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私と彼とホテルのパーティ

先に会場となるホテルのロビーのソファに座って待つ。

コートは既に預けてしまったし手持ち無沙汰で携帯を堂々といじる。

ワックスで撫で付けて後ろへと流した髪はどうやら落ち着いたようだ。

チーフもきちんと畳んで入れたしと確認する。

見知った顔がちらほらありその度に会釈をする。

どうせ始まれば挨拶をするのだからと互いに考えているんだろう。

皆一同に女性を連れている。

公式な場でそれは常識だがどうしても例のお節介のせいではないかと疑ってしまう。


酒井からはさっき連絡があってマンションの前に着いたという。

ここまでは30分たらずで着くはずだからあと15分ほどだろう。

パーティに時計はご法度だからとあえて着けてきておらず携帯を開いては時間を確認した。

この携帯だって始まってしまえばポケットの中で眠っていてもらうより他ない。


「やーやー、佐久間君」


野太い声に我に返って顔を上げると徳本株式会社の社長、徳本太郎が立っている。

慌てて立ち上がり頭を下げるといやいやと返される。


「悪いねぇ、呼んでしまって、いや君をぜひ他の人に紹介したくてね」


どうせなら人が集まる場所が良いだろうと思ったんだよという言葉に笑顔を作って頭を下げる。

うちはまだデカくない会社。

確かにこういう場所に呼ばれればそれだけチャンスが巡ってくるだろう。

最もそれは俺と彼女が失敗しなければの話だ。


「ありがたいお言葉です、社長」

「いやいや、本心だからね。君みたいな若者がこれからは国を支えて行くんだから」


後ろに立つ美人秘書が笑みを浮かべて彼に耳打ちをするとそれではまたねと去っていく。

その先にはこれまたデカイ会社の社長が立っていた。


やー、人脈ってすごいデスネ。


と呟きながらまたソファに座った。

こんな所に来れば自分はまだまだちっぽけだと思い知る。





「着きましたよ」


ドアが開きそっと外へ出るとテレビで何度も見たことのあるホテル。

かつて朝食を取ったホテルよりも大きいそれは立派に立ちすくんでいた。


「うえぇ」


小さく声を漏らす。

私なんかが来て良い場所では無い。

大丈夫ですよと車を預けて酒井さんが戻ってきた。

中までは一緒に来てくれるらしい。

参りましょうと三角形になった彼の腕に自分のそれを入れる。

ホテルのドアマンに頭を下げられて中へと入るとそこはもう大勢の礼装をした男女で埋まってる。

中にはテレビで見たことのある社長やら芸能人やらが集っていた。


うあぁぁっ、やっぱり、無理!!


と足を止める私を半ば引きずるようにして置かれている立派なソファの群れへ連れて行った。


「お連れしました」


と声をかける背中と頭に見覚えがある。

その後ろ姿を見ているとコートは私が預けて参りましょうとの酒井さんの申し出に急いで脱いで渡す。

振り返った彼は佐久間さんに違いなくて酒井さんがコートを受け取りながら私の手を取り佐久間さんに引き渡した。

当然のように立ち上がり私の手を取る彼の姿に見惚れる。


タキシードとまでは行かないものの黒い礼服を身に纏いライトグレーのアスコットタイをしている。

髪はいつもと違って所謂オールバック。

普段よりもずっと大人びて見える彼に胸がときめいた。






目の前に現れた彼女に心臓が跳ねた。

なんだ、これ。

めちゃくちゃ綺麗だ。

黒いシンプルなドレスは白い肌によく合っている。

下手にカラードレスでない所がまた良い。

昨日贈ったネックレスとピアスは予想通り小ぶりで嫌味を全く感じさせない。

赤く小さな唇は黒と白にアクセントを程よく与えている。


「すごく綺麗だよ」


そうぼんやりとしている彼女に告げると顔を赤らめて俯いた。


「だめ、顔を上げていて。堂々としていないと浮くから」


うぅっと小さく呻いて彼女が顔を上げる。

そうそう、それで良い。

連れて歩く女が辛気臭く俯いているのなんて許されない。


「大丈夫だよ」


目が潤む彼女を引き寄せて腕を組むとそっと歩き出した。

そろそろ開始の時間らしく人もまばらになってきた。





始まってしまえばたいしたこと無いんだなぁと思う。

乾杯をシャンパンでして後は立食パーティで、挨拶回りに行ってしまった佐久間さんを目で探しながら壁の花になっていた。

バッグは邪魔にならないようにとチェーンを用いて肩から提げてあるし左手に持ったグラスとお皿ももう空っぽだ。

ドリンクをトレーに乗せて歩いているウェイターが私のグラスと新しいのを変えてくれる。

口をつけてそれを傾け美味しいワインを飲んだ。


「こんにちは」


と不意に声をかけられて私でないだろうと最初無視した。

もう一度声をかけられて見上げると背の高い茶髪の男性。


「初めまして」


佐久間さんとはまた違った雰囲気を持つ彼に頭を下げる。

一体庶民の私に何の用だというのだろう。


「君は佐久間さんと一緒だったよね」


目の前に佇む男性が言う。

否定をしてもしょうがなく頷くと彼は目を細めて笑った。


「何も取って食おうってわけじゃないから」


ただ、君があまりにも暇そうだったから気になったんだと彼は告げる。

あぁそうか気を使わせてしまったとグラスを空けてから笑う。


「不慣れでして、お気を使わせて申し訳ありません」

「やっぱり、ね」

「分かりますか」

「そりゃぁ、ね」


はぁっと息を吐いて通りがかったウェイターにグラスを返す。

ドリンクばかり飲んでお腹がたぽたぽだ。


「あの料理は食べた?」


彼がそう指差すのは中央に配置された長いテーブルの上のひとつで、でもそれが分からなくて首を傾げる。


「ほら、あれだよ」


と言われたのはどうやらテリーヌか何かのようだ。

おしゃれなもんだわと思いながら首を振るとじゃあ一緒に取りに行こうかと私に手を差し伸べてくる。


いやいや、ちょっと待て、と思いながらもそれを断れるはずも無く、接客業で鍛え上げた笑顔で応じて右手を重ねた。

彼がゆっくり歩き始めて着いて行こうと歩き始めて足元がふらつく。


やばい。

飲みすぎたと思ったのはもう遅く体が傾ぐ。

慣れない高さのヒールが裏目に出た。


「きゃぁ」


小さく声を上げるとその茶髪の男性はすばやく私を抱きかかえるように支えてくれた。

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