだよ。
何だよ、当たらないって。そんなこと、おめえにわかるのか。
確率確率って、うるせえよ。
じゃあ、言わせてもらうぜ。
おめえは宝くじを買ってねえ。だから、当然、当たる確率はゼロだ。ところが、おれは宝くじを買った。買った以上、当たるか、当たらねえか、二つに一つだ。ってことはよ、五分五分ってこったよ。
え、違うって、何が?
また、確率かよ。
ああ、うるせえうるせえ。おれは数学はキライなんだよ。何だよ、サインコサインってよ。
あ、そう。それは確率と違うのか。
まあ、いいや。
でもよ、ちゃんとしたボーナスが出るのは、何年ぶりかなあ。
だから、大事にしようっていう、おめえの気持ちもわかるけどよ。この先、景気がどうなるか、わかんねえぞ。
それに、おめえだって、上司とうまくいかないとか、会社の人使いが荒いとか、こぼしてたじゃねえか。
だからよ、おれが十億当たったらよ、おめえの会社を丸ごと買い取って、おめえを社長にしてやるよ。
ああん、何、資本金百億だから、それは無理ってか。へえ、ずいぶんでけえ会社だな。
え、もっとでかい会社はいくらでもあるって?
え、え、数千億の会社もあるのかあ。
へえ。ま、まあ、いいや。
じゃ、そうだ。おめえ、男の子がいたろ?
そうそう、プラモデル好きの。あいつに戦車か戦闘機を買ってやろう。もちろん、本物のよ。
え、それも、無理?
戦車はギリギリいけるかもしれねえが、戦闘機は一桁か二桁上ってか。
じゃあ、じゃあ、おめえ、家を買いたいって言ってたな。おれがマンションを買ってやろう。それも、一棟丸ごとだ。
え、それもやっぱり、無理なのか?
うーん、そうか。
十億って案外、使い出がねえもんだなあ。




