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私とクリスマスイブと戦闘服

佐久間さんから声を掛けられて内心焦った。

ドレスを着る前にとストッキングだけ着て羽織るものがなくて後は前開きのパジャマの上着しか着ていない。

流石に起きている時には開ける様な無粋な真似はしなかった為、彼が出て行く音を聞きながらこたつへと入る。

高校生の頃に友達と練習した夜会巻きがこんな所で役に立つとはとブラシで髪を梳く。

さっとまとめてからワックスを塗り頭を纏めていく。

鏡が見れないので後手に触りながら位置を確かめくるくるっと巻いた。

それにこれまた立派な本真珠が連なって付いているコームを差し込む。

これだけでは不安なので手持ちのUピンをいくつか差し込んで軽く頭を振ってみた。

崩れない事を確かめて次はとカバのポーチを手繰り寄せた。

下地を丁寧に伸ばしてムラがない事を小さな折りたたみ式の鏡で確認する。

ファンデーションを伸ばしてからフェイスパウダーをはたき、ベースはこれでよしと確認。

準備金で新調したベージュとゴールドのアイシャドーを筆で乗せる。

パーティならこれくらいはと勧められたそれ。

同じく新調したビューラーで睫を丁寧に上げる。

カールが均等になった所で手持ちのマスカラを二度塗り。

太く濃くなったところでオレンジのチークを控えめに塗った。

眉毛もしっかりと描いてから前髪をワックスで纏めて横に流す。


とりあえずこれくらいで良いだろうとこたつから出てクローゼットへ戻る。

ドレスを手に取りカバーから出してサイドファスナーを下げた。

バックファスナーでなくて良かったと思う。

こんなに背中が開いているのだから一人で着るのは一苦労だった。

パジャマを脱ぎえいしょっと足を通して腕を通す。

左側のファスナーを上げればもう完成だ。


うあ、なんかすごい恥ずかしい。

手の平を団扇に見立ててパタパタと風を送る。

顔が冷えたところで箱からヒールの靴を出す。

すこし高めのそれは黒のエナメルで履き口にストーンが並んでいる。

足を入れると背が高くなった気分。

丸いパーティバッグを取り出す。

こちらも蓋の縁にストーンが並んでいて色は黒だ。

靴に似たデザインで長い銀のチェーンが中に入っている。


「とりあえずは手で持てばいいかな」


と腰の辺りで持ってみる。

うん、よさそう。


それからアクセサリーを手に取る。

これは安っぽいイミテーションの物で、あの時、デパートの担当の人がこれを勧めた理由がよく分かる。

高いドレスにコート、靴にバッグ。

それに場違いな安っぽい偽物。

明らかに合わない。

年端のいかない小娘だからかと思っていたが、今なら分かる。

彼らには佐久間さんがアクセサリーを買ったのがわかっていたんだ。


グルかよ。

と呟きその安っぽいパールをプラスチックの引き出しを開けて放り込む。

そうだ。

仕組まれていたのだと昨日貰ったばかりの平たい箱を開ける。

これをつけろと言うのだろう。

手に取りあくまで仕事なのだからと言い聞かせプラチナのネックレスとピアスをつけた。


後は白い厚手の白いファーがついたコートを取り出し、寒いのもあって上から羽織った。

プラスチックの引き出しが目に留まり開ければ隠したプレゼントが顔を出す。

渡しそびれたなぁと取り出しどうしようと考えてから持っていくことにした。


さて、と立ったままカバのポーチを開ける。

最大の悩み所は口紅だ。

オレンジ系とローズ系と真っ赤。

どれにしたらいいのだろう。

悩みながら化粧直し用のフェイスパウダーと白いレースのハンカチと携帯をバッグにしまう。


結局決まらなくて悩んでいる最中に玄関のインターフォンが鳴った。

慌てて携帯で時間を確認するともう11時前。

あわわと立ち上がり慣れない高いヒールでよたよたと玄関を開けると酒井さんが居た。


「おはようございます」

「おはようございます」


言い合い頭を下げる。

顔を上げた彼が私の胸元を見遣り笑う。


「お似合いですね」


ドレスでも靴でもない。

それはネックレスとピアスだ。

何だ、この人もグルか。

うーっと唸りたくなるのを我慢して謝辞を述べた。

バッグも持ってきているので出れますと答えると、彼は自身の唇を指差した。


「お忘れですよ」


ああ、そうだったと悩んでいる事を告げるとそれならば赤が映えましょうと答えが返ってきた。

そういうもんですかと返答するとそういうもんですと。

私よりずっと佐久間さんの、佐久間の名に仕えて来た彼が言うのだからそうなのだろうと、すこし待って貰って自室へ戻り、真っ赤な口紅を塗った。

確かに黒いシンプルなドレスには赤が映える。

口紅もバッグへと押し込み玄関へと戻った。

車までエスコートされ乗り込む。

持ってきた彼へのプレゼントを座席に置いてほうっと息を吐いた。

滅多に着ないようなファーのコートが頬にちくちく当たる。

出しますねと声を掛けられれば静かに車は動き出した。

会場となるのは一流高級ホテルらしい。

お家でやるホームパーティとは違うのだなぁと気を引き締める。


佐久間さんは会社に寄ってから先に会場へ入ったようで合流は現地となるそうだ。


それは不安だわと呟き彼の返事を待たずに窓の外を見た。

冬晴れの心地良い日差しがあたる。


外はあんなに晴れているクリスマスイブだと言うのに全く気分が晴れなかった。

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